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『特殊条件』でも必要な「強さ」を考える #アイビスサマーダッシュ 分析

今週はアイビスSDになります。タイミング良くアプリ版ウマ娘ではカルストンライトオが実装され、新潟芝1000m、通称「千直」で対人戦のイベントも開催されています。世間一般では夏休みでもありますし、より多くの人がこの重賞に注目しているのではないでしょうか。

このレースは夏の風物詩とも呼べる重賞で、荒れる夏競馬を象徴するかのように、順当に決まる年が少ないです。このコース、このレースだけで使える傾向が幾つかあり、その傾向通りに脳死で買うのもまた一興ですが、今回は「なぜその傾向が生まれるのか」という分析をしながら攻略していこうと思います。

最終稿としての予想や買い目も上げますが、先立って、出走馬の中で本命候補としたい馬、狙いの穴馬としたい馬をそれぞれ1頭ずつ記載しておきます。土曜夜には買い目を公開しますので、ご覧いただく皆さまの予想の参考となれば幸いです。

2024-07-27 23:05 追記

予想と買い目を更新しました。

〜千直といえど大枠は「スプリント」〜

日本競馬における芝1000m競走は、現行のレース体系だと函館芝1000m(2歳限定)と新潟の直線コースしか存在しません。そのため、ある程度限定的な予想をすべきなのですが、大前提として芝の5F競走という点は重視すべきです。

アイビスSD自体、過去10年の内9回で三連単で万馬券が出ており、荒れるイメージの強い重賞ではありますが、単に強いスプリンターが出ていないだけの事。第1回競走の勝ち馬メジロダーリングは、その後のスプリンターズSでも2着に入る活躍を見せましたが、2013年の勝ち馬ハクサンムーンを最後に、このレースからGⅠ戦線で活躍するような馬は現れていないです。開催以降から振り返っても、アイビスSDの勝ち馬でGⅠでも好走するような馬は、片手で数えるほどしか居ないんですよね。

勿論、1000m直線コースとコーナーがある中京や中山との親和性は少ないように感じますし、その辺りは致し方無いとは思います。しかし、もし仮にサクラバクシンオーが出走すれば圧倒しているだろうというのは目に見えているように、強いスプリンターであれば枠順や斤量の条件を無視して好走できると思います。昨年は出走18頭での開催でしたが2→5→1枠の決着であったように、予想をする上での基本線はスプリント能力に依存しているのは確かです。

アイビスサマーD レース結果 | 2023年7月30日 新潟11R - netkeiba
https://db.sp.netkeiba.com//race/202304020211/


〜ダート馬が強い理由〜

千直はダート馬が走る」なんてのはよく言われている話ですが、先述の強いスプリンターが出走していない点が起因しています。これではダート馬が走る要因として説明不足なのでより掘り下げると、スプリンターの強さにおける「スピード能力」と「追走力」のうち「追走力」で優位を取っているためです。この2要素に関して軽く触れておきます。

五輪シーズンなので陸上競技に例えると、ウサイン・ボルトが100mを走るペースでフルマラソンを走りきれないように、距離に応じて最速とされるペースは異なるのが生物として当然の理論になります。各距離におけるJRAレコードタイム、および200m辺りのラップタイムを並べると以下の通りです。距離が短くなればなるほど200m辺りのラップタイムも短くなっているのが分かると思います。

JRAレコード

1000m:53.7(カルストンライトオ)
1200m:1:05.8(テイエムスパーダ)
1400m:1:19.0(マグナーテン)
1600m:1:30.3(トロワゼトワル)
1800m:1:43.0(マスクトディーヴァ)
2000m:1:55.2(イクイノックス)
2200m:2:09.0(プリマヴィスタ)
2400m:2:20.6(アーモンドアイ)

200m辺りのタイム

1000m:10.74
1200m:10.96
1400m:11.28
1600m:11.28
1800m:11.44
2000m:11.52
2200m:11.72
2400m:11.71

https://jra.jp/JRADB/accessW.html

1000mのレースであれば、200m辺り11秒を切るようなラップタイムが求められる訳ですが、このラップで走破するには脚の速さが足りないという馬は多いかと思われます。競走馬におけるスピード能力は絶対的なもので、鍛えてどうこうというものでありません。タイトルホルダーがどう頑張ってもマイルやスプリントを走れないように、スプリンターであっても1000mクラスのタイムトライアルには適さない馬も居ます。あくまでそれは個性の話。そういう馬が千直に出ないのも相まって、ほぼ全馬がスピード能力的に苦しいレースを強いられる形となります。

より重要なのは、200m辺り11秒を切るペースで走る事がオーバーペースになるかどうかです。「追走力」という指標で示されるものですが、これに関しては鍛える事が可能なもの。前半から頑張るレースの経験値の差が出ているのは明らかで、以下に記載の各コースにおける前傾値(後半÷前半)の平均値を見れば視覚的にも分かりやすいと思います。

各コースにおける前傾値(後半÷前半)

中山芝1200m:101.1%
中京芝1200m:98.9%
阪神芝1200m:98.8%
京都芝1200m:97.4%

中山ダート1200m:107.5%
中京ダート1200m:104.5%
阪神ダート1200m:103.6%
京都ダート1200m:103.3%

コースの形態による数字の差はありますが、基本的にダートレースの方が前半から頑張る度合いが高いです。勿論、各馬が経験したペースというのは異なるので、予想をする際には個別に考える必要こそありますが、ダート馬が走る要因として、スピード能力的に苦しいレースであっても、より耐える・頑張る力に長けている、力を鍛える土壌があるというのは念頭に入れておきたい点。

だからと言ってダート馬を無条件に評価するのではなく、本質的にはスプリント能力が優劣を定めます。ペースが上がらなければどの馬も力は出せますし、ペースが上がって差し馬が相対的に楽をするというのも起こり得る話。今年に限っては、テイエムスパーダ、ウイングレイテスト、ジャスパークローネ、モズメイメイと1200〜1400m重賞を逃げて勝った馬が揃っているため、それなりにペースは流れると推察します。

これは余談ですが、前述の理由によりリピーターも強いです。このコースだけしか走らないという馬も多いので、過信自体は禁物ですが。


〜実質馬番と枠順〜

1000m直線コースは明確に外枠有利です。コーナーが存在するコースであれば、馬場の内側の方がコースロスが少なく通る馬が多くなるため、必然的に馬場が荒れない外側の方が有利になります。ただ、内枠が不利かと言えばそうでもなく、18番枠を起点として外詰めでゲートインするため、頭数に応じて内枠が外側になります。5頭立てのレースであれば、実質的な馬番は18頭立てのレースにおける14番枠になる訳なので、明確に不利が出るのは15頭以上の多頭数になった場合のみです。

はやぶさ賞 レース結果 | 2024年5月11日 新潟9R - netkeiba
https://db.sp.netkeiba.com/race/202404010509/

以前Mahmoud氏が1000m直線コースにおける実質馬番別の入線率を算出していましたが、いざ数字を出されるとここまで酷いのかと疑いたくなります。有馬記念の8枠が走らないのは単に強い馬が入らない点が大きいですが、こちらは明確に欠陥コースと言える極端さです。有料記事にはなりますが、無料部分で概ね分かるので是非ご覧ください。

強ければ内枠でも積極的に買いますが、基本的に外枠から買うのがベター、いやベストと言えます。ただ、外枠によりパフォーマンスが上がる訳ではないですし、あくまで枠順自体はパフォーマンスの低下率を考えるための一尺度でしかありません。内枠でも強い馬は強いように、外枠でも強くなければそれまでです。

では、ここまでを踏まえ、本命候補と狙いの穴馬をそれぞれ1頭ずつ記載していこうと思います。


●本命候補:ウイングレイテスト

トップハンデの馬から選出となりますが、パフォーマンスの質は非常に高いです。前走は初の1200m戦でかつペースも流れましたが、外目から先行して勝ち馬と0.2秒差の惜敗でした。勝ちに等しい内容だったと思いますし、昨年の阪神Cでは前傾値106.6%という強烈な逃げを打ち、勝ち馬と0.3秒差まで踏ん張っていた点も評価したいです。平均ラップの上がる1000mへの対応力は鍵ですが、秋以降のGⅠレースも含めて楽しみな1頭。出来れば長い目で応援したいです。


●狙いの穴馬:デュアリスト

人気が想定されるチェイスザドリームと同じ、ダートスプリントの先行馬です。3歳時から強烈な追走経験があり、2021年のNST賞ではレースラップで前傾値112.8%、自身のラップでは前傾値115.8%と自滅的なペースを刻んだ事もあります。特筆すべきは昨年の安達太良ステークスで、チェイスザドリーム55キロ(牝馬)に対し、自身60キロのトップハンデながら0.1秒差に残す好走を見せました。同斤量となる今回は逆転があっても良さそうです。自身も騎乗経験のある福永祐一師がここを選んだ辺り、構想し得る要素があると見極めての事でしょう。改めて期待したいです。

最終的な予想や買い目は土曜夜に更新を予定しています。夏の祭典を楽しんでいきましょう。


予想・買い目

◎ウイングレイテスト
○デュアリスト
▲グレイトゲイナー
△チェイスザドリーム
☆ジャスパークローネ


予想軸
能力40:TB40:展開20

買い目
⑫⑭-④⑨⑫⑬⑭ 馬連7点

新潟競馬場はかなりの高速馬場で、後ろからの差しも届くものの前に行けば簡単には止まりづらいです。大外に入ったテイエムスパーダの出方次第ではありますが、2F目から爆発的に速いスピードが出て、そこからの耐久戦になると思います。全体的な追走力が求められるのは勿論ですが、脱落した馬を差してくる展開も考えられますが、展開面としてはある程度決め打ちをしていこうと思います。

今回は追走力に優れた馬を5頭選びました。先述のウイングレイテストやデュアリストもそうですが、グレイトゲイナーも苦しい追走経験があります。3年前ですが同レースで5着の実績もありますし、そこからは強くなっているのは確かなので、期待は持てると思います。チェイスザドリームに関しては流石の追走スピードで、韋駄天Sの相手が斤量増の中、勝ったこの馬のみが据え置きなのはまあ人気しても仕方無いかなと。スプリンターズSで4着のジャスパークローネに関しては、シンプルに指数面の優秀さが目立ちます。昨秋以降は海外転戦で思うように結果の出ないレースが続きましたが、巻き返して欲しいです。

差し馬で面白いのはディヴィナシオンとモズメイメイになりますが、2頭とも距離的にはやや短い印象です。1000mでは相手の失速待ちになる側面が大きく、展開的に向かない可能性やオッズ妙味を考慮しても今回は見送ります。モズメイメイはこのまま差しに転向すれば秋以降も面白いと思います。

買い目は馬連で勝負します。チェイスザドリームを絡める買い目はワイドだと安いですからね。拮抗しているという訳でないですが、三連系だと当てる難度はかなり高いと思います。

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