失敗談その2:お客様と契約後にローンが組めない??

これまでにたくさんの失敗をしてきた。でも、失敗があるから今がある。失敗によって、たくさんの知識や経験を得たし、真摯に対応したことで人脈も得ることができた。

前回に続き、つい最近経験した大きな失敗を紹介したい。これは損失額も大きかった。

フィリピンで不動産仲介業者を

僕は昔からフィリピンによく行っている。国際空港から車で10分ほど行ったところのマニラ湾沿いが、埋め立てられていたのは知っていた。2006年ごろ、埋め立てただけで何もない土地に、アジア最大と言われるショッピングモール「SM モール オブ アジア」ができた。

当時からよく遊びに行っていたが、なぜこんなへんぴな場所にできたのだろうと、正直不思議に思っていた。その後、2012年に同じベイサイドエアリアにコンドミニアムが立てられる。

付き合いの長いフィリピン人のマーヴィンに、その理由を尋ねてみた。

「それは、このあたりを開発する計画があるんだよ」

その言葉から土地の計画を調べ始めると、カジノができる予定だとわかった。4つも5つも、カジノやホテルが建つ計画があったのだ。

「ここで不動産売買をすれば、めちゃくちゃチャンスがあるんじゃないか?」

僕はマーヴィンと大いに盛り上がった。

自分で不動産投資をすればよかったのだが、当時の僕はそれほど自己資金に余裕がなかった。そのため、不動産仲介業からスタートしようとマーヴィンに持ちかけた。するとマーヴィンは、過去に新興の不動産会社でトップセールスだったキャリアがあるという。長い付き合いだが、全く知らなかった。

ビジネスパートナーが不動産に詳しいとなると鬼に金棒だ。仲介業を一緒にやることにした。

ベイサイドエアリアを開発しているのはSMというコングロマリッド(複合企業)だ。ショッピングモール、不動産、銀行など、さまざまな事業をしている。グループ内のSMDC(SM Development Corporation)と代理店契約をすれば、その場所の不動産売買ができるという建付け。マーヴィンが話を付けて、僕たちはSMDCの代理店になることができた。

日本人相手に不動産を販売する

フィリピンの不動産投資は独特の特徴がある。フィリピンだけでなく東南アジア全般で同様なのだが、日本では一般的でないので説明しておきたい。

プレビルド(Pre build)とも、青田売り、青田買いともいうが、草ぼうぼうの土地に対して、数年後に完成する企画がある状態で販売、購入ができる。だいたい、3~4年経つと建物ができ、住めるようになるのだ。早く販売することで、デベロッパーは早い段階で資金回収ができる。

その土地は、不動産デベロッパーが3ヵ月に1回程度土地の価格を上げていくので、購入者は、キャピタルゲインが得られる。ただし、リスクもある。デベロッパーが使い込んで資金がショートすると、企画していた建物が立たないこともあるのだ。

SMDCはフィリピンで最も潤沢な資金を持つデベロッパーなので、これまでにそのような案件はないからかなり安全と言えるだろう。とはいえ、リスクもあることをお客様にはしっかりと説明していた。

また、どのような支払いのステップで購入できるのかも説明していく。1000万円の不動産を買う場合に、いくらの自己資金が必要か。フィリピンの場合、最初は5~10%の手付金でよく、数年の間にコツコツと支払いながら、最後に残りの6~8割を払うのが一般的だ。最後の支払いが大きいが、その不動産を担保にして銀行から融資を受けられるから、これも手持ち資金は不要だ。1000万円の不動産を買うのに、途中の支払いはあるにしても、まとまった資金は50~60万円程度でいいことになる。

最後に銀行から借りる部分がポイントとなるので、「外国人でも借りられるか?」とデベロッパーに聞いていた。「外国人でもローンを組めるから問題ない」と答えてもらったので、安心して日本人向けに営業活動をして、数か月で20ユニットほど売れた、自分たちでも一部購入した。

仲介手数料を手に入れ、自分たちでも将来的にキャピタルゲインを得られる。順調なビジネスのスタートになるはずだった。

銀行でお金を借りられない?

進めるにあたり、僕は不動産に詳しくなっていった。1年ほど経った頃、大変なことがわかった。フィリピンの銀行で外国人がローンを組むには、SRRVという永住ビザが必要となるかもしれない。

僕は焦って必死に調べていったが、やはりそうだった。SRRVを取得するには2万5000ドルほどを銀行に預けなくてはならない。永住権が必要ないという人に、2万5000ドルを捻出してフィリピンの銀行に預けてもらうのは難しいだろう。

他に方法はないだろうか。そこで見つけたのがクオータビザ。500ドルか1000ドルほど払えばよいが、日本人に対しては年間で50人しか発行しないというものだった。よくよく調べていくと、ある不動産会社が利権的に50件を握っており、通常は取得できないとわかった。

フィリピン以外の銀行で借りられないのだろうか。そう思ったとき、日本のスルガ銀行の話を耳にした。金利は高めだが、手持ち資金がなくても、ある程度の年収があれば不動産融資をしてくれると評判だった。海外不動産でも大丈夫そうだ。僕たちは、ほっと胸をなでおろした。

ところがそんな中、2018年に「かぼちゃの馬車」事件が起きる。スルガ銀行がスマートデイズという女性専用シェアハウスの会社と組み、個人向けの不動産融資で不正を働いていたのだ。スマートデイズは事業破綻し、金融庁が不動産融資への監視を強化した。「スルガ・ショック」として不動産業界全体で銀行融資が減り、当然、僕たちのお客さんへの融資も期待できなくなった。

「なぜ、事前にしっかり調べておかなかったんだ」

新しい手が見つかるたびに、その手は使えないとわかる。それ以外にもいろいろなことが起きて、これ以上進めるのは難しいと考えた。

結局、お客さんには経緯を説明し、永住ビザを取得してもいいという人が1人だけいたのでそのまま進めてもらい、それ以外の人には、払い込んでもらった分を自腹で返金することにした。額にして数千万円に上った。

買い取った分は自分たちの権利にできるが、僕たちも銀行ローンを組めるかどうかわからない。これからコツコツ払って無駄になるよりはと、最初に購入した自分の分だけを残し、お客様から買い取った分は権利を放棄して損切りした。高い勉強代だった。


システムトレードも、不動産仲介業も、よく調べずに見切り発車した結果の失敗だった。自己嫌悪になったり、悔しい想いをしたり、いろいろな人に迷惑をかけることになったが、逃げることだけはしなかった。だから、今もトレードや不動産でビジネスができる。失敗したときの知識と経験、人脈が活かせるのだ。

お金は損をしたかもしれないが、経験としてはプラス。だからもしかしたら、失敗とは言えないかもしれない。お金はあとから巻き返すことができるが、時間や命はそれができない。リスクを取らず失敗せず、経験で損をする方が、僕にとっては痛手なのだ。

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