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その20 歳をとる

 歳若い人と過ごすのも楽しいけれど、年上の、特に女性と過ごすのがとても好きだ。この間いくつか上の友人たちに「年取っちゃって」みたいなことを言ったら何言ってんの、まだ若い若いとまるで取りあってくれなかった。別の年上の知人になんでそんなに痩せていられるの、と訊くと「夜ごはんビールだけの日があるからかなあ」とか笑ってて、その軽やかさが好き。みんなよくよく話を聞けば悩んだり悲しい思いをしたり苦労したりしているのだけれど、そんなことはいちいち垂れ流さず包んでくれる。

 『木曜殺人クラブ』もお年寄りたちの身軽さ、哀しさ、奥深さがたまらなかった。老後、こんな高齢者住宅に住めたら楽しいだろうなあ。途中、ミスリードにまんまと引っかかりぞわぞわしたので読んだ方と話がしたい。
 そういえばピーターラビットシリーズの新訳が出るというお知らせを読んだ。でも、わたしはどうしても石井桃子さんの訳で読みたい。あの潔くて研ぎ澄まされた日本語にかなうものはないと思う。あと、多分根底にあるのは祖母への憧憬だ。祖母は石井さんよりだいぶ年下だけど、彼女の文章の手触りは祖母を思い出す。関東大震災のことも戦争のことも一言も口に出さず、軽やかでおしゃれで芯の強い人だった。

 『ミンネのかけら ムーミン谷へとつづく道』はムーミンシリーズの訳者としてお名前だけは知っていた冨原眞弓さんの随筆集。70年代に単身渡仏し(それだけでももの凄いことだと思う)ひたすら勉強されるバイタリティ、トーベ・ヤンソンの著作を訳したいと彼女に懸命に接触しようとする勇気に頭が下がりすぎて、自分の怠惰ぶりを少しだけ見直したくなった。トーベは日本がファンシーなムーミンのアニメをつくったことを悲しんでいるらしいと聞いていたけど、冨原さんとのやりとりや日本人から贈られた青森の刺し子の半纏を着て国際会議に出たトーベのエピソードなどを読む限りそれは事実ではなさそうでほっとした。前後して観た映画『TOVE』もとても良かったなあ。

 このよく分からない雑文も20回目。読んでくださる方、マガジン主催のアイタタさん、ありがとうございます。
 
 と下書きに書いたままだいぶ経ってしまってました……。最近読んだのは『NSA』『あの本は読まれているか』。たまたまだけど二冊とも第二次世界大戦もので、物凄く面白かった。どちらも最終章の余韻が凄い。ぜひぜひ。

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