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わたしが引き金に指をかけるとき

ごめんね。今日の私は鬼の形相だよ。


私は強い。
権力や影響力があるとかそういう話ではなく、人の心をつらぬくような言葉を放つことができる、それを自覚しているという意味だ。

だから普段、不特定多数に向けて強い言葉を使わぬよう、細心の注意を払って過ごしている。
群衆の中で銃を乱射するような真似はしたくない。


そんな私でも、人を撃つことがある。
相手が先に撃ったときだ。


具体的な話をしよう。

いじめられっ子だった私に同窓会で再会した元いじめっ子が、当時のノリでお前は俺より下なんだよと言いきかせるように小馬鹿にした口調でしつこく話しかけてきた。
冷めた目で私は銃口を彼に向け、静かに引き金を引いた。
「相変わらず失礼だな。」
彼は青ざめて口をつぐんだ。

飲み会で酔っ払った年上の同僚が、私の胸を鷲掴みにした。一度拒否したのにも関わらず2回も。
怒りを込めて銃を構えた。
逃げる同僚の背中に7cmヒールで飛び蹴りを食らわせたあと、ロングシュートを打つサッカー選手のごとく尻を蹴り上げた。前から蹴らなかっただけありがたく思え。
(「逆にご褒美〜」とニタニタ笑われたのは不快だった。やはり前から蹴ればよかった。)


知っている。
自分で引き金を引かなければ、誰も守ってくれないということを。

いじめられていたときは、いじめっ子がどんなに酷いことを言おうがしようが、誰も庇ってくれなかった。私は血を流してうずくまるしかなかった。

セクハラ(胸を掴むのはすでに性犯罪)を相談するための会社の窓口はあった。でも直属の上司は楽しそうに言う。英雄色を好む。
さらに上の立場の上司は私に懇願した。窓口に直訴するのはやめてくれ、俺の首が飛んでしまう。その上司とは仲がいい。私はぐっと悲しみを飲み込んだ。


とはいえ、よっぽどのことがなければ銃は出さない。

考え方の相違による意見交換はむしろ歓迎だ。

チクっとする言葉を投げかけられても、相手にも何か事情があるのだろうと静観するだけの冷静さはある。

満員電車で密着しているおじさんが、勃起状態で電車の揺れに逆らうように身体を押し付けてきても痴漢だと声をあげることはしない(できない)。

我慢ぐらい日常的にしている。
私が銃を取り出すことは滅多にない。


そんな私が比較的早い段階で引き金に指をかけるとき。
それは、大切な人が傷つけられているのを見たとき。

不思議だ。
手で触ってないからセーフ、みたいな痴漢に自分が被害にあっているときは我慢してしまうのに、大事な人がやられているときは我慢がならない。
テメェ、勃起状態でくっついてんならアウトじゃねぇか。
撃たれる覚悟でやってるんだろうな?


あなたは強いのだから、それぐらい我慢すべき。
あなたは強いのだから、それぐらいでは傷つかないでしょう。
弱い人はいたわってあげねば。
うるせぇ、強者も傷つくわ。
弱者を気取って隠れてるあんたと、私も同じ人間だわ。


昔は銃を持たず、撃たれても血を流しながらぐつぐつと相手を呪うしかできなかった。
人生経験を積み、上手に自己主張ができるようになっていき、ふと手を見るとそこにはいつの間にか銃があった。
その経緯はこちらのお手紙noteに書いてある。

「知らんがな」のマインド。
それを手にしてしまった私は、撃ってしまった相手が血を流しているのを見ても何も思わない。
そっちが先に撃ったんだろう。
殺される気で、お前も撃ったんだろう。
私だって相討ちする覚悟で銃を撃ったんだからな、って。

私にはできない。アフターケアなどしてやれない。

だからこういうときは周りにいる人に役割分担を頼みたい。
優しく傷を舐めてくれる人、私の近くにたくさんいるね。
そういう人は引き金を引くことはできないだろう。
引き金を引くのは私がやる、傷の手当は優しい人にお任せしたい。

どうぞ、よろしくお願いいたします。




あとがき

基本的に「言動は安全圏から」がポリシーの私ですが、たまに軽々と境界を飛び越えて前線に行ってしまうことがあります。
そういうときってどんな心境なんだろう?と自己分析してみたついでに、ハードボイルド口調なnoteにしてみました。(昨日書いたパルプ小説の影響が抜けきっていない。)
口汚く、怒りを撒き散らす風の文を一度書いてみたかった。

怒っているわけではないので、キレ芸だと思って読んでくださると幸いです。

♡を押すと小動物が出ます。