けしつぶ

芥子粒
みたいな瞬間でもずっと心に残ることがあるなという話を少々。

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 行きつけにしているBarが一軒ありまして。モルトが美味しいお店です。でも美味しいモルトを飲ませてくれるお店はいっぱいあります。なぜ行きつけになったのか。

 そのお店はとても狭いため、扉も押し戸ではなく引き戸です。ある時、私はその引き戸を背にして座っていました。一杯飲み終わったころ、お客さんが入ってきました。その方は中年の女性で着物を着ていました。夜のお店の方というより、お茶会帰りのような普段はBarには来なそうな方。こういうお店は初めて来た。お店の方にそう仰っていました。

 その方が先に席を立ちました。

 若干よろめいたようにも見えます。バーテンダーさんがさっとカウンターを回り戸を開けようとしていたのですが、狭いためすぐには戸までは届かなそうだったので、その引き戸の方に少しだけ体を向けて戸に手を掛けました。
 そのまま全てを開けたら帰ることを歓迎しているようにも見えてしまうと思うので、手掛かりになるように、そして光が入って足元が見えるように五センチほど開けました。

 その間に無事バーテンダーさんがカウンターを回り込めたので後はお任せしました。

 ありがとうございます、と言われましたがいつもにないくらいそのバーテンダーさんに喜んでもらえました。そのことが伝わりました。そのお店が好きだから他のお客さんにも気持ちよく過ごしてほしい、いい印象を持ってもらいたいと、お客の方でも思う。あの瞬間は特別な空間、空気感を作れたように思えました。

 芥子粒みたいな瞬間ですが私の中に残っています。瞬間瞬間の情報はコンピューターによって収集されてしまう時代かもしれないけれど、消えてしまう情報は0になるからそういったものによって収集されることはない。消えてしまう瞬間を共有できるから人とかかわることは面白い。
そう思うのです。

 ちなみに芥子粒ってアンパンの上の胡麻みたいなあれ なんですね。
結構好きです。


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