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レザレクションヒルズ〜奇跡の冷凍庫創業記

「こいつはダメだったか」
業務用冷凍庫の中身に向かってボスは吐き捨てた。
「ここに入れて蘇生したのは、丸豚と丸山羊と」
僕。

二週間前の品出し中、箱積みに失敗してワインを大量に割ってしまった僕にボスは怒り狂った。長い説教@バックヤード。説教は深夜に及び、他の社員やバイトが帰宅してもネチネチと続いた。その日のボスは特別に機嫌が悪くて、怒るために怒りを生産し続けていた。

「そろそろおしまいにしませんか。奥さんもおうちで待っていますよ」
「ア!別居のこと知ってて馬鹿にしてんのか!」
ボスは割れたワインの瓶を手に取ると、僕の側頭部をフルスイングで殴った。ばごん。


「お前は完全に死んでたんだがな。店舗マネージャー権限を駆使して必死で隠した。一日目はそのままゴミ袋に入れてたんだが、腐らせたら臭いでバレると思って二日目に冷凍庫に入れたんだ。そしたら三日目に生き返ったのよ。さむいさむいさむいっつってお前が内側から扉を開けて出てきたときは仰天したぜ」

深夜の倉庫型スーパーの中央、庭用物置の中に隠された冷凍庫。冷凍庫の中で蘇生した僕。狭い物置の中で僕と対峙したボスは数秒の沈黙ののちに叫んだのだ。これはビジネスチャンスだ、って。

「愛する人や要人を生き返らせたい人に復活サービスを売る。この冷凍庫でユーザー体験を売るんだ。なに、心配ない。時代を変えるような新しいビジネスはいつだって最初はグレーなものなんだ」

自信満々なボスの空気に触れて、僕も起業家メンタルが身についた。ビジネスを軌道に乗せるため、まずは蘇生条件と成功確率を調べなければならない。入荷されてきた丸豚と丸山羊で動物実験は成功し、次は人体実験。「冷凍庫に入ってみないか」と駆け出しYouTuberに声をかけ、乗ってきた「ケント学長」を殺して冷凍庫に入れた。
ケント学長は冷凍庫でぴくりとも動かない。

誰もいないはずの深夜のスーパーに声が響いた。

「あのぉケントの母です」


<つづく>

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