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その11 落ち込む日には

 起きた瞬間はだいたいいつも消えたい。むりやり起きて動いているうちにだいぶ前向きになっていて、何で消えたいなんて思ったんだろうとか、風が気持ち良いなと思えたりするけど、なかなか回復しない日もある。そんな時に読みたいもの。

 絵本は絵に目がいきがちだけれど、あのやわらかくて削ぎ落されたシンプルな言葉たちに救われることも多い。ひらがなが多いせいもあるかもしれない。口に出して読んでみると言葉の瑞々しさや優しさに思わず涙してしまうこともあるのでおすすめです。
 『サウスポー』(ジュディス・ヴィオースト、金原瑞人、はたこうしろう)はちいさなふたりの往復書簡がすごくかわいい。はたさんのラフな感じの鉛筆画といっしょに眺めているとなんだか落ち着く。

 好きな世界を眺めるのもいい。『九龍城探訪―魔窟で暮らす人々』(グレッグ・ジラード、イアン・ランボット、尾原美保、吉田一郎)は写真もインタビューも圧巻で、少し寒気をおぼえながらもエネルギーをもらう。あんなに魅惑的な場所もなかなかないのでは。アンテナが乱立する夕方の屋上で遊ぶこどもたちの写真がとても好きで、なぜだか毎日のように頭に浮かぶ。死ぬまでにいつか、何かのかたちであんな世界を表現できたらいいなと淡く思っています。

 誰かの仕事場もいい。サンレコ2020年8月号の、プロ20組の自宅ボーカルREC術もすごく良かった。何度も読み返している『イラストレーターのアトリエ』はおーなり由子さんや松尾たいこさん、ウィスット・ポンニミットさん、宇野亜喜良さんなどのアトリエやインタビューが載っていて、何者でもないわたしも何かに頑張ろうと思えたり(思えなかったり)する。

 図鑑もいい。スミソニアンが出している『地球博物学大図鑑』は膨大で美しくて、眺めているだけでも自分のちっぽけさを思って「まあいいか」という気分になってくる。なぜこれが載っていてこれが載っていないの、と思うこともあるけどそれもまたいい。

 とは言っても、ほんとうに辛い時は本を開けない。音楽も聴けない。傍から見ると恵まれていて幸せそうなひとも、実は見えない傷を抱えていたりする。良いもの、好きなひとに触れながら、どうにか憂鬱を乗りこなせたらいいなと思う。

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