ゴッドファーザーから考える血統観

イタリア競馬の衰退はいくつか要因があるが、マフィア勢力の跋扈(まぁそれ自体は今に始まったことでもないし、古今東西多かれ少なかれあることだが)が一因と言われている。
で、まぁイタリア(のシチリア一帯)のマフィアといえばゴッドファーザー。言わずとしれた不朽の名作である。
イタリアマフィアとアメリカマフィアとが結びついて巨大になっていくのはまさにネアルコとネイティヴダンサーを彷彿とさせるところがある。
すっかり勢力が削がれて今やイタリアに篭りがちになってしまったといわれるイタリアマフィアに対して、ネアルコは今も直系・傍系共に圧倒的な支配力を見せつけているわけだが。

ゴッドファーザーは単なる闇社会のバイオレンス物ではなく、家族や血の繋がりを核のテーマに据えている。
偉大なる初代ドン・コルレオーネことヴィトから始まる血統物語だとするとなかなか興味深い。
長男は能力はあるが気が荒く早死にし、次男は気が弱くマフィア適正0、三男のマイケルは当初マフィアを嫌っていたものの、一番父親に近い資質を秘めていて二代目に。
たった3サンプルの話とはいえ、スタリオンの世界でも実によく見るパターンではないだろうか。
そして三代目筆頭になるはずのマイケルの息子はマフィアの道を拒否してオペラ歌手に。成長後の姿からしてもマフィアの才能が無いのは明白。
娘はもしかすると女ながらに秘めたる才能があったかもしれないが、流れ弾に当たって死亡。馬で言えばデビュー前に脚を折って安楽死したパターン、いや例えるなら競走馬ではなく馬術競技の馬にしようとして練習中に死亡パターンか。
そして三代目になったのは気性の荒さが命取りとなって暗殺された長男のヴィンセント。婚外子ということでファミリー扱いすらされてなかったところからの襲名。まさにセリで売れ残った馬がトップクラスの馬になったパターン。
これが浮気相手との子供という「正統からズレた」ところの子供というのがまた面白い。
サラブレッドの血脈の歴史を紐解けば、セントサイモンやヘロド系の衰退、細々と繋がっていた血統が当時支配的だった血統より残っているという事例はあるし、競走成績が良かった馬よりも大したことない馬の方が血の影響力が大きかったりするケースは多くある。
いずれにせよ、種馬としての評価は3人の牡駒で駄馬1人だけだったヴィトはやはり偉大で、マイケルについては失敗種牡馬の烙印を押すしかない。(あくまでマフィア適正としての観点でだが)
しかし、上述の「血の逆転」はいつだって起こり得る。
マイケルの娘は死んでしまったが息子はまだ生きているわけで、マイケルの孫がヴィトすら超える素質でマフィアのボスになり、21世紀の闇社会を牛耳ることだってあり得るだろう。

ゴッドファーザー3(最終章)はコッポラの娘がイマイチだので前2作より評判が低いが、自分としてはそれよりも贖罪にフォーカスあてすぎのキリスト教的くどい説教臭さがどうも好きになれない。
足を洗おうが、実はファミリーのために尽くしてきたがんばりやさんだったのかもしれないが、裏社会の(元)ボスの家族なら巻き添えとはいえ殺られてもそらしゃーない、と思うのは、脚の一本でも治癒困難な損傷を負ったら死ぬしかない競走馬がレースを走って死ぬこともまた宿命と捉えるのと根は同じだろう。
が、レースでの死亡事故があれば競馬肯定者であっても受け入れられないという人は大勢いるし、特に死んだ有名馬は悲劇のアイコンと化しているのを鑑みると、そう単純に割り切れないのが世間というもの。
すると、その裏で人知れず処分されている多くの馬達は、さしずめ劇中でセリフもなく殺害されるだけの名もなきモブといったところか。

ちなみにマイケルの妹のコニーは1,2ではどうしようもないキャラとして出てくるわけだが、3では牙を抜かれた狼になったマイケルに代わって組織の闇の面を担当するほどに覚醒している。
ついには自分の名付け親すら毒殺してみせ、心身ともに殺しができなくなった兄を逆転した。
若い頃は真面目に走らず負け続きだったのに、年を取って覚醒して8歳くらいでついにGIを取るようなものだが、こういうタイプも産み出したやはりヴィトは偉大だ。
いや、あの存在感がほとんどないかーちゃんが名牝なのか。

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