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心臓が止まるとき、私たちは2万Hz以上の音を聴いている

ウーンと唸って首を傾げて考え込んでいる。
昨晩、仲さんのnoteを読んでからずっとこんな調子だ。
仲さんめ、風邪気味だというのに夜更かししてしまったではないか。

未読の方はぜひ読んでほしい、面白いから。

この記事中で仲さんは嶋津さんに課題を出す。

上記を踏まえて、2万Hz以上の音、これをもう一度文章で表現してみてください。
これを私からの課題とします。

人間の聴覚でぎりぎり感知できる周波数(≒音の高さ)2万Hz。
それを超えた、人間がどう足掻いても知覚することのできない音を言葉で表せと。

仲さんは参考に、距離感を説明する文章を例示している。
8000mとはどのぐらいの距離なのか。
8000mとはネパールの山々の高さと同等である。
唖然としてしまう大きさのネパールの山々を田中泰延さんはこう表現した。
夏にみる巨大な入道雲、あの大きさ、高さ、だと。

ここまで読んで、私は「ずるい」と思った。
だってネパールの山も、巨大な入道雲も、目で見ることができるんだもん。
音の説明よりもずっと簡単じゃないか。
音は目に見えない。
人間が聴くことのできる2万Hz以下の音も、2万Hz超の音も。
ネパールの山と入道雲の例を出すなんて、ずるいぞ。

仲さんの「やさしい」ヒントのせいで私の闘志に火がついた。
2万Hzを超えた、人間には知ることができない領域を文章化してやる。


ウンウン唸って一晩考えて出した答えを書く。
一晩とは言ったが夜はしっかり寝た。寝て起きたら思いついていたから、寝ていた私が考えついたものだ。よく頑張った。
いくよ。

先ほど「音は目に見えない」と書いたが、音を波形として捉えて目に見える形に落とし込むことはできる。
音をうねうねした波線にすると、そこには山と谷ができる。
山、谷、山、谷、山、谷、山、谷、
その高低差と音の大きさは同義だ。山が高ければ高いほど、谷が深ければ深いほど、音は大きくなる。
音の高さは、山と谷の間隔に表れる。
山と谷の間隔が広い、つまり音の震えがゆっくりだと低い音になり、間隔が狭い、音の震えが速いと高い音になる。
ゆらゆらゆったり揺れているときは低い音が出て、プルプルカタカタと小刻みに震えているときは高い音が出ているイメージ。

ここまでが音の解説。

これを踏まえて2万Hzを超えた音を文章化すると。

2万Hz超の音とは。
圧倒的な芸術に触れて、自身の心音さえも聴こえない静寂に包まれる時間である。

……うーん、補足説明が必要な文章だ。
田中泰延さんと私との間に圧倒的なレベルの差があるのを見せつけられた気持ち。
うん、補足説明します。ダサいけど。

音楽でも演劇でも、キャーと黄色い歓声を上げたり、すっっごいよかったねー、とキャッキャしながら感想を言い合うような、感情を高ぶらせる「心をうつ芸術」がある。
受け手が興奮すればするほど、心拍数が上がり、最大までドキドキするとそれは可聴音ギリギリの2万Hzに届くかもしれない。

世の中には「心をうつ芸術」を遥かにしのぐ「圧倒的な芸術」が存在する。
すごい!かっこいい!キレイ!だなんて言葉が出てこないそれは完全なる静寂。

私にも経験がある。それは歌舞伎だった。
京都南座の花道脇に私は座っていた。
舞台後方、シャリンと音を立てて開いた揚幕の奥から、姫の姿の尾上菊之助さんが歩み出る。
すっ、すっ、と花道を歩む菊之助さん。
その姿が大きくなるにつれ、私の心臓は忙しく脈打ち、手の届きそうな距離まで菊之助さんが近づく頃には早鐘のようだった。1.9万Hzだ。

お姫様が歩みを止める。私の真横で。
白粉の香りがふわりと漂い、うつむいたその眼差しが私を捉える。
その瞬間すべての音が消えた。自身の心臓さえ止まってしまったかのようだった。
私は「圧倒的な芸術」を前にまったく動けなかった。

そのときたしかに2万Hz超の音を私は聴いていたのだ。


長い。長いな。私は答えに満足していない。
この課題はとても難しい。


嶋津さん、いかがでしょう。
私の出した答えは以上です。
仲さんが他の人の答えを聞くための課題です、と言っているので嶋津さんに引用通知が飛ぶようにしておきますね。


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