【ラブストーリー】『月がきれいですね、出てないけど』(テレ東シナリオコンテスト)

こちらは、テレビ東京さんにて企画された『100文字ドラマ』というシナリオコンテストに投稿したシナリオとなります。
コンテストの概要は以下を参照のこと。


まずはnoteクリエイターからドラマの設定を募集。
そこで採用された100文字程度のアイデアを元に、今度はシナリオを募集する…という流れです。

自分は今回、以下の設定『月がきれいですね』(大麦こむぎ様)の原案を元にシナリオ案を案を作成しました。


▼ジャンル
恋愛ドラマ

▼あらすじ
今からおよそ10年前。世界から『好き』という言葉が消えた。
世界はパニックに陥った。しかし、そもそも何を失ったのか、それを突き止める事が出来ないまま、時は過ぎた。

現在。
編集者になった中島は作家の桜井と仕事をしていた。桜井は、中島が10年前に告白しようとしたまさにその相手である。二人の距離はあの頃と同じままであった。
そんな二人が挑むのはかつて存在した古典の復活。
『好き』という言葉はテキストからも姿を消していた為、沢山の古典作品が虫食い状態になっていたのだ。
そんな作品の空白を埋め、再出版する仕事が存在していた。通称「リビルド」と呼ばれた。

そして、中島はの事をひそかに好きであった。がやはり、自分の感情を上手く言葉に出来ず悩む。しかし、桜井は制作に苦戦する。
そんなある日、実際に本と同じ事をしてみたい、という話になり、中島は作家とデートをする。
感情、少し分かったかも。と桜井。
その時出ていた月を見つめ、「月がきれいですね」という。

これをキッカケに、無事に本は完成する。
最後の打ち合わせ。別れる瞬間、中島は真っ昼間なのに、「月がきれいですね」と作家に言う。桜井はうなずく。


▼主な登場人物
・中島…編集者
・桜井奈緒子…中島が担当する作家。「好き」という言葉が消えた虫食い本の再発行の為の作業をしている。
・同僚の男…中島の同僚の編集者。


▼シナリオ
○中島少年の自宅・中島の部屋
 メモに汚い字で文章が書かれている。
 それを読み上げる若い少年の声。

少年「『ずっと前から好きでした。もしよかったら付き合ってください。お願いします』……よし」

 目線がメモから電話に。
 時代を感じさせるPHSを手に取り、番号を入れる。
 しばらくして繋がったよう。

少年「あ、あの……奈緒子さん…いらっしゃいますか……?」

 しばしの沈黙。

少年「あ、も、もしもし。お、俺、中島。あ、う、うん、こんばんは。……え?い、いや、別にそういう連絡とかじゃなくて…あ、あのさ…その…お前に言いたい事があって……えっと……」

 中島少年(18)、メモを見て、

中島「ず、ずっと前から……す、す、す……」

 瞬間、少年の目の前にまばゆい光。
 時間が止まったように、家の中、外が光で一杯になる。
 光がなくなり、中島、意識を取り戻したように目をしばたたかせる。
 電話越しの相手に話を再開する。

中島「い、今、なんかあった?目の前がパアって……だよね!大丈夫、そっちは?ああ、こっち……もなんともない…うん、大丈夫、多分……あれ、なんで電話してんだ、おれたち……」

 中島、自分が持っていたメモに視線を向け、思い出す。

中島「あ、そうだそうだ。俺が用事あるってしてたんだ!うん、そうそう……えっと……(メモを読みながら)ずっと前から……あれ?」

 メモに書かれた文字『ずっと前から  でした。もしよかったら    ください。お願いします』
 というように、「好き」「つきあって」という文字が消しゴムで消したように綺麗になくなっている。

中島「あれ……どうなってんだ、これ……え、あいや、ちょっと待って。……は?いたずら?そんな事しないよ!だって俺お前が……その……すごく……ああ、だめだ。なんでだろ……なんて言えばいいのか分からない……」

○10年後・ファミレス(昼)
 中島(28)、辺りを見回しながら歩いている。
 と、視線が止まる。
 その先には女性……桜井が座っている。
 桜井は四人用のテーブルに一人で座り、本、ノートパソコン、メモ帳、筆記具などが雑多に置かれている。
 その姿はお昼時のファミレスではやや浮いた光景。
 中島、一瞬気圧されるが、気を取り直し桜井の方へ向かい、声をかける。

中島「……久しぶり、桜井さん」

 桜井、声に気付き、

桜井「あ、久しぶりー!」

 と、笑顔を浮かべる。

桜井「ちょっとよそよそしいよ!奈緒子でいいって!」
中島「いや、それは……友達じゃないんだから」
桜井「友達じゃないなら何?」
中島「……仕事仲間?」
桜井「え、それ強烈に悲しいんですけど」

 暗転。
 中島、桜井、テーブルを挟んで打ち合わせをしている。

中島「もう作業始めてるの?」
桜井「……今回の企画、結構難しそう」
中島「ああ、リビルドって始めて?……ボクもだけど」
桜井「初めてだし、夏目漱石の作品だし。ネットで叩かれたら……ちょっと」
中島「え、そういうの気にするんだ?」
桜井「するよ!まあ、やっぱネットとかに沢山あがってますからね。ファンが独自にリビルドしたものが」

 桜井、テーブルに置いてあった夏目漱石の小説を手に取る。
 本を開くと、テキストの箇所箇所が虫食いのように空欄が出来ている。

桜井「私これまでずっとミステリー書いてきたし……畑が結構ちがうなぁって。こことかも思い付いた言葉はめてみたんですけどねー……『結婚したい』『セックスしたい』『友達になりたい』……どれもしっくり来なくって」
中島「あの……分かる」
桜井「え……本当?」
中島「はい」
桜井「じゃあ、どういう言葉が良い?」
中島「……言葉?」
桜井「分かるんでしょ?」
中島「あ、いや、そういう事じゃなくて……どの言葉もしっくり来ないっていう事が」
桜井「なんだ、そっち?」
中島「ごめん」
桜井「ホントにもうー!」

 と桜井、笑う。
 つられるように中島も笑う。

○中島の自宅・自室(夜)
 中島、虫食いになった小説を読んでいる。
 小説内のテキストに「あなたの事を考えると、もういてもたってもいられません。○○です。○○○○ください。」という表記がある。(○○の部分は空白の為、テキストは虫食いになっている)

中島「あなたの事を考えると……」

 中島、桜井の事を思い浮かべる。
 桜井の様々な表情が浮かんでは消える。

中島「考えると……考える……」

○出版社・編集室(昼)

 仕事をしている中島。
 そこに声をかける同僚の男。

同僚の男「あの子、かわいいよな。賢くて、よく笑うし」
中島「誰?」
同僚の男「お前が担当してる桜井さん」
中島「まあ、そうだね」
同僚の男「たしか、同級性なんでしょ?」
中島「まあ」
同僚の男「じゃあ……やった?」
中島「はあ!?」
同僚の男「あれ、そういうのじゃない?」
同僚の男「あ、別にタイプじゃない?」
中島「いやそれは……」
同僚「結婚もしてないしやってもないって……ただの友達?」
中島「友達……いや、うーん……」
同僚「じゃあなんだよ?」
中島「ボクが聞きたいよ」

 と、会話を遮るようにスマホに着信。
 電話に出る中島。

中島「もしもし。お疲れ様。どうした?」
桜井の声「助けてほしい……」
中島「なに……?」
桜井の声「全然進まない…」
中島「全然……どれくらい?」
桜井の声「全然、全然……」
中島「一行も……?」
桜井の声「そう……」
中島「全然書けてないじゃない……」
桜井の声「だからそう言ってんの」
中島「……」
桜井の声「聞いてる?」
中島「はい、もちろん」
桜井の声「私、どうしたらいい……」
中島「……」
中島、ふとデスクにあった小説に目をやる。
そこには「今度、遊園地に行きませんか?」という一文が書かれている。
桜井の声「あの……中島……?」

○遊園地
 ジェットコースターに乗る桜井、中島。

中島「どうー!?」

 返事ではなく、絶叫する桜井。

中島「小説と同じ事やれば、何かわかるんじゃないかとー!アイデア、浮かんだー!?」

 絶叫する桜井。

○遊園地内
 園内を遊び回る中島、桜井の二人。
 コーヒーカップに乗ったり。
 観覧車にのって景色を楽しんだり。
 ベンチでソフトクリームを食べたり。

○路地(夜)
 中島、桜井が歩いている。

桜井「ありがとうございました」
中島「……浮かんだ?」
桜井「いや、それは……」
中島「……ごめん」
桜井「何が?」
中島「ボクなんかが相手で」
桜井「……」
中島「ボクの事をそういう……見れないでしょう、その……なんて言えばいいんでしょうかね……!」

 桜井、夜空を見上げて、

桜井「月がきれい」

 と、歩みを止める。
 中島はそれに気付かずに先に進む。

桜井「ねえ!」

 中島、声に気付き、歩みを止め、桜井振り返る。

中島「……なに、どうしたー?」
桜井「明日も見たい。月を。その又明日も……中島と一緒に」
中島「うん、いいけど……何、それ?」
桜井「えっと……どう思った?」
中島「ああ、うん、なんか……新鮮な感じ」
桜井「これ、どう?この言葉で、リビルドできない?」
中島「……ああ!!」
桜井「ね、いけるでしょ」
中島「いける!」

○ファミレス(昼)
 完成原稿……を読み終え、トントンと端を揃える中島。

中島「……お疲れ様でした」

 中島の向かいに座る、桜井。

桜井「いやー、終わった!これでもう当分中島の顔見なくてすむな……せいせいしたわ!」
中島「言い方!」
桜井「いや、本当に今回大変だったもん!」
中島「こっちだって見たくないわ!」

 二人、笑みがこぼれる。
 笑い終えた所で、

桜井「じゃー、私行くわ」
中島「……うん、また」

 桜井、席を立ち、去る。
 中島、その姿を目で追いながら、沈黙。
 原稿に目を落とす。
 「月がきれいですね」というテキストが目に入る。
 中島、しばしの間、そのテキストを呆然と見つめる。

○路地(昼)
 ファミレスを後にした桜井が歩いている。
 その背後から、

男の声「おーい!」

 と、桜井に声が掛かる。
 桜井、振り返ると、中島の姿。

中島「あのさ……!」
桜井「何ー?」
中島「月がきれいですね!また一緒に見たい、月!」
桜井「今出てないから、月!」
中島「出てないね!」

 中島、桜井、笑った後、

桜井「いいよー!」

(終わり)

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