幽霊の正体を推理する(12日目)

 「見舞いに来た人に、もう来なくていいって言うのって、どんなとき」

 幽霊より嫌なものを見た翌朝。まだ続きを読んでいるらしいモリオから、マンガを取り上げて尋ねた。

 「食べ物を持って来なかったとき」

 マンガを取られ不機嫌そうなモリオは寝不足なのか、顔色は悪く、目は落ちくぼんでいた。

 「それはお前の場合ね」

 いかにも凶悪そうな顔をしている女子高生が邪険にされているなら同情しないが、暗くてあまり友達もいなさそうな子が、例えば勇気を出して見舞いに来たのだとしたら。まさか入院の原因があの子というわけでもあるまい。

 「よっぽど嫌いな相手が来たとか」

 「そういう感じでもないかな」

 「誰のこと言ってるんですか」

 「二階に入院してる女子高生。そういう風に言ってるのを聞いたんだよ。たぶん同じ学校の、見舞いに来た子に」

 「迷惑だったんじゃないですか。顔も見たくない人が来たとか」

 「例えば」

 モリオは赤く充血した目で虚空を睨むと、考え込むように目を閉じた。

 「例えば、入院している女の子は陸上部のエースで、最後の大会に青春のすべてを賭けていた。でも試合直前に結核にかかって、今までの努力が全て水の泡になった。それまで部活一筋だった女の子が、急にこんな所に閉じ込められたら自暴自棄にもなりますよ。見舞いに来た家族や友達にも辛くあたったりして。きっと大沢さんが見たのは部長じゃないですか。あきらめないで、一緒に頑張りましょう、とか言いに来たんですよ」

 「運動部の部長っていう感じではなかった」

 「なら学級委員じゃないですか。クラスを代表して来たけど、中途半端な善意は鬱陶しいですからね」

 「学級委員ねえ」

 「もしくは、わざと冷たい態度を取ったとか」

 「何で」

 「その子に結核がうつったらまずいから、突き放して、もう二度と来ないようにしたんですよ」

 学級委員と生徒とか部活のキャプテンと部員とか、そういう関係よりもっと、根深いものがあるように思えるのはなぜだろう。「来なくていい」といった女の子の、相手を憐れむような表情が、暗闇の中かすかに見えた気がして仕方ない。そう言いかけたが、モリオはすでに赤い目でマンガに戻っていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?