疫学の効果指標について

スモーカーで肺がんでも、少しは許してあげて…？

疫学的な効果指標（リスク因子や治療の効果をみるための指標）として、重要なものに以下の３つがあります。

① 相対リスク（リスク比：Relative Risk）
② 寄与リスク （リスク差：Attributable Risk）
③ 寄与リスク割合（Attributable Fraction）

これからそれについて説明します。

 ①相対リスク（リスク比：Relative Risk）

曝露群/介入群の発生割合と、非曝露群/非介入群の発生割合の比。
その曝露/介入によって、アウトカム（疾病リスク）が何倍になるのかを示します。
例えば、4万人を対象とした前向き研究で、喫煙歴の有無(exposure)と肺がんの罹患率（outcome）を調べたとします。
その結果、肺がんの罹患は喫煙群の1万人中100人、非喫煙群の3万人中75人だったとしたら、喫煙群では罹患率が100/1万=1%、非喫煙群では75/3万=0.25%ですから、リスク比は４（倍）になります。

相対リスク(RR) = （曝露群の罹患率）÷（非曝露群の罹患率）= 1 / 0.25 = 4

すなわち、非喫煙群と比較して、喫煙群では年間の肺がん発生のリスク（確率）が4倍高いと解釈できます。
個人レベルで大雑把に言えば、喫煙することで肺がんリスクが4倍になるかもしれない、と思ことができます。

② 寄与リスク （リスク差：Attributable Risk）

曝露群/介入群の発生割合と、非曝露群/非介入群の発生割合の差。
文字通り、今後は「比」ではなく、純粋な「差」になります。
曝露/介入によって、アウトカム（疾病リスク）どれだけ増えるかを指します。
上記の喫煙と肺がんの例だと、1%から0.25%を引いて、0.75%の差になります。

寄与リスク(AR) = （曝露群の罹患率）-（非曝露群の罹患率）= 1 - 0.25 = 0.75 [%]

すなわち、喫煙により肺がんになる人が1万人あたり0.75%＝75人増える、というリスクになります。
喫煙群では、喫煙が原因で年間1万人あたり75人が新たに肺がんに罹っている。逆に言えば、喫煙をなくせば年間1万人あたり75人の肺がんの発生を防げることになります。
日本の人口を1億人とすれば、毎年75万人の肺がん発生を防げるといえるので、予防的な保健医療政策を考える上で重要な指標となります。

気をつけてほしいのが、非喫煙群でも、もともと一万人あたり25人の肺がん罹患リスクを持っているということです。
何も喫煙だけで肺がんになるわけではなく、喫煙しなくてもそもそも肺がんになることがある、ということです。この確率のことをベースラインリスクといいます。

①のリスク比は、もともと誰もが持っているベースラインリスク（非曝露群の罹患率）に比べて、喫煙することによって増えるリスクは何倍か、という指標であったわけです。

ではここで問題です。
一度喫煙者の立場に立ってみましょう。
あなたは長年タバコを吸っていて、今年の春にはじめて肺がんと診断されました。長年連れ添った奥さんは、「ほ〜れみたことか、何度も禁煙を進めたのに、タバコなんか吸ってたあなたが悪いんでしょう」と厳しい態度。
あなたはしょんぼり反省モードですが、「自分の肺がんが純粋に喫煙によるもの」である確率は、疫学的に見るとどのくらいでしょうか。

これをみる指標として、③寄与リスク割合があります。

③ 寄与リスク割合（Attributable Fraction）

曝露/介入群の患者のうち、真に曝露/介入によって罹患した人の割合。

寄与リスク割合（AF）= （リスク差）÷ 曝露群の発生割合
　　　　　　　　　　= 0.75% ÷ 1% （0.075 ÷ 0.01）
　　　　　　　　　　= 0.75（つまり75%）

計算式を説明すると、肺がんを発症した人全員のうち、「喫煙の寄与リスクにより発症した人は何割か？」をみているものです。
もっというと、肺がん患者を発症した人の中で、「ベースラインリスクによって発症した人を除いた、喫煙による効果で発症した人」の割合、になります。

タバコを吸ってなくても1万人あたり25人のベースラインリスクがあり、タバコを吸っているとそのリスクが1万人あたり100人に増える（差が75, 比が4倍）。そうすると発症した100人のうち25人はデフォルトなんだから、純粋にタバコのせいで増えてしまったのは75人、その割合は75%。
といったところでしょうか。

なので質問の答えは75%です。
今回の例が現実に即したデータだとすると、肺がんと診断される人の４人に1人は、喫煙とは関係なく発症しているといえるし、喫煙してて肺がんになってしまった人でも、その原因の25%は喫煙とは別にある、と言えそうです。

ここまでを理解した皆さんは、もう喫煙者で肺がん患者の方を見ても、「100%タバコのせいだ！」とは言ってはいけないですよ！？