【童子切り・習作】
刀を携え雑踏を疾走する。車を跳び越えビルの壁を駆け上がり屋上から屋上へ飛び移る。「ニンジャガール!」と外国人観光客が指さし、若者達はスマホのカメラを向ける。笑って投げキッスなどしてやる義理も余裕もない。リョウガは今、巨大な敵と死闘を繰り広げているのだ。
人間の目には映らない異形。リョウガはそれと闘うことを宿命付けられた家系に生まれた。それを屠ることだけを教育され十六年。しかし初めての実戦は修練のように容易ではなかった。
巨躯の異形は執拗にリョウガを追う。リョウガは一般人に被害が及ばないよう細心の注意を払って闘わなくてはならない。その異形は人間を喰らう。そしてその血は人間に呪いをかける。異形の血を浴びたものは異形になるのだ。
「いいこと教えてあげようか」
いつの間に背後を取られたのだろう。リョウガは異形の豪腕を躱し振り返った。白ずくめの少年が立っている。半分驚き、半分腹が立った。
「退け。今忙しい」
「そんな事言っていいのかな。その刀じゃアレは倒せないよ」
リョウガは目を剥いた。見えるのか、あの異形が。
「いいかい、怪物には倒し方がある。吸血鬼は心臓に杭を刺す。狼男には銀の弾丸を撃ち込む」
「何が言いたい」
「鬼には鬼の弱点があるってこと」
おっと、と少年が飛び退る。異形の攻撃ではない。リョウガが刀の切っ先を突き付けたのだ。
「お前が何故あれが見えるのか、そんなことはどうでもいい。言え。どうすればあれを屠れる」
「いいよ。それを教えるために来たんだもの。簡単なことさ。鬼の血を浴びて鬼になるなら、人の血を浴びた鬼はどうなると思う?」
「奴らは人喰いだ。どうにもなるまい」
ちっちっち、と少年は指を振った。
「ただ浴びせたんじゃダメさ。臓腑の奥の核に届かなきゃ。例えば、刃物に人の血を塗って突き刺すとか」
リョウガは刀に目をやり、次に少年を見た。少年は微笑む。
「さあ、どうする?」
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