その9 夏らしくないけど
縁側、ひぐらし、夕立、薄暗い台所で飲む濃いカルピス、祭囃子の音、送り火、浴衣と花火の匂い……みたいなステレオタイプの日本の夏が好きなので、そんな空気の本が読みたくなる。
『天然コケッコー』(くらもちふさこ)の9巻のscene37は夏に必ず読み返したくなる、台詞のない美しい回。田舎の小さな村で夏休みを過ごすこどもたちの、泣きたくなるくらい日本の夏が詰まっている大好きなお話。
『なつのいちにち』(はたこうしろう)は昔こんなふうだったな、と本当は経験してなかったとしても体験した気持ちにさせてくれる絵本。緑と青のコントラストがまぶしい。この間、入道雲が青空にそびえているとき、その雲の下の地域では雨が降っているというのを読んで不思議と感動した。
夏の日本家屋を味わいたいときは『いるのいないの』(京極夏彦、町田尚子)。同じ怪談えほんシリーズだと『かがみのなか』(恩田陸、樋口佳絵)が大好き。宮沢賢治の『ざしき童子のはなし』も夏の話だったかは覚えていないけれど夏の薄暗い畳の部屋が思い浮かぶ。
『霧のむこうのふしぎな町』(柏葉幸子)は『千と千尋の神隠し』の原案とされているけれど、映画よりもずっと起伏が少ない。でも地に足が着いているというか、ひたむきさとかまっすぐさとか、じんわり良いものをじんわり味わう快さを思い出させてくれる。
暴力的な暑さと強烈なノスタルジー、そこはかとない死の匂い。今年の夏はあまり夏っぽくなくてさびしい。
最後に、去年の夏に「深夜の2時間DTM」で「夏休みをイメージした曲」というお題でつくった曲を貼りつけさせてもらって終わります。これつくって1年が経っているのが怖い。
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