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窃盗罪――パチンコ店に侵入し11万円を窃盗した男が自首した理由

 被告は犯行当時34歳の男性。非拘束で、上下揃いのスウェットを身につけ、髪は茶色に染めている。
 彼が問われている罪は、窃盗罪である。
 深夜にパチンコ店に侵入し、現金11万1200円と従業員のカバンを盗んだという。
 被告は全面的に容疑を認めている。

事件の詳しい経緯

 被告は兵庫県尼崎市に生まれた。被告を産んだ時に母親はまだ18歳未満だったという。被告が幼い頃に両親は離縁し、母子家庭で兄弟と共に育った。
 前科はないものの、少年時代にたびたび事件を起こし家庭裁判所に送られた。
 中卒後に職を転々としていた被告は、母親に紹介されて2018年1月から大阪市東淀川区のパチンコ店で働くようになった。勤務前から被告はパチンコが好きで、友人にもギャンブル好きが多かった。趣味と仕事が一致してはいたものの、一度無断欠勤をしてしまってから気まずくなり、被告はそのまま出勤しないようになった。

 母の紹介で始めた仕事であることから母にも顔を会わせ辛くなった。被告はその当時、母親と二人暮らしをしていたが、家出してネットカフェで寝泊まりするようになった。
 しかし給与の多くをギャンブルに費やしていたため蓄えがなく、やがてネットカフェに泊まることもできなくなりホームレスとなった。食うにも困る生活になり、被告は勤めていたパチンコ店に盗みに入ることを思いついた。


 2018年10月30日の深夜から翌日未明にかけて、被告は勤務時に使っていたセキュリティカードを利用してパチンコ店に侵入。現金11万1200円と、従業員のリュックを盗んだ。

 神崎川のそばで被告はリュックの中身を物色し、財布に入っていた1500円を抜き取り、銀行通帳を含むその他の内容物とリュックを遺棄した。

 被告の母親は当時、知人の家に泊まることが多く自宅には週一回程度しか帰らず、被告の失踪に気づいていなかった。
 パチンコ店は、窃盗事件が起きたこと、被告のセキュリティカードの記録が残っていたこと、防犯カメラに被告が写っていたことにすぐ気づいた。
 それらのことをパチンコ店から打ち明けられ「被告ではないか、どうしたらいい」と相談され、母親は家出を知った。
 母親にも被告の居場所はわからず、パチンコ店は11月16日に警察へ被害届を出した。

 公園で寝泊まりしていた被告は、子供たちが遊ぶ様子をよく見た。
 被告には婚姻歴がある。離婚した元妻との間に子供がおり、遊ぶ子供の姿に実子を重ねた。
 子供とは週に2、3回ほど面会していたが、家出によってその面会も途絶えていた。
「このままでは人生終わってしまう、子供とちゃんとするにはやり直さなければ」
 そう考えた被告は、11月21日に自首した。
 パチンコ店は盗んだ金を返せば許すとの意を示し、被告はすぐに釈放され、家に帰り、返済のため工場で働くようになった。給与は月に16万円で、ギャンブルからは足を洗った。

法廷にて

 裁判には被告の母親が出廷し、こう証言した。
「被告が小さい頃に主人と別れ、下の子を見させて仕事をしていた。
我慢をさせていた。目を向けるべきだった」
「1日1回は連絡を取るようにしたい。ギャンブル好きの友人から離す」

 被告自身はこう証言した。
「子供のためにもしっかりしないといけない」
「自分のためにより子供のためにお金を使った方が楽しい」

 その一方で、元妻が引き取っている子供への養育費は支払いが滞っているという。
 パチンコ店の前の勤務先にいた頃には支払えていたが、ここ半年ほどは止まっており、その分は「待ってもらっている」という。

 被告の発言に対し裁判官はこう語った。
「待ってくれって言って待ってもらえる金じゃないでしょ。子供可愛いって言っても。子供は生きなきゃいけない。待ってもらっていたら、その間、子供は食べずに何もせずに生きられるわけじゃない」
「なんでパチンコ行ける? なんで仕事休める?」
「自分のことしか考えてなかったからでは?」
 被告は何も言い返すことができなかった。
 被告の母親は裁判官の言葉に泣いていた。

 検事は被告に懲役2年を求めた。
 弁護士は執行猶予を求めた。

 判決までには1ヶ月以上空けることになった。被告の給料日を挟み、被害弁済を果たした上で判決に臨みたいからだという。

 初公判は2019年4月4日。
 被告の給料日は4月15日。
 判決は5月14日。

 しかし判決の日、被告はまだ被害者に1円たりとも払えていない状態だった。ギックリ腰であまり出勤できず、次回の給与分から分割で返済するという。

「ずっと返せないですよ。なんでそんなぬるい話してるんですか。なんで一銭も用意できてない状態なの?」
 裁判官は詰問するも、被告は言い返せない。
「用意できなかった理由を聞いてんだよ」
 裁判官の語気はかなり荒い。

被告「タイミングが悪かった。支払うお金を使ってしまった。示談交渉に使うお金を」
裁判官「楽しく生活できましたか? 今日まで」
被告「いえ…」

 被告は支払うお金がないことを弁護士にも話せておらず、予定が色々と狂ったそうで、弁護士は慌ただしそうであった。

裁判官「情けなかったら歯を食いしばって頑張りなさいよ。16歳で初めて家裁に来たんじゃないですよ。何歳ですか?」
被告「34歳です」
裁判官「謝れば許されると思ってるんですか?理解しなさいよ」

判決

 懲役2年、執行猶予3年。
 つまりは、今後3年間なんの罪も犯さなければ服役をしなくてもよい、ということ。
 裁判官は「1ヶ月の間に反省を示せていない。弁護士に連絡もできていない」という点を批判した。

感想

 この裁判は、裁判官も検事も弁護士も個性的だった。
 裁判長は男性で、かなり感情的に怒りまくっていた。彼も家には子供がいて、同じ父親の立場から被告の不甲斐なさに怒りを覚えたのだろうか……などと想像した。
 反省を促すために、もしかしたらある程度意図的にそういうポーズを取っているという可能性もあるかもしれないが、問い詰め方がキレッキレ。鋭利すぎて聞いているこちらも怒られている気分になった。
 説諭を受けて被告が更生し、子供の養育をきちんとできるようになればいいのだが。面会を拒絶されているというケースではないのだし。
 検事と弁護士は女性だった。男性率が高いので、両方揃って女性というのは結構珍しい。二人は対照的な人物だった。
 検事はちょっとリキの入った話し方で、化粧は戦闘力が高そうな凛々しい感じ。検事や弁護士はフォーマルな装いのため白黒な格好をすることが一般的なようだが、彼女は鮮やかな黄色のスカートを履いていることが印象的だった。
 弁護士は喋りがボソボソとしており、聞きづらかった。化粧はしていないように見えたが薄いのかもしれない。眼鏡をかけていて、服装はまさに「白黒な格好」で高校生のブレザー制服にありそうな感じだった。
 検事の華やかさはちょっと珍しかったものの、法曹界の女性は他の人もわりと凛々しさを醸すようにしていることが多い印象なので、高校生のように質素な弁護士もまた珍しく思った。
 あまり普段検事らの服装に着目しないのだが、黄色いスカートが目を引いてこの時は色々とメモをしていた。
 前に見かけた派手な柄シャツを着ている早口の男性弁護士も気になる存在である。

動画を作っていました。

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