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阪神中野が描く新時代の2番像とは

はじめに

 昨今、メジャーリーグでは「2番最強論」が流行しており、2番に長打力のある打者を配置する打順がトレンドとなっている。実際に、日本時代は主に3番を打っていた大谷もメジャーでは2番で起用されている。本記事では、2番に長打力のある打者を起用することは有効なのか、考察していきたい。

2番最強論のメリット

2-1.メリット①打席が多く回る

 まず、「2番最強論」のメリットから考察していく。この打順における最大のメリットはホームランを期待できる打者に打順が多く回るという点である。当然であるが、4番よりも2番の方が打席が多く回る可能性が高い。

 NPBでは、巨人が2019年に40本塁打を放った坂本を主に2番で起用している。坂本がキャリアハイとなる40本を放った打順が2番であるということがこのメリットの証明となるだろう。

2-2.メリット②1番打者の成績が良くなる

 また、2番の後にはクリーンアップが控えている。そのため、2番に長打力のある打者がいることによって、2~5番まで長打力のある打者が並ぶこととなる。

 4人連続で長打力のある打者が並ぶと、相手投手は、2番の前を打つ1番打者にフォアボールを出しづらくなる。そのため、1番打者はストライクゾーンで勝負してもらいやすくなる。結果、2番に長打力のある打者がいることによって、1番打者が打ちやすい環境を作ることができる。

 実際に、2019年、坂本が主に2番で起用され、40本塁打を放ったシーズン、主に1番を務めていた亀井は2009年に次ぐ打率、出塁率を記録している(規定打席未到達の2014年は除く)。

2-3.メリット③クリーンアップの前に出塁率の高い打者を置ける

 さらに、以下は過去10年間のセリーグにおける本塁打王の出塁率をまとめた表である。

過去10年間のセリーグ本塁打王と出塁率

 この表から、10年間で11人の本塁打王が5度4割以上の出塁率を記録しており、7人が3割後半を記録している。よって、長打力のある打者は出塁率が高い傾向にある。

 そのため、2番に長打力のある打者、つまり、出塁率の高い打者を起用することによって、クリーンアップの前に出塁率の高い打者を配置することができる。

 実際に、2019年シーズンにおいて、坂本はキャリアハイとなる103得点を記録している。このことから、長打力があり、出塁率の高い坂本が2番にいることで、多くの得点に関与していることがわかる。

 また、前述のように、2番最強論では、1番打者が好成績を記録しやすい。そのため、1,2番ともに出塁率が高くなりやすい。よって、2番最強論はクリーンアップの前にランナーを溜めやすい打順であるといえる。


‣2番最強論のメリットまとめ


①本塁打の期待できる打者に多く打順を回すことが可能
②1番打者が好成績を収めやすい
③クリーンアップの前にランナーを溜めやすい

3.4番最強論との比較

3-1.2019年西武打線からみる4番最強論のメリット

 従来、長打力のある打者は4番に配置されるのがベストとされていた。では、長打力のある打者は2番と4番のどちらに配置するのが良いのだろうか。

 2019年に西武山川は主に4番に起用され、43本塁打を放っている。本塁打数は、前述の2019年における坂本の40本塁打と近似値となっている。しかし、打点を比較すると、山川が120打点なのに対し、坂本が94打点と26打点もの差がある。当然であるが、打点の多い方がチームに得点が多く入っている。では、なぜここまで打点数に差があるのだろうか。

 2番では少なくとも初回はランナーが多くて1人しかいない状態で打席が回る。また、2巡目以降も、ランナーがたまった状態で回ってくる回数が多いとは考えづらい。

 一方、4番は前に3人打者がおり、その3人はチームの中で優れた打者である場合が多い。
 以下は2019年の西武打線において、山川の前を打った3人の出塁率である。

2019年西武1~3番出塁率

 表から次のことが分かる。

・3選手とも3割を超える出塁率を残している。
・秋山、外崎は出塁率が3割台後半であり、特に、秋山は4割近い数字を残している。

 このように、2019年の西武では1〜3番に出塁率の高い選手が多いことが分かる。
 そのため、4番は2番に比べて前の打者が出塁率が高い場合、ランナーがたまった状態で打席が周る。結果、山川は坂本よりも打点を多く稼ぐことができた。

3-2.2022年西武打線からみる4番最強論のデメリット

 一方で、2022年、山川はホームラン41本と2019年の坂本の40本を上回っている。しかし、打点は坂本を下回る90打点にとどまっている。

 2022年の西武は、4番の山川の前を務めた打者は外崎、源田、森という3人であった。3選手の出塁率は以下の通りである。

西武2022シーズンにおける1〜3番の出塁率

 表から、3選手共に、3割台前半の出塁率であり、外崎にいたっては、3割を切ってしまっている。このことから、山川の前にランナーを溜めた状態で回る機会が少なくなると推測できる。結果、2番よりもランナーがたまりやすい4番を打っているにも関わらず、2019年の坂本よりも打点数が低くなっている。

 このことより、4番最強論では前を打つ打者の出塁率が低い場合、4番最強論の最大メリットである、ランナーを貯めた状態で長打力のある打者に回すことが難しくなる。
 そのため、1~3番打者の出塁率が低い場合、4番最強論よりも2番最強論の方が適切である。

・2番最強論と4番最強論の比較

 ここまでの内容をまとめると以下の通りである。

・2番最強論では、打順が多く回ってくる一方、ランナーが溜まった状態で打順が回ることは少ない
・4番最強論では2番最強論に比べて、ランナーが溜まった状態で回ってくる機会が多い一方、打順が回る回数は少ない
・4番最強論は1~3番打者の出塁率が低い場合、有効でない


4.2番最強論の最強とは

 この章では、ここまで比較した2番最強論と4番最強論を基に、より多くの得点を取るために2番にはどのような打者を配置するべきなのかについて考察していく。
 結論から述べると、2番に重要視すべきは出塁率の高さであると考える。

 多くの場合、1番打者は出塁率の高い打者が打つ。そのため、2番にも出塁率の高い打者がいることで、1,2番2人ともに出塁率の高い打順となる。結果、クリーンアップの前にランナーを貯めた状態で回すことが可能となる。

 また、長打力のある打者が並ぶクリーンアップの前に出塁率の高い2番がいることで、相手投手からすると、1番を塁に出した状態で、2番以降に回してはいけないという心理になる。結果、1番打者がストライクゾーンで勝負されやすくなる。

 このように、2番に出塁率の高い打者がいる打順は、2番最強論のメリットとしてあげた、1番打者が好成績を収めやすい、クリーンアップの前にランナーを溜めやすいの2つを果たしている。

 また、この打順において、2番に重要視するものは長打力ではなく、出塁率である。そのため、4番には従来通り長打力のある打者を起用できる。よって、この打順は4番最強論のメリットとしてあげた「ランナーをためた状態で長打を期待できる打者に回すことができる」を果たしている。

 このように、2番に出塁率の高い打者を起用する打順は2番最強論と4番最強論の良いところをミックスした打順となっている。

 実際に、2番に出塁率の高い打者を起用しているのが2023年の阪神である。阪神は10月2日時点でチーム得点が551と12球団で最も点を取っているチームである。

 そんな阪神の2番を打つのは中野である。中野は出塁率.351と3割後半の成績であり、セリーグ8位である。また、1番を打つ近本も同様に.379と高い出塁率を記録している。

 このように、1,2番ともに出塁率の高い阪神打線はランナーをためた状態で大山、佐藤といった長打を期待できる打者に回すことが可能である。そのため、12球団1の得点力を誇る打線となった。

 また、記憶に新しいWBCでも選球眼がよく、出塁率の高い近藤が2番を務めていた。高い出塁率を誇る近藤が2番にいることによって、4番の吉田正尚はランナーがいる状態で数多く打順が回り、WBCの打点記録を更新した。

 このように、2番に出塁率の高い打者がいることでクリーンアップにランナーを貯めた状態で回すことが可能となり、多く得点を取ることができる。今後、野球を見る際は、2番の出塁率に注目するのも面白いかもしれない。

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