ローマの路は何処(後編)

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聞き慣れない、暴走族かと突っ込みたくなるようなけたたましいサイレンの音。

あまりの激痛で朦朧とした意識の中にいたわたしの頭に、一瞬「死」という言葉がよぎった。

私が死んだらどうなるかな、なんて悲劇のヒロインのような気持ちに浸り、思考がトリップ。

ほんの一瞬だが、私は痛みを忘れていた。


なのに。







「~~~~~~~~~♪♪♫~~~~~~♬」





彼は、鼻歌を歌いながら私の腕に黒いバンドをいくつも巻き始めたのである。

イタリア人であろう、顔立ちがひどく整った救命士の彼は、これまたクレオパトラかと突っ込みたくなるような美女の救命士と談笑しながら私の処置をテキパキとこなしていく。


ああ、私死なないのね。

死ぬくらい重篤なら流石にイタリア人でも歌わないよねえ。。。


どうりで走馬灯が見えないはずである。

死ぬかも、と思ったときより激痛がさらに増した気がして、

生きるって痛いことなんだなあなんてことを考えていた。


病院に到着して、30分ほど。

CT室で、頼むから横にしないでくれ痛い痛いとつたない英語で泣き叫んでいた。

"Don' t move."

録音の音声アナウンス。意味は流石にわかる。

しかし痛すぎて無理なんだと叫んでいたところ、こいつは英語が全く通じないと思われたらしい。


"ウゴカナイデ クダサイ"


日本語の音声もあるのか。。。

必死の訴えも虚しく、機械に押さえつけられCTを撮った。


いくつもの検査室に運ばれながら、いよいよもう無理やっぱり死ぬんじゃないかと思った時、ふくよかだけど怖い顔した看護師が渡してきた2枚の紙とペン。

どうやら腹腔鏡手術という手術になるらしい。

渡されたのは、緊急事態のための同意書たちである。

1枚は開腹手術への同意書、

1枚は輸血への同意書。

周りの勢いと止まない激痛に押され、ようわからんままイタリア語の同意書にサインし手術室に運ばれていった。


あれ、もしいま輸血されたら、イタリアの血が入ってこの薄い顔の彫りが深くなるのかn。。。


全身麻酔によって、しょうもない思考はものの数秒で中断された。












結論から言えば、薄い顔の彫りは深くなっていなかった。

輸血も開腹もすることなく手術は成功し、4日間の入院生活が過ぎた頃のことである。

回診を終え、同意書を渡してきた件の看護師がひとり病室に残り、

"Go home."

と告げた。

あいも変わらずふくよかだが怖い顔だった。


回診にて、抜糸までの1週間の安静ね、と言われた直後のことである。

うーん、homeなんかここには無いんだけどなあ。。。アイムジャポーネ。。。


兎に角病院にはいられないので、入院中にずっとサポートしてくださっていた通訳さんに紹介していただいてヴェネツィア郊外の小さなホステルに移った。


結果的には、これがラッキーだった。

ケロッと体調が回復した退院後の1週間は、まちをのんびり歩いたり本島まで足を運んだりと毎日を休日のように幸せに過ごしていたからである。

画像2

憧れのローマの休日ごっこは叶うことはなかったが、ちょっと(かなり)違う形でヴェニスの休日となった。

誰かに「一番記憶に残った都市は」と質問されたら、私も"Veniz!! By all means ,Veniz. ”と食い気味に答えると思う。

(誰もそんなこと質問しないし、倒れたせいでミラノとヴェネツィアしかいなかったし、そもそもこのうっすい顔でアン王女の真似事を気分でも味わうのが分不相応甚だしい、なんてことは言わないで欲しい。わかっている。)



それはさておき、多分ここまで読んでくださった方の中で、一番気になってる点があるのではないかと思う。


「お金、大丈夫だったのか?」

お金


これは、帰国後に様々な方々から体調とともに心配していただいたことだった。

なので、この質問に対する答えをここに改めて書いておく。


保険でぜんぶ、なんとかなった。


手術費や入院費のみならず、1週間の滞在費、通訳さんへの謝礼。。。食費以外は殆ど全てと言っていいほどちゃんと保険金がおりたのである。

なんなら、帰国の飛行機はちゃっかりビジネスクラスにも乗せてもらった。(機内食美味かった)


だから私は、とにかく、私の大事な人達に対して、保険に入って旅に出てくれ、と心から願っている。

(べつに回し者でもなんでもないし、知識も殆ど無いのは重々承知なのだけれども、この世界に保険に代わる何らかの良いサービスが出来ない限りは、ね)


行く前はなんとかなるっしょ、ってなる感覚が多分ふつうだ。

これを書いてる私ですら、次の旅行での保険をかけるのを危うく忘れそうになっていた。喉元過ぎればガールの典型である。

でも、ちょっとのお金をケチったせいで命を失うなんてあまりに馬鹿馬鹿しい。

頼むから元気で帰ってきて欲しい。

だから、ウザいと言われてもいちいち私は私の大事な人に伝えることにする。


お願い、怪我しないで、元気でいて、一応でいいから保険入ってから旅立って。






お金問題については以上だが、結局のところ、ローマへの路はまだ私の路とは通じていなかったらしい。



一日にしてならず、という言葉が身に沁みるこの頃である。



















なんだよ走馬灯どこだよ。








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