-ふるさと納税判決宮崎補足意見から学ぶ租税の意義ー(租税法に関する覚書No1)

1 はじめに

最判令和2年6月30日(令和2年(行ヒ)第68号)は、ふるさと納税制度の対象となる地方公共団体から泉佐野市を除外した国の決定を違法だとする判決を言い渡しました(以下「本判決」といいます。)。

ここでは、本判決の本筋とは離れて、本判決の宮崎裕子裁判官の補足意見(以下「宮崎補足意見」といいます。)を取り上げたいと思います。

2 ふるさと納税制度と租税の意義について

宮崎補足意見は、

ふるさと納税制度において、「もし地方団体が受け取るものが税なのであれば,地方団体がその対価やお礼を納税者に渡す(返礼品を提供する)などということは,税の概念に反しており,それを適法とする根拠が法律に定められていない限り,税の執行機関の行為としては違法のそしりを免れないことは明らかであろう。」

としていますが、この記載を理解するには、税とは何かということを理解する必要があります。

税に関する最高法規は以下の憲法84条です。

あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

そして、同条の「租税」の意義について、最判平成18年3月1日民集60巻2号587頁は以下のように判示しています。

「国又は地方公共団体が,課税権に基づき,その経費に充てるための資金を調達する目的をもって,特別の給付に対する反対給付としてでなく,一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は,その形式のいかんにかかわらず,憲法84条に規定する租税に当たるというべきである。」

ここでのポイントは「特別の給付に対する反対給付としてでなく」という点です。これは、租税の非対価性と言い換えることができます。

納税者は、納税義務の義務者であると同時に、国又は地方公共団体からサービスを受ける受益者としての地位を有しています(公務員に不祥事あると、すぐに、税金を返せと言い出す人がいることからもわかります。)。
しかし、納税者が受けている各種のサービスは、各納税者の納税の対価ではなく、そのサービスは納税との関係では間接的な効果にすぎません。

これは、コンビニでおにぎりを買った場合に、おにぎりが「特別の給付」であり、私が支払う金銭が「反対給付」になるのとは対照的です。

法的な分析を少しすると、コンビニの例では、コンビニと私との間でおにぎりに係る売買契約が締結され、私はコンビニに対しておにぎりという動産引渡請求権を、コンビニは私に対して金銭支払請求権をそれぞれ有することになり、これらの債権は対価関係にあります。
一方で、租税の場面では、国又は地方公共団体が私に対して租税債権を有しているのに対して、私は租税債権に対応するサービス提供請求権を有しているわけではなく、私が国又は地方公共団体からサービスの提供を受けるのは租税債権を履行することによる間接的な効果に過ぎないということです。

以上を前提として、宮崎補足意見を読むと、「もし地方団体が受け取るものが税なのであれば,地方団体がその対価やお礼を納税者に渡す(返礼品を提供する)などということは」というのは、納税者が地方公共団体に支払う金員が税だとすると、納税者は返戻品という「特別の給付」に対する「反対給付」として金員を支払うことになり、「税の概念に反」する、すなわち、租税の非対価性に反するということを述べているといえます。

なお、宮崎補足意見は、その後

「地方団体が受け取るものは寄附金であるとなれば,地方団体が寄附者に対して返礼品を提供したとしても,返礼品は,提供を受けた個人の収入金額と認識すべきものにはなるが,納税の対価でも納税のお礼でもなく,直ちに違法の問題を生じさせることにはならない。」
「本件改正規定は,ふるさと納税制度の創設以来の趣旨をそのまま維持し,同制度に基づいて地方団体が受け取るものは寄附金であるという前提も維持したまま,返礼品の提供を法令上正面から適法なものとして容認し,指定対象期間ごとに指定を受けた地方団体に対する寄附金のみを特例控除の対象とする本件指定制度を導入することを定めるものである。」

と述べ、ふるさと納税制度があくまで寄付金に係る制度であることを確認した上で、泉佐野市の事案が問題として顕在化したのは何故なのかについての分析を行っています。こちらについて検討し始めると長くなってしまうのでまた何処かで整理ができればと思います。

ポイントを搔い摘むと、地方公共団体の返礼品合戦が税配分の公平性を損ねるとして批判の対象となった背景には、ふるさと「寄付金」制度であるにも関わらず、ふるさと「納税」制度という実質を持たせたことが大きく関係しているといえます。

3 終わりに

本覚書では、宮崎補足意見を通じて、租税の意義について振り返りました。

租税の意義のそれ自体が争いになる事案は多くありませんが、「そもそも●●とはどういう意味か」という意識が、問題解決や分析の糸口になることは少なくありません。

日々の業務では枝葉に気を取られがちですが、幹の部分、すなわち基礎的な概念の理解も大切にしなければならないなと改めて実感する今日この頃です。

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