深瀬昌久のサスケ、いよいよ出ます。
どうもこんにちは。トモです。
深瀬昌久が愛した猫、サスケの集大成とも言える作品集がいよいよ出ます。日本語版が赤々舎から。英語版と仏語版がAtelier EXBから。
どんな本? こんな本。さっそく動画が出来上がっていました👇
ボリュームがあるので(192ページ)、さすがに全てのページを確かめることはできませんけど、本の雰囲気はよくわかると思います。
とってもかわいいでしょう? サスケ完全版をようやく作れました。ただカワイイ猫の写真集にとどめることなく、深瀬さんがサスケを撮ることを通じて試みたことをこれでもかと詰め込みました。だから立派な作品集です。
ハードカバーのがっしりした本だけど、その上から迷い猫の張り紙を張ってもらいました。ドイツの印刷工場で、一枚一枚が丁寧に手貼りされました。
日本にお住まいの皆さんは、ぜひ赤々舎さんのウェブサイトからお求めください。今日から予約が始まり、今なら特製トートバッグがついてくるよ。これがまた、かわいいんだ。先着700枚限定の非売品です。
予約のページはコチラ👇
日本語版(赤々舎)
http://www.akaaka.com/publishing/sasuke.html
英語版・仏語版(Atelier EXB)
https://exb.fr/en/home/471-sasuke-9782365112901.html
日本版についてくるトートバッグはこんな感じです👇 持ち手がブラックなのがポイント。こんなにかわいいトートが、タダでついてきちゃいます。
僕は、この本のコンセプトと後書きを担当しました。
それから、予約ページ用にも書きました。本の後書きは頑張って書いたので、本を手にとって読んでもらいたいです。予約ページ用に書いた文章は、記念に、ここにも載せておきます。
日本版のお届けは7月下旬予定とのこと。楽しみにしててください。
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「サスケ」刊行にあたって
トモ コスガ
代表作「鴉」で写真史に爪痕を残しながらも長らく日の目を見ることのなかった数奇な写真家、深瀬昌久。彼がこの世に残した傑作「サスケ」が満を持して刊行となります。
物心つく頃から猫と隣り合わせの人生を送った深瀬の写真には、実に数多の猫が登場しました。中でも彼によって最も多く撮られ、今でも彼の猫写真を象徴する1匹として世界中から愛され続けているのが、キジトラ模様のサスケです。
深瀬は70年代後半に「ビバ!サスケ」「サスケ!!愛しき猫よ」「猫の麦わら帽子」と猫を題材にした写真集を3冊も世に送り出しました。その全てがサスケと、次いで飼い始めた三毛猫モモエの2匹を被写体にしたものでしたが、あくまでも当時の日本に到来した空前の猫ブーム需要に応える目的に沿った出版であり、彼の写真表現を前面に押し出した作品集とは言いがたいものでした。そうした背景も相まってか、これまで「サスケ」が人々に癒しを与えるような猫写真のジャンル内で評価されることはあっても、作品として批評される機会に恵まれることはそれほどなかったのです。しかし「サスケ」が、実は深瀬の代表作「鴉」と表裏一体にあり、ひいてはその2作が、彼のもうひとつの代表作「洋子」を陰陽にそれぞれ分けたものだと知った時、その真価は初めて問われると言えるでしょう。
深瀬の妻・洋子との離別がきっかけとなって制作が開始されたのが「鴉」でしたが、12年間に及んだ彼女との結婚生活について、彼が「しまいには写真を撮るために一緒にいるようなパラドックスが生じ、それは決して幸せなことではなかった」と振り返ったように、70年代中盤には夫婦としての関係に終止符が打たれました。まるで霞がかった井戸の底を覗き込むような、虚無のブラック&ホワイト。それはのちに深瀬の代表作となるだけでなく、現在では日本写真の金字塔として世界的に評価されています。
その前身にあたる「洋子」は、題名が示すように自身の妻を題材とした作品ですが、彼女を写した写真群の合間にカラスを写した写真を印象的に織り交ぜて構成されました。それに続く形で発表された「鴉」においては彼女の姿こそ見当たりませんが、闇を舞うカラスにその残像を見るのはそう難しいことではありません。つまり私たちは「鴉」を通じて、妻の喪失を起因とした深瀬の寂寥を感じ取ることができます。
さて当時、深瀬が「鴉」と並行して向き合う題材がありました。それが「サスケ」です。深瀬は、洋子と別れた直後にもらってきたその仔猫をどこへ行くにも伴っては、のびのびとした姿や奔放に戯れる様子を夢中で撮り続けました。その前年に洋子との離別があったことを踏まえると、やはりサスケの影に彼女の残像を見ずにはいられません。しかしその姿は「鴉」とは対照的に、生ける喜びが全面に溢れ出たもの。言ってみれば、古い歌謡集「梁塵秘抄」に収められた文句「遊びをせんとや生れけむ 戯れせんとや生れけん 遊ぶ子供の声きけば 我が身さえこそゆるがるれ」を連想させるほど、生に突き抜けた表現であることが見て取れます。そのことから「サスケ」を通じて見ることができる戯れとその享楽とは、かつての賑やかな結婚生活の追憶であるとも受け止めることができます。
このように、「鴉」を通じて自らの業を背負いながらも「サスケ」を通じてそれを前向きに受け止めたという意味で、両者は陰陽の表裏一体にあったと捉えることができるのです。
そのような作家背景を抜きにしても、「サスケ」は写真表現を通じた深瀬の試みを教えてくれます。彼が書き残した言葉の数々を辿りながら2匹の写真をつぶさに視ることで浮かび上がるのは、言葉が通じない動物を相手にするからこそ働かせる身体的な触覚の発動、あるいは被写体に自らを重ねる感覚としての主客未分の境地であり、それらこそ深瀬が一生涯をかけて撮った写真を貫く特有の感覚だったとも言えるでしょう。ですからやはり、「サスケ」なくして深瀬の写真を語り尽くすことはできないと言っても過言ではございません。
今回、「サスケ」を再びこの世に送り出すに当たって、彼の視座は従来の3冊を単に復刻することでは確かめることが難しいと判断し、写真の選出から編集に至るまで、いちから作り上げました。その際には、深瀬が70年代当時に自ら焼いたビンテージ銀塩プリントからの選出と図版作成をし、サスケにまつわる彼の手記を頼りにしながら、深瀬がサスケを通じて試みたに違いない表現の数々が見て取れる写真を余すことなく詰め込みました。
本書をもって、「サスケ」が「鴉」や「洋子」と併せて後世に引き継がれ、また写真史に刻まれることを心から願います。
トモ コスガ
深瀬昌久アーカイブス 創設者兼ディレクター/ 本書編集者
最後まで読んで頂きありがとうございました。写真にまつわる話を書いています。楽しんで頂けましたらサポートしていただけると嬉しいです。