スピーチの原稿(6)もたんでええもん

「大嶋、おまえなあ、なんで意見を言わないんだ? こわがってるんとちゃうか?」
「宮本さん、ちがいますよ、先輩に反論したら失礼じゃないですか」
「あほか、おまえは。ここはディスカションする場やで。遠慮なんてもんは、もたんでええもんや。

持たんでええもんは持たんでええ。」

司会者の渡辺さん、みなさん、

 30年前、ディスカッションサークルに参加したときのことです。宮本さんは、大学の先輩で、学生時代に関西ではちょっとは知られたディベーターでした。大学を卒業すると、すぐに独立した青年実業家で、私は宮本さんを尊敬していました。

 宮本さんは、ディスカッションの間、私が意見を言うのを怖がって黙っていたのを知っていたのです。その宮本さんの鋭い言葉にはっとして、ある時、私は挑戦しました。

「ちょっと言わせてもらいます。私はそれは違うと思います」
 宮本さんに向かってみんなの前で強く反論しました。(ポーズ)すると、宮本さんが鋭い目を私に向けました。
「大嶋、(ポーズ)ええやないか。やっとでけたな!」

 私はやっとわかったんです。本気で自分の考えを伝えることは失礼ではないこと。むしろ、遠慮して意見を言わないのが失礼だったんです。
(ポーズ)
へんな遠慮はもたんでええ。そうか、持たんでええもんは持たんでええんや。
(ポーズ)

 社会人1年生のとき、わたしは、ひとりの女性に出会いました。ショートカットが似合うよく笑う女性です。彼女は、自分が納得できないことについてははっきりと主張するんです。生意気でしょう?!。ところが、気がつくと私は彼女を好きになっていたんです。

 彼女に想いを伝えたい。でも、断られたらカッコ悪いし‥どうしよう‥でも、もしかしたら‥いや、無理。やっぱり怖い。(ポーズ)‥
「私は(ポーズ)あなたが(ポーズ)好きです」。ああ、言っちゃった。(早く!)

(長いポーズ)数ヶ月後には、私たちは一緒に住みはじめました。恋ってパワフルですね、毎日が楽しくて仕方がなかったです。

 将来の事を考えると、私は嬉しいのですが、それだけではなく、重い気持ちがあるのを感じていました。 実は、彼女は私よりも10歳年上だったのです。私が、40歳になれば、彼女は50歳、私が50歳なら、彼女は60歳です。将来のことを考えると、年の差のことが不安になってきたのです。それに、年のことで私が悩んでいるなんて、絶対に彼女に知られたくない。
苦しくなった私は宮本さんに相談しました。

「大嶋、おまえ本気か?」
「はい、本気です。でも怖いんです」
「お前、彼女が年上と知っててつきあったんやろ。(ポーズ)ほな向き合わんか。

不安に向き合うのは誰でも怖い。でも、背を向けたら、怖さが大きくなるばっかりや。だから、考えて考えて考え抜け。そしたら、怖さをのりこえる勇気が出てくるんや。
(ポーズ)
怖さなんて持たんでええ。持たんでええもんは持たんでええ」

 私は、怖さと向き合いました。年上の女性と将来を考えたとき、私は何を怖がっているんだろう? 

世間体? 世間体なんて気にしない!
彼女の容貌、うーん、ちょっと気になる!でも、好きになったのは彼女のハートやから、大丈夫や。
病気か、いくつになっても、病気になるときはなるか!

そして、しっかり向き合ってみたら、本当に大切なことが見えてきたんです。
その人にまっすぐ関われるかという私の覚悟(強調)だったんです。
この不安に向き合って怖さを乗りこえた経験は、わたしの人生にとって大きな出来事になりました。

持たんでええもんは、みなさんを小さくします。
みなさんの可能性をつぶします。
だから、何が持たんでええもんかを知らなくてはなりません。
私にとっては、怖いという感情でした。みなさんの持たんでええもんは何ですか?

だとえば、
やらない理由を、遠慮だという、そんな遠慮は持たんでええ!

たとえば、
やってくよくよ、やらなくてくよくよ、どっちも後悔、そんな後悔、持たんでええ!

たとえば、
人の成功よろこべない、俺の方がと思い上がる、それは嫉妬、そんな嫉妬は持たんでええんや!

持たんでええもんは持たんでええ!(どすきかし、舞台の前に出てくる)

持たんでええもんは(ポーズ)持たんでええ!(優しく)

       ※        ※       ※

 このスピーチは、2015年のトーストマスターズ春の全国大会に出場したときのものです。ファイナルまで言って、これ以上できないぐらいの準備を繰り返して出場しました。ところが冒頭で、ぽかっと頭が白くなったんですね。時間にすれば、どれぐらいだったでしょうか。10秒とか15秒ぐらいだと思いますが、抜け落ちましたね。なんとか復活しましたが、自信満々で挑んのに、優勝どころか入賞さえせずに苦い経験となりました。

 このスピーチのエピソードは、大学時代にあこがれ、よく怒られ、でも、よく笑い、語り、飲みさせてもらった先輩との話でした。よき先輩に恵まれたことに感謝していました。


 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?