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その17 海とスクラップブック

 海まで徒歩数分にある家で育ったけれど、近所の海は遊泳禁止で大人たちは口を酸っぱくして絶対に泳ぐな、と子どもたちに言い聞かせていたので、大人になってから初めて地元の海で泳いだ(町の海の一部は海水浴場になっているので)。長年近くにあると当たり前すぎて海を見てもああ海だな、と思うくらいだし、特に行きもしない。潮でひたすらべたべたするし、靴に砂は入るし、いろんなものがあちこち錆びているし、水難事故もよく聞くので、海は長い間ずっと好きでも嫌いでもなかった。
 でも実家から離れてからはなんとなく愛着が湧いてきた。海に近づくにつれて建物が減っていきそこから先に何もないという開放感が懐かしくて、時々帰っては海に行っています。


 というわけで(むりやり)海にまつわる話や絵や写真が好きだ。この間図書館で借りた『おーい、こちら灯台』(ソフィー・ブラッコール)は凄く凄く良かった。1900年代初頭の灯台守の暮らしが美しく細微に描かれていて、精巧なドールハウスを見ているみたい。灯台ってなんであんなに魅力的なんだろう?映画『悪人』が今もややトラウマなのだけどあれの最後のシーンも灯台だったような。『ムーミンパパ海へいく』の灯台も忘れられない。10月に上映予定の『TOVE』が今からとても楽しみ。フィンランドの灯台、いつか見に行きたい。


 ネトフリで長編のドラえもんが配信終了になると知り『海底鬼岩城』を初めて観た。ドラえもんがかぶっているあの帽子とか、バギーちゃんのあの件とかは断片的に知っていたけれど、きちんと通して観たのは初めてでとても面白かった!あの時代独特のシュールさとか、藤子さんだから説明したくなるのであろうSFっぽい説得力とか、怒涛の展開とか。ドラえもんもスヌーピーもディズニーも、昔のほうがきわどい表現やシュールな会話が多くて面白い。ピーターパンやプーさんも昔の吹き替えはもう使えないんだろうな。

 ナショナルジオグラフィック5月号の海洋特集も面白かった。鯨が好きなのでその話題はもちろん、潜水病にならないよう男性4人で狭い居住室で生活しそこから海底調査に潜っていく調査員たちの記事もぞわぞわしながら読んだ。
 昔、海中でも津波が起きているという映像を観たことがあって忘れられない。『うみぼうず』(杉山亮、軽部武宏)も、海の恐ろしさを妖怪に見立てたんだろうと思う。

 それから『うみべの女の子』(浅野いにお)も最近買って読んだ。磯部くんと海辺がかかっているの上手いな。半分エロ本だったけどラストは甘酸っぱくて良かった。どうしても噛み合わない歯車ってあって、誰しもそれを乗り越えてきているよなあと。それにしてもこれどうやって実写化するんだろう……。

 先日、ため池に落ちて這い上がれるかを水難学会の方たちが検証した記事を読んだ。海などで救助を待つ間、靴を脱いだ方かいいかどうかについて、救助した遺体の手足に無数の切り傷があり、中には骨まで見えている暗い深いものも見られ、靴は脱ぐべきではないし素手でやたらと触ろうとしてはいけない、という隊員の方の話に心底ぞっとした。水辺はやはり怖い。

 最近目に入るものが多すぎてしんどくてツイッターもアカウント消そうかなとか色々考えていたのだけど、ふと思い立って雑誌の好きな記事を集めたファイルを開いたらだいぶ落ち着いた。本当は切り張りしてスクラップブックをつくれたらよいのかもしれないけど、時間がないので好きなページを破ってランダムにファイルしておくだけ。
 手元に置くのは60ページのファイル4冊と決めていて、買った雑誌は雑誌として取っておきたいもの以外は少し経ったら好きなページだけ残してファイルに入れ、処分する。時間が経って好みや興味が変わったり、消化しきったものは入れ替える。何でこんな記事とっておいたんだろう、と頭を悩ませるのも楽しい。絵とか本とか料理とかインタビューとか服とか音楽とか雑多なジャンルの、好きなもの、好きな景色、好きな言葉、好きな人が新旧入り乱れながらどんどん入れ替わり研ぎ澄まされていくのがとてもいいなと思っている。場所もとらないので凄くお勧めです(海とは繋げられなかった)。

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