失敗談その1:自社製アプリがバグだらけ

僕は現在、エンジェル投資家としていくつかの事業に投資をしている。またメンターとして事業にアドバイスすることもある。なんだか偉そうに講釈を垂れているが、これまで、本当にたくさんの失敗をしてきた。

フィリピンへ渡り、「先生」と呼ぶ人と一緒に事業を始めたのち、資金を持って逃げられてしまったのは以前書いた通りだが、今回は、それに負けず劣らずのしくじりを振り返ってみたい。

システムトレードを機械化しよう

時は2006年にさかのぼる。

5の付く年はなぜか、日経平均が6~7割ほど上がる。2005年も例にもれず、ライブドアがニュースを賑わせ、小泉郵政選挙で自民党が圧勝するなど、株式市場は盛り上がっていた。

僕のそのブームに乗り、片手間ではあるが、FXや日経225のトレードをしていた。フィリピンの先生と引き合わせてくれた人ともうひとりの計3人で、情報交換をしながら。

ただ、トレードだけで飯を食うのは難しく、本業にはなりそうもなかった。フィリピンで進めていた事業が途中で頓挫したため、2006年に3人で会社を作ることにしたのだ。

当時、システムトレードという言葉が流行した。感情を挟まず、決められたルールのもとに取引するのだ。例えば、「ダウ平均が下がったら、翌日に日経225を買う」「ダウ平均が上がったら、翌日に日経225を空売りする」というものだ。そういうルールがいくつも決まっている。今も成り立つかわからないが、当時は有効な手法だった。

ルールが決まっているのだから、人が売り買いする必要はない。機械で自動的に売買させるソフトも流行り、日本ではひまわり証券が自動売買を進めていた。また、競馬投資ソフトの会社が多い九州で、株用のソフトも増えていた。

僕たちは、自分たちにも作れるのではないかと考えた。プログラムができるわけではないが、外注すればいい。つてをたどってプログラマを紹介してもらい。仕様を説明して作ってもらうことにした。

ソフトは比較的高額で、50~100万円が相場といったところ。ソフトが完成する前に、ホームページで自動売買ソフトを紹介するページは作って公開していた。

トレード用自動売買ソフトを自社開発し、先行販売

ある日、僕たちのホームページを見て、同じ福井県だと知った人から、問い合わせがあった。僕たちが子供の頃からゲームソフトを買いに行っていた会社で、事業はインターネットのオークションが中心になっていた。

連絡をしてきたその会社の会長は、ソフトを買いたいのではなく「売らせてほしい」という。打ち合わせをするために事務所に行くと、まるで灰皿でも飛んできそうな、ただならぬ雰囲気だった。

「Tommyさん、僕がソフトを売ってくるよ」

「でも、まだ開発中なので待ってほしいんです」

「いや、そういうのは早い方がいいから。鉄は熱いうちに打てと言うでしょう? 先行販売にすれば何も問題ありませんよ」

そう言われるとそういうものかという気もしてお願いすると、100万円近いソフトが、1か月もしないうちに10本ほど売れてしまった。

ところが、ものごとは簡単には運ばない。ソフトの開発が遅れていた。納品日になっても、まだ完成していなかったのだ。

通常、ソフトはダブルクリックしてインストールする「インストーラー」が付いているものだが、それもできていない。パソコンのフォルダを指定してファイルを保存し、動かすような仕様だった。お客様はその点をあまり気にしていなかったようで、僕たちがお客様のところへ訪問し、セットアップした。主婦や年配の方など、本当に普通の方だった。

しかし、その手間なんてまだまだ序の口。本当に大変だったのはそのあとだ。売りや買いのシグナルが出るのだが、「買い」と出ているのに売ったり、「売り」と出ているのに買ったり、決済がうまくいかなかったりする。

つまり、たくさんのバグが残っていたのだ。

開発者によくよく聞くと、全くテストをしていなかったと言う。

「このままではお客様に多大な損失が出てしまう」

僕たちはお客様に証券会社のIDとパスワードを教えてもらい、*手動で売り買いをした。ソフトからシグナルが出たら、売買をする。3人で手分けをして、半手動で進めた。とにかく休めない。パソコンの前に張り付きっぱなしで、ずっと売り買いをする。お客様から見たら、自動で売り買いされているのと同じだから、クレームはなくなった。

*厳密には人の代わりに株式の売買をするのは法的なライセンスが必要。
この時はなりふり構ってなれなかった。

2年ほど手動で運用し続けた

ソフトは売り切りだったにもかかわらず、裏側で手動のサポートをし続けなくてはならない。開発担当者に依頼をしたが、直すことはできなかった。

何とその間も、ソフトは継続的に売れていた。僕たちとしても販売しないことには売り上げが立たないので、売るしかなかったのだ。その頃になると「バグが多い」ということは正直に話していたが、それでもサポートはどんどん増えていく。

2年ほど続けたが、とてもじゃないがこんな状態を続けるわけにはいかないと、販売を停止した。

さて、これからどうするか。

活路となったのは「MetaTrader 4」というソフト。トレード好きな人たちが考えたプラットフォームで、独自にロジックを設定できる。プログラミングのように難しくなく、僕たちでも書くことができた。

自社開発したソフトではなく、MetaTrader 4で書いたものをそれまでのお客様のソフトと差し替えた。そこで初めて、サポートの手を放すことができたのだ。

もうずっと、つじつま合わせの連続だった。とにかく苦労をしたが、この経験によって大きな勉強になったと思っている。

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