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シードルに温度管理は必要か?

 本稿は、あまり専門的な内容になり過ぎないよう一般消費者、比較的初心者にも向けた記事として記載したものである。


リンゴから作られる醸造酒シードル

 日本でシードルが注目されるようになったのは約5年くらい前のことだろうか。国産リンゴの活用法の新たな可能性として国内でもシードル生産の参入が急拡大していくとともに、アルコールに弱い人にとっても受け入れやすいアルコール市場として筆者も注目し始めた。
 シードル(フランス語に基づく呼び方で、英語圏ではサイダー、スペイン語圏ではシードレと呼ばれる。)は、リンゴを絞った果汁をアルコール発酵させることによって作られる醸造酒である。単純に、リンゴをブドウに置き換えば、シードルに最も類似しているアルコール飲料がワインと言える。だが、シードルのアルコール度数は通常5度前後でワインの約12〜14度よりもかなり低いという特筆すべき違いがある。

酒類における温度管理事情

 ここで本題に入る前に、一般的にアルコール度数は保存方法にも十分関わる場合が多いことを確認したい。例えば、アルコール度数の高い、ウィスキーや焼酎を含む蒸留酒などは常温での長期保存が可能である。また、蒸留酒ほどアルコール度数が高くない場合でも、醸造後に残存する酵母を取り除くという条件が整えば一定期間内常温保存することが可能である。それは、十分に火入れされた日本酒やフィルタで濾過されたビールなどがこれに相当する。つまり、醸造後に余分な酵母を不活性化または除去することによって、常温保存でも腐敗しないように工夫されている。後述する工場生産されるシードルの場合もフィルタリング処理されたものは常温保存が可能である。欧米ではビールと同様に缶入りのシードルがスーパーマーケットに大量陳列されている。
 日本酒の場合は、火入れの度合いによって要冷蔵か常温保存可能かに分かれる。酒店で冷蔵庫に入っている日本酒と常温棚に陳列されている日本酒があるのはこのためだが、上記の理由によることが意外と知られていない。要冷蔵として売られていた日本酒を消費者が購入後に常温保管すれば間違いなく味が劣化していくことになる。
 ワインの場合は、上述の酒類とは中間的な位置に存在する。筆者の印象では、多くのワイン専門店でも、1本だけで何万円もするような高級ワインはセラーで厳重な温度管理がされるのに対して、それ以外のいわゆるデイリーワインに位置付けられるワインは室温の棚に配置されることが多いのが現状だ。他のカテゴリーの食料店や売り場よりも店内照明の明るさを落としたり、室温を低めに設定したりするなどしてそれなりに配慮している専門店や売り場もあるが、価格に関わらず全てのワインをある意味「平等」に温度管理している専門店は決して多くない。スーパーやコンビニであれば、購入後すぐに飲めるように冷蔵陳列されている、一部のスパークリングワインや白ワインを除けば常温陳列されていることがほとんどである。また、それほどワイン愛好家という程ではない消費者にとってはワインは購入してすぐ飲むものであり、温度管理に対する認識や関心もほとんどない場合が多いだろう。実際、夏場の30度を超える環境や過剰な温度変化または異常な高周波振動が続く場所での保管や直射日光または強烈な紫外線をしっかり避けられれば、それほど急速にワインが明らかに劣化することはないし、そもそもワインの経験が浅い人にとって劣化した味を知覚するのは簡単ではない。それに加えて、そもそもワインが劣化する前に購入消費されれば問題ないという、こうした販売店の思惑と、専門店以上にコストや販売効率と常に向き合う余裕のない販売店の事情を考慮すると、本稿でこれを無下に批判する意図はない。

シードルにおける温度管理事情

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