ロス・インディオス・タバハラス

 車のiPodからこのアルバムの曲が流れた。ロス・インディオス・タバハラス、懐かしい。このアルバムをポチったのは多分、ザ・ピーナッツの伊藤ゆみさんが亡くなったときのことだった。
 YouTubeでザ・ピーナッツの動画を見ていた最後に「シャボン玉ホリデー」のエンディン・テーマに触れた。いつもスタジオの街頭の下でザ・ピーナッツがホーギー・カーマイケルの「スターダスト」を歌う。そこにハナ肇が出てきてMCを務め、下品なジョークを言ってザ・ピーナッツの肘鉄砲を喰らう。画面から三人がはけるとシルエットのギタリストがスターダストを奏でる。
 そのシルエットは犬塚弘にも見えたし、クレイジーのギターだから植木等のようにも思える。そのギターがロス・インディオス・タバハラスのものだと知ったのは相当後になってから。シルエットは確か犬塚だったと記憶している。
 そしてこのCDをゲットした。ロス・インディオス・タバハラスはブラジル北東部の大西洋岸の先住民タバハラス族出身の兄弟デュオである。アコースティックでソロとリズムを奏でる。40年代から活動を始め50年代にはアメリカに上陸して成功する。特にこのアルバムの1曲目、彼らの最大のヒット曲である「マリア・エレーナ」はビルボードのヒットチャートで63年11月16日に第6位まできている。試みにこの時のベスト5はというとこんな風になる。

1.Deep Purple Nino / Tempo & April Stevens
2.Sugar Shack Jimmy / Gilmer & the Fireballs
3.Washington Square / Village Stompers
4.I'm Leaving It up to You / Dale & Grace
5.It's all right / Impressions

音楽之友社:『ビルボード・ナンバー1・ヒット』(上) フレッド・ブロンソン著・かまち潤監

 1位から4位まで知らないが5位のインプレッションズはカーティス・メイフィールドがヴォーカルを務めていたソウルグループだ。こういうところに中南米のインストルメンタル・グループの曲が入ってくるのだからアメリカのヒット・チャートも面白いと思う。

 当時この曲は日本でもヒットしたらしいのだが、多分その受容はムード・ミュージックということになるのだろう。同じギターということでいえばクロード・チアリと同じような括りなのかもしれない。アメリカではというとイージー・リスニングというジャンルがすでに存在していたのでそういう範疇だという。
 余談も余談だが、63年のビルボードのチャートはけっこう多様性に富んでいる。1位の曲を書き出すとけっこう面白いものがる。

・GO AWAY LITTLE GIRL / STEVE LAWRENCE 1.12 2WEEKS
WAIK RIGHT IN / THE ROOFTOP SINGERS 1.26 2WEEKS
HEY PAULA / PAUL AND PAULA 2.9 3WEEKS
WALK LIKE A MAN / THE FOUR SEASONS 3.2 3WEEKS
OUR DAY WILL COME / RUBY AND THE ROMANTICS 3.23 1WEEKS
HE'S SO FINE / THE CHIFFONS 3.30 4WEEKS
I WILL FOLLOW HIM / LITTLE PEGGY MARCH 4.27 4WEEKS
IF YOU WANNA BE HAPPY / JIMMY SOUL 5.18 2WEEKS
IT'S MY PARTY / LESLEY GORE 6.1 2WEEKS
SUKIYAKI / KYU SAKAMOTO 6.15 3WEEKS
EASIER SAID THAN DONE / THE ESSEX 7.6 2WEEKS
SURF CITY / JAN AND DEAN 7.20 2WEEKS
SO MUCH IN LOVE / THE TYMES 8.3 1WEEKS
FINGERTIPS(PT.2) / LITTLE STEVIE WONDER 8.10 3WEEKS
MY BOYFRIEND'S BACK / THE ANGELS 8.31 3WEEKS
BLUE VELVET / BOBBY VINTON 9.21 3WEEKS
SUGAR SHACK / JIMMY GILMER AND THE FIREBALLS 10.12 5WEEKS
DEEP PURPLE / NINO TEMPO AND APRIL STEVENS 11.16 1WEEKS
I'M LEAVING IT UP TO YOU / DALE AND GRACE 11.23 2WEEKS
DOMINIQUE / THE SINGING NUN 12.7 4WEEKS
THERE! I'VE SAID IT AGAIN / BOBBY VINTON 1964.1.4 4WEEKS

音楽之友社:『ビルボード・ナンバー1・ヒット』(上) フレッド・ブロンソン著・かまち潤監

 今ではポップスのスタンダードナンバーとなっている「GO AWAY LITTLE GIRL」、「HEY PAULA」、「SO MUCH IN LOVE」、「BLUE VELVET」などの中に天才少年スティーヴィー・ワンダーの「FINGERTIPS(PT2)」が入っている。63年はそういう年だったのだ。
 そして懐かしくも、また日本人として初めて全米チャート1位となった坂本九「上を向いて歩こう」が6月15日から堂々3週1位を続けた年なのである。その後、アメリカ進出を図った数ある日本アーティストは誰も果たしていない。アジアのアーティストでは2020年に韓国のBTSが57年ぶりに到達している。ただしレコード・セールスが全てだった当時と現在では音楽シーンは別物になっているともいえる。
 そして12月7日から4週続けて1位となった「DOMINIQUE」が多様性とともに異色中の異色ともいえる。このSINGING NUNは、ベルギー、ブリュッセルの修道院の尼僧たちだったのだ。もともと1961年に若い尼僧たちが夕方に歌える曲を作ったと言ってブリュッセルのフィリップス・レコードに100セットレコードをプレスして欲しいと依頼した。その時期がクリスマス時期だったのでフィリップス・レコードはいったん断った。その三か月後に再度尼僧たちはフィリップスに頼んだところ、フィリップス・レコードは採算度外視でレコーディングを行った。
 そのメロディをフィリップスの幹部が気に入りアルバムを数千枚をプレスして販売するとヨーロッパでヒットする。そしてアメリカでも販売されるが最初はまったく注目されなかったが、この「DOMINIQUE」がシングルカットされると一気にヒットチャートを駆け上がったという。
 この曲は日本でも大ヒットしたので、子ども心にけっこう覚えている。多分歌ったりもしたのではないかと思う。

 そして翌年、「DOMINIQUE」の4週の後をうけてボビー・ビントンが「THERE! I'VE SAID IT AGAIN」を4週ヒットさせる。その次にやってくるのは都合3曲で14週ヒットチャートの1位を独占するスーパーグループである。そうビートルズが全米チャートに登場したのだ。

・I WANT TO HOLD YOUR HAND 1964.2.1 7week
SHE LOVES YOU 3.21 2week
CAN'T BUY ME LOVE 4.4 5week

音楽之友社:『ビルボード・ナンバー1・ヒット』(上) フレッド・ブロンソン著・かまち潤監

 1963年はビートルズの出現前夜という年であり、そして日本人の歌う軽快なポップス、よりにもよって親しみやすいというただそれだけの理由で名付けられ「SUKIYAKI」が、さらにはベルギーの尼さんグループが歌った曲がそれぞれ大ヒットした年だったのだ。
 そういう時代にブラジルの先住民が民族衣装に身を包み、哀愁と抒情性あふれるそれでいて妙に洗練された美しいインストルメンタル・ナンバーをヒットさせたのだ。
 スタン・ゲッツがジョアンとアストラッドのジルベルトをフィーチャーした「イパネマの娘」をヒットさせたのは翌64年の7月で最高5位のことだ。ロス・インディオス・タバハラスのインストルメンタルはボサノバがヒットする露払いであったのかもしれない。
 ロス・インディオス・タバハラスはアンテノル・リマとナタリシオ・リマという兄弟二人組によるグループ。アンテノルは1979年に引退して1997年に他界。ナタリシオは1990年まで演奏を続けたが2009年に亡くなっているという。

 20世紀の遠い昔のポピュラー・ミュージックについてみたいな話になってしまった。最後にやっぱりこのグループの名演奏「スターダスト」を聴いてみたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?