女子高生と再会する

 八月十三日(土)大沢

 「二階に移ったんですか」

 振り返ると、背後に女子高生が立っていた。彼女はこの病棟の患者で、何度か話をしたことがあった。最近姿を見ないと思ったら、退院していたらしい。

 「検査の日だったんで。皆元気かなと思って覗きに来ました」

 「学校は?」

 「夏休みです。午後から部活」

 立ち話して別れ、屋上で洗濯物を干していると、再び彼女が現れた。「懐かしいなあ」と言いながら手すりにつかまる。

 洗ったパンツを干していると、「二階、出るんですよ」と言う。「見ましたか」シーツの隙間から覗く顔は至って真面目だった。

 「出るって、何が」

 「お化けですよ」

 「まさか」

 「夜中、カーテンの向こうに、人影がぼうっと立ってるの。同じ部屋の人も見てるから、私の見間違いじゃない」

 「夢じゃないの」

 「夢じゃないですよ、持ち物がなくなってたこともあって」

 「それは幽霊じゃなくて泥棒だろ」

 「なくなってるのは髪をとめるピンとか、ゴムとか、たいしたものじゃないんです。で、私考えたんだけど。あそこって女性部屋だから、前に入院していた人が、夜中出てきて取って行くんじゃないかって」

 「何を盗られたって」

 「ピンとか、ゴムとか」

 「俺が今のベッドに移って来たとき、棚にヘアピンが入ってたけど」

 「嘘」

 「忘れものかと思って看護師に渡したよ。帰りにナースステーションで聞いてみれば」

 「それで本当に私のだったらどうするんですか。怖すぎる。うわあ、聞くんじゃなかった」

 洗濯物を干し終え、屋上を後にすると、興奮冷めやらぬ様子の彼女もついて来る。ぶつぶつ独り言を言いながら彼女が病棟から去った後、隣のベッドの砂原少年に、彼女の話と、以前僕のベッドにいた患者のことを聞いてみたが、「まさか」と首を振った。でも事件を起こす奴に限って、周りの人間はそう言うじゃないか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?