2019年7月11日、ビルボード・ライブ・東京、ジェシー・ジョンソンのセカンド・ステージ、レビュー、その3

ライブは後半戦へと突入する。ファースト収録のCan You Help Me。イントロを含めスタジオ・バージョンに忠実のように聴こえる。しかしギターだけは重厚さを纏い貫禄があるので、今目の前で演奏されているバージョンこそオリジナルと思いたくなる位に好きになる。そんな孤高なギターを奏でるジェシーに忠実に従う兵士が、デル・アトキンズ(ベース)、ブライアン・エドワーズ(ドラムス)そしてバニー・ハーツ (キーボード)の3人だ。彼らがいなくてはジェシーのギタープレイの成長を認識することが出来ないから当然必要である。でなかったら僕は安心してジェシーの動きを追い、体で感じて享受して踊ることが出来ない。長谷川は踊る。そしてセカンド・アルバムShockadelica収録のAddictionへと繋がる。こちらはラテン風味のあるスタジオ・バージョンがホーンのようなキーボードの効果でファンク寄りのアレンジに変わっている。これもまたライブ・バージョンの方のが素晴らしい。ジェシーは80年代のアルバム収録全曲を再演奏してみたらどうだろうか、と思った。余計なお世話かもしれないけど。

演奏が終わる。そして僕も踊らなくなる。静寂。Sing A Simple Songのようなギター・リフの遊びの後セカンド収録のShe (I Can't Resist)がプレイされる。Soul Powerまんまのギターリフが印象的な曲だが、だからパクリと決めつけてはならない。そこにジェシー印のサウンドが重なってネクスト・レベルの名ファンクとなっているのだから。そして実際ライブではよりアーシーなファンクとなっていて思わず体が動く。グッガ!のJBマナーなシャウトも痺れる。そしてファンキーなジャムになっていくのかな、とその片鱗を感じさせるや否や急展開のようにCrazayへと繋がる。やはりセカンドの2曲目、かのスライ・ストーンを招いて作られた恐らくJungle Loveを除いたら一番認知されている曲だろう。スライがいるから良い曲、ではなく、良い曲だからスライは客演することを許可した、と僕は思っている。ドラッグでボロボロだったスライだが音楽のセンスは衰えてはいなかったのだ。まあプリンスとコラボしなかったのは両雄並び立たずなんだろうけど。もちろんこのライブにスライはいないけど、いなくてもジェシーの歌声だけで十二分にこの曲の魅力は堪能できる。ただ僕は一人フーッ!って掛け声を上げていたけど、少なくともサビでCrazay for youの後に来るフーッ!はバンドの誰か、まあやはりここもキーボードのバニー辺りが入れて欲しかったなあ。ブンブブブーンと5弦ベースのデルがまあ今までもバンドを支えてくれていたが、ここでいよいよグルービーさを担っているんだぞと前に出てきた。そして展開が少し変わる。ジェシーはベイベーっと少しだみ声っぽくシャウトしてからジェームス・ブラウンのLicking Stickをカバーした。ホーン!とジェシーは心地良く叫んでいるが、ここでは本当にジェームス・ブラウンが指示しているかのような的確さでホーン風キーボードがのっそりと顔を出した。リッキンスティーーーイイック、とジェシーがかわいく伸ばして歌う。その後バニーも共にリッキンスティーーーイイックと一緒に唱える。Too Funky!とジェシーが言っているが、本当にかっこいい。実際ここからジェシーはカッティングを入れ捲る。どこかで聴いたことがあるようなフレーズ、でもジェシーだけにしか出せないファンクネスが矢継ぎ早に繰り広げられる。みんな!スクリーム!と素晴らしいフレーズを弾きながら観客を煽り、House partyだと叫んでジェシー自身も演奏を楽しむ。More Bounce To The Ounceを歌い、Soul Powerのチャントが入り、バンドと観客が一つとなっていく。

ここでライブが終わっても文句はない。しかしまだまだジェシーはギターをいじってくれている。どこかI Feel 4 Uのようなフレーズが聴こえるぞ。これわかる?とジェシーが尋ねる。一度カウントをして演奏を始めようとするが、もっと凄く燃えるような気持ちにならないと、と中々演奏が始まらない。ジェシーのギターに合わせて観客はクラップをし始める。そしていざカウントして演奏されるはプリンスのI Feel 4 Uだ。ドーンと始めるのではなく結構ソフトな出だしで、ジェシーもファルセットで歌っている。いよいよドラムが跳ね始めて違う展開?と思ったら火を噴くようなギター・ソロとなった。プリンスのバージョンともそしてチャカ・カーンのカバーのバージョンとも違う、ジェシー自身によるI Feel 4 Uのカバーバージョン。ここでギター・ソロの余韻も冷めやらない状態でステージの右でまずサイン、演奏途中でも気がついたらステージの左側でサイン、と僕らにサービスしてくれた。実際僕は演奏中にサインをするアーティストを見たことがない。ジェシーが初めてだし、多分これからもそんな器用な人には出会わないだろう。まあ自分の弾いているギターを観客に差し上げてしまう人はいたけど。結局ローディなのかボディーガードなのか関係者が後で来て持ち帰ってしまうんだけどね、プリンス。ジェシーはこの曲でバンドメンバー他関係する全ての人に感謝の言葉を述べる。ここで終了かな、と思ったが、まだジェシーは僕らに曲のプレゼントを残していた。セカンドのラストを飾るアコースティック・ナンバーBlack In Americaだ。ここではジェシーが一人歌い、サビを歌う女性ボーカルがいないけどもその分少々ロックなテイストも加味されたライブ・バージョンとなっている。そしてスタジオ・バージョンでは聴くことが出来ない、流麗なピアノの旋律や轟くジェシーのギター・ソロがある。そして終わりそうになってもサンタナのようなラテン風展開が更に待ち受けていたりする。ここでも演奏中に観客にサインをしてあげるジェシー。おざなり感皆無の真剣なクロージング曲。そして徹頭徹尾、音に、演奏に真面目なジェシー。

ライブを堪能しつつも、随所でプリンスと比較してしまう自分がいたのは事実だ。しかし後半になってくると、プリンスとジェシーがだんだんと同化してきて、ジェシーがしてきた音楽への真摯な態度と、プリンスの求めてきた音楽への求道心が一つに重なってしまった。ジェシーはディアンジェロ、そしてザ・タイムにバンド・メンバーとして戻ることが出来る場所がある。でも今回のライブで、僕は孤高に音楽を追求するジェシー・ジョンソンだけがいても良いのではないか、と思えた。ザ・タイムから脱退した理由はプリンスとの軋轢なんかではなく、純粋に自分の音楽を追求して行きたかったからなんだなと思えたのだ。

おわり

1.Intro-Love Struck
2.Be Your Man
Controversy
Jungle Love
3.I Want My Girl
4.(Red Hot Mama) Brand New Day
My Life
5.Can You Help Me
Addicition
6.She (I Can't Resist)
Crazay
Licking Stick
7.I Feel 4 U
Black In America

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