イケメンが入院してくる

 七月三十日(土)砂原

 午後、向かいの部屋に新たな入院患者が来た。病室前の名札には「野田涼祐」と書いてあり、なかなかのイケメンだった。しかしあんなイケメンでも結核になるのかと思うと心強かった。廊下ですれ違った時に挨拶すると、かすかに香水の匂いがした。

 夕食後、どこからかギターの音色が聞こえ、僕はふらふらと病室を出た。音を辿って階段を上ると、屋上のベンチで野田君がギターを弾いていた。格好いい。「病院にギターなんか持ってくるか普通」という疑問も飛ぶほど、その姿は様になっていた。

 野田君の佇まいには気品があった。寝巻きにしても、白いスウェットパンツに都会的なプリントが施された水色のシャツを合わせ、その上に黒の細身のカーディガンを羽織っていた。このクソ暑いのになぜカーディガンと思ったが、部屋の中はクーラーが効きすぎていて寒いらしい。

 野田君は僕と同じ十九歳だった。まさかこんな所で同じ年の人と知り合えるとは思ってもいなかったので、十二時を回って看護師が「そろそろ寝なさい」と呼びに来るまで、話し込んでしまった。

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