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「俺たちの原稿はこれからだ」 2話:二次元殺法コンビ【漫画原作】

〇絵画教室・室内
 向き合う創と育絵。
 と、育絵に女子生徒が話しかける。

育絵「ほんと、久しぶりね」
女子生徒「育絵、知り合いなの?」
育絵「うん、幼馴染」
女子生徒「そうなんだ」
創「(育絵に)お前、漫…」

 と言いかけてやめる。

創M「そうだ、この世界は漫画はない。だからこいつが漫画家じゃなかった」

 改めて創、育絵に、

創「お前、ずっとここ通ってるのか?」
育絵「そうだけど?」
創「そうか…よかったよ、今も絵を描いてて」
育絵「なんか…すっごい大人じゃん。昔はすぐ否定してきてたのに。なんでそんなずっと絵描いてるんだよ、同じやつ。バカじゃん? みたいな」
創「あったね。全面的に悪いね」
育絵「そ、訴えたら完全勝訴よ」
創「…ごめん」
育絵「許す」

 育絵、笑顔を浮かべる。

〇路地
 を歩いている創。
 足取りがとても軽い。

創「それにしても、絵下手だなー自分」

 反省のハズなのに、笑顔を浮かべている創。

創「描くしかないけど…ずっと描いたら上手くなるのかね…」

 と後ろ向きな言葉と裏腹にスキップを踏む。

創「…良かったな、今日あそこに行って」

 笑顔の育絵のイメージ。

〇創の自宅・中(夜)
 創、タブレット(に描かれた自分の漫画)を見つめている。

創「ここ、本当は何て書いてあったっけ…」

 その直前のコマには敵らしき人物が「お前ひとりに何が出来る!?」と言っている。

創「「一人」いや「二人」…コンビ…」

 とつぶやいた所で、三葉のインタビューを思い出す。
 三葉の言葉は
 『三葉:コンビで漫画を作るのは無限の可能性があります。ぜひ挑戦してもらいたい。』
 という内容。

創「…コンビ」

 再び笑顔の育絵のイメージ。

創「あいつとコンビ組んだらどうなるんだろ? 育絵に作画を担当してもらったら、絵の方はかなり良くなる」

 と考えた所で、育絵の漫画を思い出す。
 そこには「水木先生の次回作にご期待ください」という一文が書かれている。

創M「あれ以来、育絵の作品が世に出る事は無かった。ここ数年は何も音沙汰がなかった。最後の絵、明らかに荒れていた。あいつを漫画の世界に誘ったら、またそうなるかもしれない…」

 創、自分の漫画を手に取り、

創M「それに今のこの作品じゃ、漫画の面白さを伝えるのは難しいかもしれないし。とにかく、今は自分の腕を磨く。絵だけじゃなくてストーリーの事も勉強しないと」

〇各所
 デッサンの勉強や、物語に関する本を読んだり、仕事でうつらうつらしたり、様々な創の様子をテンポよく見せる。

〇喫茶店・中
 タブレットとにらめっこする創。

創M「ここどんな風に展開したっけ…」

 一か所、描きあがっていないコマがある。
 敵と対峙する正義の集団。
 その一人が仲間に「お前たちは逃げろ。こいつには勝てない」というセリフがあり、その仲間の返しが空欄となっていた。

創M「三葉先生ならどんな風に言う…?」

 創、セリフを色々考えてみる。

創M「「水くせえ、仲間だろ」…「悪いが断る」…「お前の指示にほいほい従ったりはしない」…」

 言ってみたもののどれもしっくりこない。
 天井を見る創。
 ふと浮かぶ、幼い頃の創のイメージ。
 何かから逃げている様子。

創「逃げれば楽なのにな…楽? 逃げてどうするんだよ…」

 言ってハッとする。
 そして、「逃げてどうするんだよ」というセリフを書き込む。

創「…できた、完成だ」

〇創の自宅・中(夜)
 PCの前で緊張の面持ちの創。

創「よし、UPするぞ」

 と操作をする…が、あっけにとられる。

創「無い、漫画サイトが…ピクスブも無い…」

 さらにカチャカチャとマウスを操作し、

創「あった。ツイストーはあるんだ…じゃあここに…」

 と、マウスに指をかけるが、なかなか押せない。
 不安な表情。だが、

創「…逃げてどうする」

 と覚悟を決め、ボタンを押す。
 一気に脱力し、床に大の字で寝る。

創「…お前ら、知らないだろ、漫画を。びっくりしろよ」

    ×    ×    × 
 数時間後。朝日があがり、日が差し込んでいる。
 PCを見つめる創。

創「なんで…」

 創の漫画には全く反応が無かった。
 一つ、コメントがあるのみ。
 それは「なんですかこれ?」とだけ書いてある。

創「ウソだろ…」

〇土手
 たたずむ創の姿。
 目の前にタブレットが置かれており、漫画が映っている。

創「何がいけないんだ…いや、まだクオリティが足りてないんだろうけど、にしても…」

 と、その背後から育絵の声。

育絵「何それ?」

 創が振り向くと、育絵の姿。
 慌てて漫画を隠す。

創「な、何でもない…」
育絵「じゃあ何で隠すの?」
創「見せたくない。なんでもないから見てもしょうがない」
育絵「…逃げてどうする」
創「うるせ、放っとけよ。育絵はさ…育絵は才能が…」

 と言いかけて必死に黙る。

創「…言わない。僕はもうそういうの言わない」
育絵「いや、そうじゃなくて、「逃げてどうする」そう書いてあったじゃん」

 とタブレット(の漫画)を指す。
 創、驚いて、

創「な、なんで…!?」
育絵「教えてほしいんだけど、なんですかこれ?」

 という育絵の声と共に、漫画についたコメントの「なんですかこれ?」がフラッシュバックする。

創「もしかして…?」
育絵「別の人間なのに顔が同じだしさ、言ってる言葉も時々不自然だし、絵が枠に囲まれてるけどなんか見づらいし、左手が右手になっちゃってる絵もあったし…でも、なんか知らんけどわくわくした、めっちゃめちゃ」

 創、あっけにとられている。

育絵「教えてよ、私にも。私も色々教えるから」
創「ああ、教える」

 創、小さく喜び、

創「そうだ、間違ってない。こうやっていけばきっと人気も出る。そしたらアニメにだって…」

 創の言葉にきょとんとした育絵、

育絵「…あにめって何?」
創「はあ!?」

2話 終わり

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