星野博美『みんな彗星を見ていた−私的キリシタン探訪記』
星野博美『みんな彗星を見ていた』を読了。日本のキリシタン史を、リュートという楽器、そして旅を通じて丁寧に追っていくノンフィクションの傑作だ。ヨーロッパを理解するには、まずキリスト教を理解しなければならないが、この本を読むと日本のキリシタンについてすら余りにも知らない事が多かったと気付かされる。
個人的に衝撃を受けたのは、日本のキリシタン弾圧の中で殉教した宣教師たちを追い詰めたものが実際何だったのか、に関する深い洞察だ。日本の歴史の闇を鋭く穿つものである。
「ぱあでれたちは、なぜ死なぬ」。そんな視線が、むしろ外国人司祭を追いつめる結果につながった可能性を感じるのだ。彼らを死に追いやったのは日本の為政者であるが、間接的には、多くの日本人の視線が追い詰めたのではないか」p.395
日本とスペインのキリシタン史跡を巡る旅を通じて、カトリック教会の列聖・列福のシステムについても、その本質を見抜いていく。
私個人はカトリック教会の教義にはついていけない部分がある。しかし少なくとも、この「あなたを忘れない」というすさまじいほどの執念には、目を見開かされる。列聖調査の複雑なシステムや度重なる神学的議論は、突きつめれば殉教者を「記憶する」という一点に行き着く。pp.281-282
著者はあくまでも「私的」な探訪を通じて、日本人とキリスト教の接触を丁寧に紐解いていく。それ自体、異文化を漂流する理想的な旅人の姿勢を体現している。
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