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ゲームの勝ち筋を見抜く

前回、市場のメカニズムを紐解く方法について解説しました。
今回はその続編です。

ゲームのルール

将棋や囲碁、あるいはスポーツの世界で勝つためには、まず「ルール」を理解し、「攻略法」を見出すことが必要です。それは、ビジネスの世界でも同じです。ビジネスにおける「ルール」にあたるのが、「出費がどれぐらい必要で、どの程度の売上をあげるとどのぐらいの利益が出るのか」という事業そのものの収支構造です。

携帯電話事業であれば、設備投資やサービス維持費が莫大にかかる一方で、契約数がどれだけ増えても追加でかかる費用は限定的です。つまり、大きな固定費を回収できるだけの売上を獲得するまでは赤字を垂れ流す反面、契約数が一定値を超えると売上がほとんどそのまま利益に化ける構造を持っています。

これがコンサルティング業になると、大きな初期投資や固定費は発生せず、コンサルタントの頭数と案件数が見合っていれば、売上規模が小さくても利益が出ます。しかし、仮に売上が数倍に伸びたとしても、それに比例して費用(コンサルタントの人件費など)も増えるため、携帯電話事業のように飛躍的に利益率が上がることはありません。

この「ゲームのルール」は、既存プレイヤーの財務諸表を分析したり、ファイナンス視点から事業計画を検討したりすることによって見えてきます。先行企業をベンチマーク分析される際に、意識してください。

勝ちパターン

ルールを把握したら、次は「攻略法」です。ルールから帰結される論理的思考に加えて、業界で成功しているプレイヤーが実際にどのような戦い方をしているかを観察することが有用です。

携帯電話事業であれば、「契約数を一定以上に増やすことが先決」という事業構造なので、プレイヤーは採算を度外視してでも新規の顧客獲得に走ります。携帯電話はサブスクリプション型(一度顧客を獲得すれば、継続的に収入が得られる)であり、ここに投資をしても後から回収できる可能性が高いことも、顧客獲得競争に拍車をかけています。実際、ソフトバンクは参入当時「ホワイトプラン」等の低価格路線で先発企業からシェアを奪い、楽天モバイルも圧倒的な価格競争力を持つプランを提示して他社からの乗り換えを呼び掛けています。

さらに、競合企業よりも多くの契約数が獲得できれば利益率が上がり、投資余力が生まれ、その結果サービスレベルが上がって評価され、さらに契約数が増えるという正の循環(グッド・サイクル)を確立できると、競合との差はどんどん開いていきます。一方で、契約数が少なければ、投資余力がなくなり、サービスレベルが下がり、顧客の離反が起こるという負の循環(バッド・サイクル)に陥ってしまいます。

新規参入の楽天モバイルが大手3社に比肩するほどの契約数を獲得してどこかの段階でグッド・サイクル(好循環)を確立できるのか、それとも途中で息切れしてバッド・サイクル(悪循環)に陥るのかは、今後注目するべきポイントになるでしょう。(楽天モバイルは、仮想化ネットワーク技術を活用して設備投資を効率化すると宣言しています。うまく行けば驚くほど少ない契約数でもグッド・サイクルが確立できるかもしれません)

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市場の変化と成長段階

ここまでの分析で「市場の構造」がかなり見えてきました。しかし、ここで気を抜いてはいけません。市場は生き物のように刻一刻と変化するため、ゲームのルールや勝ちパターンも時代の流れに翻弄されることが珍しくないからです。各要因がどのように影響を受けてどうなったかを継続的にフォローする必要があります。

携帯電話事業は、国内のデフレ環境と「儲け過ぎ」という批判から政府(総務省)が重い腰を上げ、大手3社に対してMVNO(仮想移動体通信事業者)への通信サービス提供を義務付けました。これにより、格安スマホ事業者が多数参入し、携帯電話の契約料金に大きな価格低下圧力がかかっています。

一般的に、この市場のルールや攻略法が「どれぐらい劇的に変化しやすいか」は、市場の成長段階(製品ライフサイクル)と深い関係があります。新しい製品が世の中に生まれ、市場が形成されると、導入期、成長期、成熟期、衰退期という流れを辿ります。市場のルール・勝ちパターンは、導入期はまだ存在せず混沌としており、成長期に徐々に形成され、成熟期で確立し、衰退期に既存のものが否定されます。成熟期後半に新しい代替市場が形成され、顧客を奪われる形で衰退期に突入することもあります。

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