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悪夢が終わらない

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この物語は実話です。
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#福留

看護師が私の命を狙っている

 七月十三日(水)福留

 今日は週に一度の採血の日だ。私は注射が大嫌いだ。しかし私のところに来る看護師は皆注射が下手で、「福留さん血管が細いからやりにくい」とか言って失敗ばかりする。おかげで私の左腕は針の跡だらけだ。あの看護師の名前を遺書の目立つところに書いておいて、私が死んだら訴えさせるか。

散歩を徘徊と間違われる

 七月十七日(日)福留 

 私は公園のベンチにひとり座って、梅雨明け前の日差しを全身に浴びていた。外の空気を吸わないで病室にいるばかりでは気も滅入ってしまう。ブランコや砂場で遊ぶ小さな子どもたちを見ていると、小学生になったばかりの孫を思い出し、つい口元が緩んだ。

 子どもたちの中に、女子高生位の女の子が、妹と思われる小さな女の子とブランコで遊んでいた。親が共働きなのか、今時の女子高生も小さな妹

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半ケツで昼寝

 七月二十一日(木)福留

 二〇七号室の矢上さんがなぜかパジャマのズボンを膝まで下げ、お尻丸出しにして寝ている姿を目撃してしまった。あまりの暑さに寝相が乱れたのかは知らないが、通路側のベッドでしかもカーテンが全開になっていることを考慮し、大人の行動を取って欲しい。

女房が綾小路きみまろにハマる

 七月二十五日(月)福留

 毎週日曜、見舞いに来ていた女房がなぜか昨日は来なかった。不審に思い自宅に電話を掛けてみると、「ああ、恵理子(長女)のところに行っていたのよ」と言う。

 こっちは洗濯物がたまって下着の替えがなくなったり、歯磨き粉があと少しになったりしているのに、入院中の亭主を放っておいえ娘のところへ遊びに行っているとは何ごとか。怒りのあまり受話器を握る手が震えた。

 「恵理子のとこ

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孫のことで頭を悩ます

 七月二十九日(金)福留

 女房が見舞いに来た。「きみまろは楽しかったか」と聞くと、嫌味と勘違いしたようで、「悪かったわね、来られなくて」としおらしい顔をする。そういうつもりではなかったのだが、素直に謝られるとかえって何も言えなくなる。

 お互いしばらく黙っていると、女房が着替えの入った荷物を取り出しながら、「昨日、恵理子から電話があったんだけど」と静かに言った。

 「おう、恵理子が何だ」

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孫に説教する

 八月二日(火)福留

 孫の話で再三女房にせっつかれ、恵理子のところへ電話をかけた。久しぶりに聞く娘の声は疲れているようで、見舞いに来ないことへの嫌味を言う気も失せ、すぐに裕太に替わってもらった。

 「もしもし」

 こちらの声は以前と変わらぬ、屈託のない声だった。引きしめていた顔が思わず緩む。

 「もしもし、裕太か」

 「うん。おじいちゃん、お見舞い行けなくてごめんね」

 顔がゆるむど

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(親不孝)娘が見舞いに来る

 八月二十二日(月)福留
 
 娘が突然見舞いに来た。

 入院以来だったので思わず「何の用だ」と言ってしまった。

 「何の用だって、ただのお見舞いよ」

 「そうか。見舞いの品は」

 「お父さん糖尿でしょ、甘いものダメだからお煎餅」

 「煎餅は食わん」

 「年なんだから歯は使った方がいいわよ。ボケ防止にも噛むのがいいんだって」

 「わしはまだボケとらん、下らんことを言いに来たなら帰れ」

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悪夢に気づかない

 八月二十六日(金)福留

 私が幼い頃はクーラーなどなかったため、夏は扇風機で過ごすのが当たり前だったのだが、ここ病院では一日中クーラーがついている。機械の吐き出す冷風を浴び続けるのは体によくないのではないかと思うが、消すと隣の田渕さんがものすごい寝汗でうなされるので、我慢している。「今日はどんな夢」と聞いても教えてくれない。どうせまたイボ痔の夢だ。普段の行いが悪いから変な夢ばかり見るのだろう。

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