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その16 縛るもの

 ぐりとぐらやバムとケロみたいな関係って良いなと少し前から思っている。彼らは大人なのか子どもなのか、性別も明かされていない。きょうだいなのか(バムケロは明らかに犬と蛙だけど)、婚姻関係にあるのか、ともだちなのか、なんなのかよくわからないけど同居して一緒にごはんを食べている。
 彼らには所属や肩書きがない。何て身軽で何て自由なんだろうと羨ましくなるし、縛るものが何もないのに一緒にいられるのっていいなと思う。色々な人たちを見ていると、関係に名前がつくとぐっと近くなるけど壊れやすくなるケースも多々ある気がして。

 最近読んだ『指差す標識の事例』(イーアン・ペアーズ)が面白すぎて、なんとなく何も読む気になれずにいる。1600年代のイギリスを舞台にしたミステリーで、「薔薇の名前×アガサ・クリスティー」という帯に『薔薇の名前』はあっさり挫折したのでまずいかも、とおそるおそる開いたら、読みやすくてあっという間だった。
 読み始めの頃は出てくる人々の名前があまりに似ていて覚えられず、もう少し見分けやすい名前をつけてくれればいいのにとぼやいていたのだけど、登場人物がほぼすべて実在の人物なので無理な相談だったとあとあと知った。世界史の授業は毎回寝ていたくらい苦手だったので(カタカナが覚えられないから)、クロムウェルやジョン・ロックがぎりぎりかする程度の頭で読んだけれど、それでもじゅうぶん面白かったし、史実と物語が交差する感じがパズルみたいで圧倒された。どんな頭脳を持っていたらこんなものが書けるんだろう。
 物語は四人の手記で成り立っていて、四者四様信用ならない語り手なのも面白いし、それを四人の翻訳者がそれぞれ訳しているのも凄い。重要な出来事があえて抜け落ちていたり、それぞれの思惑や政治的立場が浮き彫りになるだけじゃなく、書き手によって人物描写が変わるのが忘れられない。次の章でがらっと印象が変わって、なんだこんな一面もあったのか、人の見方ってこんなものだよなって。嫌な印象をまんまと植え付けられていたある人物への好感度が一転するのは謎解き以上の爽快感だった。タイトルが意味することがぼんやりわかった部分も。手記なので、当時の身分差別、性差別的言動が悪意の欠片もなく無邪気に書かれていたのも上手かったし、この悪意のなさこそが醜悪で厄介なのだとも思った(今炎上しているらしい、とあるnoteを読んだ時も同じことを感じたりした)。だからこそ最後の一文があまりにも救いで、泣けてしまう。
 前に、中世ヨーロッパを模した架空の世界のお話を無謀にも書いてみたいと思ったことがあったのだけど、色々調べるうちに当時のインフラなど舞台設定でそうそうに行き詰まったのを思い出した。衛生状態は相当ひどかっただろうなと思うと話どころではなく……。かつらとか。

 そんな感じであんまり本を読めていないけど(あとやっているゲームが佳境)、この間寝る前に遠藤周作『眠れぬ夜に読む本』を読んだら相変わらず面白かった。「仲人は慎重に選べ」は本当に笑えるのでぜひ。

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