ワリカン

諸事情によりフリーターだった5年前の12月、バイト先の先輩二人と仕事終わりに忘年会をすることになった。
働いていた店はお好み焼きのバイク配達。時給は可もなく不可もなく。ただ生活はフリーターなりに毎月結構キツかったのを覚えている。忘年会とはいえ、一度飲みに行くのも覚悟がいるような、そんな懐事情だった。

一緒に飲みに行った先輩二人は3つ上ぐらい(たしか)。その店ではベテランだったが、一応敬語こそ使うもののお互いイジるのは日常茶飯事で、“頼れる先輩”という雰囲気ではなかった。

結構飲んだし食べた。お開きの時間。だけど一人あたりいくらになるのか気になってしょうがない。
先輩二人が「あとの残り出して」と言ってきた。
伝票を見ると、その“残り”は僅か200円そこらだった。

「えっ」と思いながら申し訳無さがにじみ出てきた。暫く固まっていると、「ええけぇ出しんさい」と言われた。俺は取り敢えず、残りの端数をきっちり出した。
「なんか、すんません…」そう言うと、先輩がこう言ってきた。

「200円でもお金はお金。お前もしっかりお金を出した。これはワリカンだよ。」

その言葉でものすごく気持ちが楽になったのを覚えている。
多分、全奢られで一銭も払ってなけりゃすごく負い目を感じてたと思う。
俺も先輩としてそういう状況になったら、同じように出来たらいいなと思った。
普段頼りない先輩がすごくかっこよく見えた。

忘年会の時期になると思い出すひとコマ。

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