刑事弁護と主任弁護人制度
若手弁護士であれば、ボス、姉弁、兄弁と、共同で公判弁護をする機会があるかもしれない。共同とはいはいえ、実際に手を動かし、口を動かすのは若手弁護士の仕事である。
弁護人が複数いるときに、弁選のみならず、裁判所への提出を忘れてはならないのが、主任弁護人指定書である(忘れたら、書記官から連絡が来るのだと思うので、それに従えば手続上問題はない。ただ、裁判所から「この下っ端は手馴れてないな」という印象を持たれることは避けられないと思う。)。
事務所の雛形等で書面を作成してしまえば、1、2分で作業は終わってしまうが、折角なので条文、趣旨を確認しておきたい(以下、刑事訴訟法を「法」、刑事訴訟規則を「規則」という。)。
1 条文、趣旨
主任弁護人制度の趣旨は、「ばらばらの訴訟活動が行われるのを防止し、かつ手続を円滑・迅速に進めるにあたって、数人の弁護人が選任されることによって生じる実際的な煩雑さを避ける」ことであるとされる(松尾浩也監修『条解刑事訴訟法 第4版増補版』(2016年、弘文堂)51頁)。
弁護人が各々の胸に秘めた刑事弁護スピリッツは、時にぶつかり合い、収拾がつかなくなるおそれがある。そういった事がないよう法律は手当をしているのである。
2 手続
主任弁護人指定書の雛形があるのは、規則20条で、書面提出が要求されているからである。また、その雛形に、担当した弁護人全員の氏名が記載されているのは、規則19条2項が根拠となる。
3 権限
主任弁護人以外の弁護人が訴訟活動をするには、原則として裁判官の許可と主任弁護人の同意がいる。
そのため、(意地悪な)裁判官が、規則25条2項本文を根拠に「証人尋問はA弁護人ではなく、主任弁護人(ボス)が行ってください。」と許可をしないケースもあり得るのだ。
そうはいっても、「主任弁護人の同意及び裁判所の許可は、実際の法廷では黙示のものであることが通常である。」(松尾浩也監修『条解刑事訴訟法 第4版増補版』(2016年、弘文堂)52頁)とされているから、実際上は、主任弁護人以外の弁護人であるAさんが証人尋問を行うことができるのが通常である。
また、証拠調が終わった後の意見陳述、すなわち、最終弁論は、規則25条2項但書を根拠にAさんが行うことができる。
また、判決謄本の交付請求は、主任弁護人の同意及び裁判官の許可なく行える。そのため、交付請求書にボスの名前を書かずAさんの名前だけ書いても何ら問題なく、交付請求ができる。
4 事例の答え
以上から、①については、基本的にAさんは証人尋問、最終弁論を行うことができるが、(意地悪な)裁判官が規則を根拠に、(全く記録を読んでいない、もとい、現場で対応できる経験豊富な)ボスの尋問を求めてくる可能性がある。万が一の事態を避けるためには、くれぐれも尋問事項メモは事前にボスに共有しておこう。
②については、規則上問題なく、Aさんは判決謄本の交付請求をすることができる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?