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「俺たちの原稿はこれからだ」 3話:鉄道の夜【漫画原作】
〇牛丼屋(朝)
創「液晶タブレット。これで描くというのも一つ」
と、タブレットを見せつつ育絵に説明する。
創「で、あとはペンタブレット、それからつけペンを使って紙に描くっていう手もある」
育絵「つけペン、どっかで聞いたかも」
創「製図とかで使うかな。まあとにかく、どれで描くかは好き好き。自分にあったものを使えばいい」
育絵「じゃあ見に行こうよ」
創「いや、そうはいってもここら辺で売ってるかどうか…」
育絵「ていうかさ、ひとまずここ出ない?」
周りは客がぎっしりと座っている。
創「…だな」
〇近くの家電屋・店内
育絵「え、売ってない?」
愕然とする育絵。それに向って店員が優しく説明する。
店員「はい、どれも取り扱いがなく…」
創「(うなずいて)やっぱりな」
育絵「じゃあ、どこへ行けば?」
店内「ん-、そうですね。秋葉原なら…」
〇電車・車内
揺れる車内。
そこに座っている創と育絵。
育絵「いやーなんかちょっとだいぶ遠出になったね」
創「だいぶって…片道二時間だぞ」
育絵「まあまあ、気楽にいこうぜ、人生も電車も」
× × ×
育絵「でさ、なんで縦書きなの?」
と、創の漫画を読みながら質問している。
創「なぜ縦書きか? えっと…つまり…縦書きなのは…えっと…」
育絵、創が答えられなさそうな事を察し、
育絵「だって、絵がついてるものってほぼ全部横書きじゃない。絵本もそうだし、グラフィックテキストも…」
創「グラフィックテキスト?」
創、分からずネットで検索する。
創「お、これか。えー、グラフィックテキストを設立したのは1960年代、アメリカの…いや、そういうのは今はいいんだわ」
さらに検索を続け、グラフィックテキストというものの画像を見つける。
それは絵本の絵の部分が漫画とも劇画とも言えないイラストで表現された、絵本とは明らかに一線を画す内容の書籍。
創「これがグラフィックテキスト…」
育絵「縦書きって今小説だけじゃん」
創「なるほど…」
育絵「なんかこだわりあるの?」
創「そりゃあるよ。その…なんというか、こういうものなの」
育絵、無表情。
育絵「分かる? 私今ぜんぜん納得してないの」
創「…分かる」
育絵「あとここ。ここでパンチする時にさ、なんで叫んでるの?」
創「あそれは技の名前だよ」
育絵「なんで叫ぶのよ? 叫んでる場合じゃないでしょ、この状況」
育絵のさしたコマのキャラは技を繰り出しながら、腹のあたりから出血していた。
創「それは…まあ何回か不思議に思った事もある、僕も。ただ、これ無いと寂しい。そういう身体になっちゃったのよ」
育絵「いらんわー」
創「ん-、ちゃんと説明できるようにならないとだな、これは」
育絵「あとさ、これって雷落ちたの?」
と刺したコマにはイナズマフラッシュが描かれている。
創「いや、これは、それくらい衝撃的な事だったの、この人には」
育絵「…比喩ってこと?」
創「そう、それ! あのね、雷本当に落ちたらこんなもんじゃないから」
1話での創に雷が落ちてきた瞬間のイメージ。
〇秋葉原・大通り
アニメ、漫画の看板が無く、電気とラジオと無線の世界が広がっている。
それはまるで20世紀の姿。
それを目の前に驚きを隠せない創と育絵。
創・育絵「すっごーーーー!!」
育絵「人込みが凄い!」
創「ノスタルジー!」
二人、見解の不一致に顔を見合わせる。
創「とりあえず、時間もないし色々見ていこう」
〇各所
様々な店舗にて、多種多様のタブレットを試す育絵と創の姿。
× × ×
何度も同じタブレットで描く育絵。
創「それ気に入った?」
育絵「うーん…」
創「あ、高い? まあ値段はすごいよね」
育絵「じゃなくて、なんていうか…違和感が…」
創「じゃあ、また別の見に行こうか」
育絵「別の…?」
創「そう、つけペン」
〇巨大文房具店・外観
5階建てのビルが全て文房具という圧倒的なボリュームを誇る文房具店。
それを目の前に驚きを隠せない育絵、と泣きそうな創。
育絵「すげーーーー!!!」
創「良かったー!!!」
育絵、創の反応に違和感を感じ、創を見る。
創「これも無かったらどうしようかと思ってた!」
〇同・店内
育絵、Gペンをさわり、吟味している。
と、創の方を見て笑顔を浮かべる。
創「どう?」
育絵「これ好き」
〇帰りの電車・車内
揺れる車内。
そこに座っている創と育絵。
創「結局Gペン一つ買って終了か」
〇地元の街・路地
創「それじゃ、また今度の授業で」
と別れようとする創に、
育絵「うち来なよ」
創「え?」
〇育絵の自宅・中
創M「育絵、どんな部屋なんだろ…意外と女子っぽい? …やばい、なんかドキドキが…」
育絵「ほら、あがってあがって」
創、やや緊張気味に部屋の中に入り、
創「おじゃましま…」
と言ったところで、一つの光景に目を奪われる。
目に入ったのは、育絵の机。
絵をそこで沢山描いてきたのが分かる、年季の入りようだった。
育絵「いやー、人に見られるの恥ずかしっすね」
創「…スゴイわ、尊敬する」
育絵「ありがと」
創M「あれ? なんだこれ? 電車で買い物行って、帰ってきたら家にお邪魔になって…なんかこれ、デートっぽい?」
と緊張しはじめる創。
育絵、その机に歩を進めながら、
育絵「じゃあ、始めよっか」
創「始める? 何を?」
とますます緊張する創。
育絵「決まってるじゃん、漫画描くんだよ」
3話 終わり
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