見出し画像

名誉毀損――ご近所トラブルの末に名誉毀損ファックスを送りつけた女

被告は裁判当時50歳の女性。

画像1

細身で、髪は落ち着いた茶色に染めているが、手入れが滞っているらしく根本から10センチほどが白髪になっていた。うつむき、梳かれずに乱れた長い前髪で顔がほとんど隠れており、かなり不審な見た目。スーツ姿で、手錠も腰縄もつけられておらず非拘束。

クリップボード02

第2回の裁判の際には、髪が整えられ、過度に顔を隠すこともなく落ち着いた様子になっていた。
被告が問われている罪は、名誉毀損である。
近所に住む女性についての中傷文を、女性の子供が通う学校などにファックスで送ったという。
被告は容疑を全面的に認めている。

事件の詳しい経緯

被告は大阪府豊中市で生まれ育ち、短大卒業後に就職し、やがて結婚した。子供を二人産み、育児のために専業主婦となった。
被告は姑と同居していたが、関係はうまくいかなかった。夫や近所の人との仲も良好ではなく、被告は鬱病になり2016年頃から引きこもりになった。

被告はてんかんもわずらっており、てんかんと鬱病の薬の飲み合わせが悪く、そのために体調不良になったり、気分の浮き沈みが激しかった。体調不良をいたわってほしいという気持ちが被告にはあったが、夫は愚痴に付き合うのを嫌がり、話しかけても遮って会話を中断させるという。

被告と近隣住民との不仲は、10年以上続いているものであった。
事件当時の住まいに被告が引っ越してきたのは2005年頃。翌年の2006年、近所にAという女性とその一家が引っ越してきた。被告とAの間には特に交流もトラブルもなかった。

2007年~2008年頃に、被告は近所に住むBという人物とトラブルになった。被告がB宅にゴミを嫌がらせで投げ入れたのではないかと疑われ、Bと口論になったという。
我を忘れて被告は大声で叫び、警察が呼ばれるほどの事態になった。

BはAと仲が良く、他の近隣住民たちとも交流があり、周囲はBの側について被告は孤立した。被告を中傷する、差出人不明の手紙が届くこともあった。

2017年頃、被告はそれまで通っていた精神科に行くのをやめた。
「心も体もしんどくて通うのも辛くなった」
「通うことに家族がいい顔をしない」

その頃から被告は、Aについての中傷文をファックスで送るようになった。
送り先はAの子供の学校やAの職場。
「Aは飲酒しながら勤務している」
「Aは気性が荒れている」
といった根拠のない文を4枚送った。

Aは学校での保護者活動を積極的に行い、会社でもフル勤務で、被告とは正反対の活動的な人物。
検察は冒頭陳述で「活動的なAに嫉妬しての犯行」と断じた。

被告自身は犯行動機についてこう語った。
「近所の人にやり返してしまいたいと思った」
「Aは私と違って充実した生活を送っていたのでうらやましかったのではないかと思います」
「(A個人に対して)恨みなどはありません」

起訴されなかった数千枚の中傷文

今回の裁判で取り上げられたのは、Aにまつわる4枚のファックスについてのみ。
しかし、Aの意見陳述書によれば、近所に住んでいる何人もの人が自宅や職場や子供の学校に中傷ファックスを送られており、実際には数千枚はあるはずだという。
「被告にとって相手は誰でもいい」とAは述べた。
近隣住民は、被告の家の前を通ると壁を殴りつけるような威嚇音を出されて恐怖していたという。
非通知の中傷ファックスが周囲の人に送られるようになると、誰もが犯人は被告であると察した。
被告からの嫌がらせに耐えかねて、引っ越した人もいたという。

Aのもとへは2017年12月頃から9ヶ月間に渡って中傷ファックスが届くようになり、最終的に11枚送られた。ターゲットになっていた他の住民が引っ越したあとで頻度が上がったという。
Aの子供が通う塾に送られてきたものもあった。
Aは何度か警察に行くもなかなか対応されず、次にいつまた中傷ファックスが職場に送られるのかとひどくストレスを感じ、心臓が弱り投薬治療を受けているという。

逮捕

2019年2月、4枚のファックスの件で被告は逮捕された。
被告が2ヶ月間拘留されている間、被告の子供宛に何者かから中傷の手紙が届いた。
「お母さん逮捕されたんだってね
 ネットニュースに出てたよ
 早朝でめっちゃ見られたんだって
 犯罪者の娘として生きていってね」
と書かれていた。

やがて被告は釈放された。
被告の夫はAに対し示談を試みるも、拒絶された。それでも精一杯の誠意として、Aの代理人に対し100万円を支払った。
Aは被告一家に引っ越しを求めており、引っ越さなければ5千万円を支払うよう約束を取り付けた。被告と夫は別の場所を借りて住むようになり、子供たちは学校があるため、しばらくは元の家に留まっている。

法廷にて

情状証人として被告の夫が出廷した。
夫は少し威圧的なぐらいにハキハキと大きな声で話した。
被告の近所付き合いが上手く行っていないことは夫も知っていたが、特段深く気に留めていなかった。被告とはあまり会話をすることがなかった。
中傷ファックスを送るという犯行も、被告が逮捕されるまで知らなかった。
これからは被告とよく話し、監督していきたいと夫は話した。
検事は、釈放後の被告とどのような話し合いをしたかと訊く。夫は答えられずに黙り込んだ。

被告の子供の陳述書も読み上げられた。
「以前と同じあやまちがないよう監督したい」
「お母さんを見守っていきたい」

検事は、被害者の処罰感情が強いことから懲役1年を求めた。

弁護士は、実名報道や中傷の手紙など被告が既に社会的制裁を受けていること、2ヶ月半という長めの拘留を経ていること、特定少数しか読まないファックスという限定されたツールを用いた犯行であることから、執行猶予を求めた。

判決

懲役1年
未決勾留日数20日をその刑に算入する
執行猶予3年
保護観察処分

つまりは、今後3年間なんの罪も犯さなければ服役をしなくてもよい、ということ。また、その3年間は不定期に保護観察官との面会が必要となる。

感想

名誉毀損は良くないことだけど4枚だけか~と思いながら傍聴していたら、後半になって実際には数千枚送っていたと判明し驚いた。
発信者開示の手続きが大変なので4枚のみ取り上げられたのかな?
4枚あれば十分事件にできて、それ以上あっても大差なくて手間がかかるだけ、みたいな扱いなのかな?
とはいえ、開示されていない以上は本当に被告が送ったのかはわからない。
ご近所関係が相当こじれていたようなので、もしかしたら被告以外の人たちも送り合っていたという可能性もある。
数千枚は流石に一人でコツコツ送るには多すぎるので信じがたいけど真偽はわからない。
被告のフルネームはそれほど珍しいものではなく、検索してみたが同姓同名の別人の記事ばかりが出て、事件についての報道は見つからなかった。
逮捕後の、子供にあてて送られたという手紙の存在が怖い。
被告ともめていた大人が送ったのか、大人たちの騒動を聞いて子供と同世代の子が送ったのか。

動画つくってました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?