【ネタ】『シン・ゴジラ』がこれほど魅力的な「12の理由」【バレ注意】

『シン・ゴジラ』を観た。震えるほど揺り動かされた。

そして、大げさだけど、この震えや、感動をきちんと分析しなければ、エンタテインメント作品を志向する者として、進めないと思った。

で、3回観てみた。

それでようやくわかったこと、自分でなんとなく分析できたことががあるので、ここにメモとして置いておこうと思う。

題して「『シン・ゴジラ』がこれほど魅力的な「12の理由」。

思いっきりネタバレ全開なので、まだ観てない人やスルーしたい人のために行空けしてから書いていきたいと思います。

【以下ネタバレ】

そもそも今回の『シン・ゴジラ』で自分が動かされた原因を列挙してみると…なんと12項目にも及んだ。人によってはもっと多いかもしれないけれど、自分の思うところを、まず、できるだけ書いていきたいと思う。

(1)お決まりの男女愛やヒューマニズムの排除

第一に、最近の大作日本映画にありがちの、いかにも"とってつけた"ような、ヒューマニズムや人情や家族愛や男女愛を排していたから。

洋画も邦画も大好きな人間として、最近の邦画を観たときだけ起こる「ああ、また日本映画の"大人の事情"だ…」感は、堪えられないものだった。元々大作映画って、「大人」の楽しみだったはずだったのに、いつからか「女子供向け」に想定された「誰にでもわかるように」「感動する話は入れるように」なってしまっていた。そんな陳腐な安請け合いのようなものが排されたのが本作だった。

(2)ドキュメンタリータッチの成功

本編では、あえて"ドキュメンタリー"タッチの演出がなされていて、それがとても効果的だったこと。

「ゴジラ」をいま、あえて作る、ということは、そういうことだとおもう。

3.11を経験し、あの衝撃的な映像を見、とんでもない体験を自らも経験した。そんな僕らにとって、その経験や映像を全く考慮してないものは、なにか足りないものに感じる。その感覚や時代性をしっかり取り上げたのが、脚本も手掛けた庵野総監督だったのだろう。

ゴジラ第2形態が川を遡上するときにものすごい勢いで逆流して押し流されていた船や車の映像は、まさに3.11で経験した津波の映像だし、ゴジラが蹂躙したあとのがれきの散乱した風景も、3.11で僕らがみたものにとてもよく似ている。

それに、僕らは本来内輪ネタが嫌いではない。何かが起こった時に、それが内側ではどのようなことが起こっていたか。昨今の「プロジェクトX」「プロフェッショナルの流儀」「情熱大陸」「72時間」などのドキュメンタリー番組の秘かな流行はそれを立証してる。その手法、カメラワークさえも巧みに取り入れた。

(3)リアリティーの追及

そして、本作で特筆すべきもう一つの点が、"リアリティー"。納得できるレベルまで、「実感」が落とし込められていた。

今の日本で「ゴジラ」を撮って、それを"絵空事"にしないとしたら…自衛隊はもちろんのこと、いちばん描かなければならないのは、対応する「政府」や「官僚」の姿だろう。

緊急事態に対応する際の会議と対策室の作られ方、

大量に持ち込まれるコピー機の大群、

閣僚の会議に控える官僚の多さと、会議中に完了から差し出されるメモ、

自衛隊の装備と無線の専門用語…

このそれぞれが、庵野総監督のもと、スタッフの緻密な取材と配置によって、実に豊かな"リアリティー"を生んだ。

この(1)~(3)で記したのは、いわば「土台」や「環境」のようなもの。

それを、きちんと整備したからこそ、次に述べる美点が生きてきたのだと思うのだ。

(4)王道のストーリー展開

今回の庵野総監督が描いたストーリーは、実は、オーソドックスなものだと思う。

1.最初、未確認生物が現れる。

2.主人公の主張は「わからずや」や「形式主義者」によって退けられる

3.主人公の主張が当たると、「能力を持ったはぐれ者たち」が結集。

4.知恵を絞るも一度は敗退。

5.挽回するために、苦難を耐える。

6.捲土重来のために、チームが全力を尽くす。

7.決戦。最後、ダメかと思うが、なんとか勝利。

8.勝利のあとのカタルシスと安堵。最後の不気味な引き

これは王道のストーリー展開と言っていい。

それを次に列挙する効果的な演出で、彩っていったのだ。

(5)膨大な情報量・セリフ

役者たちがしゃべる膨大なセリフの量、法案自体を画面にしたようなシーンに代表される法案の膨大さ、この大量な情報量が映画のことあるごとに開陳されることによって、リアリティを増し、その画面のなかにただならない情報量があること自体を観客に感じさせ、それを飽きさせる方向ではなく、「なんか凄そう」と感じさせることに成功した。

※だからこそ、観客はすべてのセリフの細部までの情報をくみ取る必要はないように感じた。

(6)テンポのいい演出・カット・明朝体

単に情報量が多いだけでは、観客は飽きる。そんなことにならなかったのは、後述する音楽を場面場面で惜しみなく使い、カットのテンポを速めることによって、緊迫感をずっと持続させることができた。「エヴァ」でも多用された明朝体による固有名詞の画面投与は、必要最低限の情報で、キャラや状況を説明することができ、だれた演出をする必要をなくした。

(7)効果的な音楽

「エヴァ」「怪獣大戦争」「自衛隊マーチ」「ゴジラ」などの音楽を各シーンにとても効果的に使った。

会議、戦闘、悲劇、奮起…実に様々な状況を、音楽が彩り、演出していた。

個人的には、最初にゴジラが光線を吐き出すところのアリアが実に素晴らしかった。

音楽の鷺巣詩郎さんの素晴らしい仕事だ。

(8)過去の作品へのリスペクト

ゴジラシリーズや東宝の特撮はもちろんのこと、エヴァや、「沖縄決戦」、「劇場版パトレイバー1.2」など実に多くの映画をリスペクトしながら、美質を取り入れている。

ちなみに、ラスト近くで間教授が、牧元教授の図形の謎を解く「立体化」。あれは、カール・セーガンの映画でジョディ・フォスター主演の「コンタクト」のインスパイアだろう。

「ヤシオリ」作戦はもうわかりやすく、エヴァの「ヤシマ作戦」からきているのだろうけど。

(9)役者たちの演技

実にたくさんの実力のある役者が登場し、それぞれがそれぞれの役割をしっかり演じていた。

これは、直接役者を演出した樋口監督の力によるものが大きかったのではないか。

個人的に好きなのは、矢口、赤坂、花森防衛大臣、東官房長官、尾藤課長補佐、財前統合幕僚長、里見総理代理、泉代議士、間准教授、安田文部省研究振興局基礎研究振興課長、…もう数限りない。

(10)今回のゴジラの強さと魅力

もちろん、特筆すべきが、今回のゴジラの強さ。大きさや形状はもちろんのこと、イデオンのように背びれ全体や尻尾からも強烈なビームを放ち、僕らがもう新しさを感じられなくなった「放射能火炎」ではなく、アゴが割れてからの、東京を焼き尽くす強烈なビーム。

これは、もう、絶対王者として、誰もがひれ伏す強さと納得してしまう。

第二形態のあの魚のような目玉もびっくりしたし、そのかたちが進化していく、という設定も納得し、燃えるものがあった。

萬斎さんのモーションキャプチャーでの、重厚感を感じさせるすり足もよかった。

(11)カタルシスの素晴らしさ

日本らしい小さな工夫や、地味な攻撃で、ゴジラを凍結させる。

それだけでも、ぐっとくるが、「はぐれ者」集団が、最後、矢口の演説で奮起し、みな「仕事」をする。そこに自らの仕事を必死になってやる自分の姿を投影させる人は少なくないはずだ。

そして、半減期から希望。

避難所の風景は、最近の僕らが見慣れているものだからこそ、そこに希望の光を当てることでまた僕らは涙してしまう。

「スクラップ&ビルドでこの国は立ち直ってきた」の言葉にある希望は、僕らが求めている希望なのだから。

(12)マニアも満足する小ネタ満載

これはもう、数限りなくあるので、別項目を立てて、列挙していきたい…。

ただ、これだけは、言わせてほしい。

・三賢人のような生物学者たち。

何も役にたたない、ごたくだけの彼らを、犬童一心、緒方明、原一男という監督たちが演じていた、というのが、もう、映画好きにはたまらない。

・最後の最後に見えたしっぽの先。

そこにあった映像は、紛れもなく巨神兵「たち」の姿!?

あの人型の絡まりのような形状はそうとしか思えないんだけど。

・ラスト近くで間教授が、牧元教授の図形の謎を解く「立体化」。あれは、カール・セーガンの映画でジョディ・フォスター主演の「コンタクト」のインスパイアだろう。

以上、ひたすら書いてきたが、まだ足りないような気がする…。

なにはともあれ、観た人間とひたすら語り合いたくなり、1回では足りず、何度も観たくなる稀有で、日本映画の未来に希望に持てる作品であることは間違いない。

こんな映画が観れたことを誇りに思う。

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