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阿佐ヶ谷にて、中華料理 三番

3月8日。
天候はあいにくの雨だったけれど、私たちがかねてより行きたかった『中華料理 三番』へ。

私は生理2日目でやや身体も重く、お気に入りの傘を持つ気にはなれず適当なビニール傘を手にして家を出た。レインブーツも5年ほど前に当時の恋人にプレゼントして貰ったもので、これは靴底にすでに小さな穴が空いていて長距離を歩くと雨が靴の中に滲んでくるものだった。普段は雨の日もカッパを着て自転車に乗っているのですっかり忘れていたけれど、出勤でもないしとゆっくり歩いていたらじんわりと左足から滲んできて内心しまったとげんなりした。

待ち合わせは正午、徒歩なのでいつもより早めに家を出たのが功を奏しまだ時間に余裕がある。
三番のランチタイムは正午からだし、はなちゃんのことだからどうせ、雨だから外では待たずに私の連絡を待っているだろうと見当をつけ一旦靴屋に入ることにした。
阿佐ヶ谷の商店街にあるシューズプラザを足早に見渡し『雨の日のお出かけにもぴったり』というコーナーでナイロンのレインブーツを手にした。いつも黒い靴ばかり履いていて重たく感じていたので、たまにはと別の色に惹きつけられたものの黄色や赤は派手すぎて目が疲れてしまい結局灰色のものにした。ナイロンのぐわっぐわっという感触を足で感じながら、履いてきたレインブーツはそのまま店に引き取ってもらい店を出る。滲んでこないって快適!
重たかった足取りも元どおりに、コートのポケットからスマホを取り出して連絡をした。

『いつものファミマにいるね』

ファミマで生理用ナプキンを買った。またしてもうっかり鞄に入れ忘れていたから。こうやって買う羽目になった生理用ナプキンが家に細々溜まっていて、それはそれで急に来てしまったときに買う必要は無くなっているんだけど、このまま持ち歩くのは少し嫌だなとも思った。家を出て少し歩いたところにあるスコーン屋さんで買った袋が、生理用ナプキンの入った黒いビニールと一緒に揺れているのも、何だかなと思った。
スコーンは、いつもチーズケーキを焼いてくれるはなちゃんへのお返しのつもりで買った。いちじくとくるみ、シナモンとカルダモンのふた味で、私も同じのを買った。帰ってから食べるつもり。もしくは、今日途中で雨が止んだならまた公園で食べようかと考えていた。

しばらくするとはなちゃんが傘もささずに小走りで来た。たしかに霧雨ではあるけれど。一緒にビニール傘に入って、はなちゃんの不思議なレインブーツの効力が今日はまだないねって話しながら肩を縮めて歩いた。はなちゃんがそのレインブーツを履いて出掛けると必ず雨が止むので、はなちゃんは折りたたみ傘しか持っていない。少なくとも私は普通の一本傘を持ったはなちゃんを見たことがない。そのかわり折りたたみ傘は沢山持っているみたいで、たまに一緒に出掛けた際に「手持ちの予備がなくなったんだった」と言って買ったりしている。

三番は外見もよくある町の古びた中華料理屋さんという趣きで、入口左手にあるショーケースにはメニューサンプルが並んでいた。私たちの一番のお目当てであるオムライスは、中断の端っこにかわいらしく並んでいた。引き戸を開けて対面の2名席に座る。私たち以外のお客さんはサラリーマンと年配の女性、入り口脇のカウンターにおじさんがもう1人いるだけだった。
壁に貼ってある黄色い画用紙には赤い文字でびっしりとメニューが書かれていた。中華料理屋なのにカレーライスもある。オムライス以外には八宝菜を頼んだ。野菜が食べたい気分だったから野菜炒めと悩んだけど、道すがら餡のかかった熱々の天津飯も美味しいよねって言葉が2人の頭に残っていたのか八宝菜にした。

カウンター越しに渡されたオムライスの大きさに多少驚きながら、この焦げついた薄い卵を目にしてときめいた。中のケチャップライスがパンパンに詰まっている様子なんかは実家を思い出す。上にかかったケチャップソースも、何の飾り気もなくて良い。パセリも振らないし添えない。これだよ、これこれ!
付け合わせのスープは具材もないとてもシンプルなスープ。八宝菜は2人の予想を裏切ってうずらの卵が乗っていなかったけど、オムライスを食べるんだからまあいいかな。餡をしっかり絡めながら一口食べてみると醤油の味が強くてライスが欲しくなった。ひとりで来て食べるなら定食にしようかな。
オムライスに手を伸ばしたはなちゃんは、ケチャップがよく混ざっていないところに当たっていた。プラスチックのレンゲにその部分を乗せて見せてくる。それだよね、それそれ!実家でもよくあったもの、よく混ざってない部分。
私もオムライスに手をつける。取り分け用の器に少しよそってケチャップも少しつけて食べた。やさしい!味の強かった八宝菜とちょうどいい。おいしくてどんどん食べ進めた。見た目どおりボリュームしっかりのオムライスだけど、2人だとちょうどいいか少し多いくらいだった。おしゃべりな私たちをも黙らせた。

食べ終わる頃には周りのお客さんはまた新しい組になっていて、このまま店主の手が空かなくなると会計にもたつくと思って、一通り注文が聞こえたあたりでこちら会計を頼んだ。
店を出るとまだ雨が降っていて、また2人で小さくなって傘に入った。お腹ははち切れそうだったけど、せっかく日の出ている内なんだからこのままこの足で『女酒場うろこ』に行くことにした。


三番のオムライス
ケチャップライスがやさしい味だから
酸味がしつこくなく食べ進められる

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