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暴行罪――走行中のバイクを横から蹴り倒し8年後に起訴された男

※この事件は判決までは見ていないため、どのような裁きが下ったかまではわかりません。

被告は40代ぐらいの男性。少しふくよかな体型をしている。

彼が問われている罪は暴行罪である。バイクで走行中の人物を、横から蹴り飛ばし転倒させたという。

この事件の特筆すべきところは、逮捕から起訴までに8年かかっていることである。一度は逮捕されたものの翌日には釈放され、そのまま8年間、別の事件が起きるまでは忘れられていたのである。

事件に至るまで

2010年ごろ、被告は弟と二人暮らしをしていた。弟は知的障害者で、以前は別に暮らしていたが、被告が引き取ることになったという。

引き取ったころ、被告は中華料理店に勤め、配達などをしていた。仕事中、家に一人で残される弟はたびたび外に出て、路上で奇声を上げたり、道端で寝転がったりした。弟は加害行為などはしないものの、その振る舞いは周囲の人を怖がらせ、たびたび通報された。弟が警察に保護されるたびに、被告は仕事を早退して迎えに行った。

業務に支障をきたすため、やがて被告は解雇された。職場と自宅は近く、弟のことは近所で噂になっていた。「ああいうのが身内にいる人は雇えない」とも職場で言われたという。


転職もうまくいかず生活保護を受けるようになりながら、被告は酒に溺れた。昼夜を問わずにひたすら飲んでいたという。

一度目の事件

2010年のこと、A(仮名)は商店街をバイクで走行していた。その通りは時刻によってはバイク走行を禁じているが、事件当時の13時30分ごろは規制のない時間帯だった。
「なんでこんなところ走ってんねん」
そう叫びながら、いきなり被告が現れてAを右側から蹴った。Aはバイクごと転倒した。被告は速やかに逮捕され、拘留された。

酒に酔っておりまともに話のできない状態だった被告も、一晩たてば落ち着き、そのまま釈放された。その後に通常であればすぐに起訴なり不起訴の判断なりの展開があるところを、何故か被告は放置された。

「酔って暴れてしまった」という覚えはあるものの、何故そのようなことをしたのかという事件当時の思いも、具体的になにをしたのかという記憶も被告にはほとんどなく、そのまま日常へ戻って事件を忘れていた。Aが足の指を骨折したことも、そのために立ち仕事で苦労したことも、被告は知らないままだった。

当時の記憶がほとんどない被告だが、「バイクの交通規制時間を勘違いし、注意しようとして行き過ぎたのではないか」という弁護士の質問には「そうかもしれない」と答えた。

二度目の事件

一度目の事件から8年後の2018年。被告は就職し、年収500万弱ほどの安定した稼ぎを得ていた。弟は施設に預け、年に数回面会する。仕事に響かないよう、酒は土曜日にしか飲まなくなっていた。

ある日に被告が電車に乗っていたところ、向かいの席に若い母親と幼い娘が座っていた。すると、乗客の男が母子に威圧的に絡みだした。被告は立ち上がり、母子をかばおうと男に向かいあった。男は怒り、被告にのしかかろうとしてきた。被告は抵抗して男の胸を押し返した。男は「被告に暴力を奮われた」とますます怒った。

もみあう二人は通報され、被告は警察から聴取を受けたが、逮捕にまではいたらなかった。しかし、その時の調べの中で、8年前にバイクを蹴った事件が未処理のままと判明し、2018年の夏に起訴となった。

何故未処理になっていたかは、被告も弁護士も検事もよくわからないという。単純に忘れられていたのだろうか。

法廷にて

被告は一度目の事件前、勤めていた中華料理店でバイクを使って出前をしていた。
「バイクで配達するなら、蹴られて転倒すればどうなるかわかっていましたよね。被害者は死んでいたかもしれないんですよ」と検事は問い、被告はうなだれて謝罪の言葉を繰り返した。

事件直後、被害者は厳罰を求めていたという。しかし、起訴後に被告が示談金30万円を用意し、許しを得られそうな状態になっている。
「大変申し訳ない。出来る限りの賠償をしたい」と被告は語る。

8年前の事件が今になって掘り起こされたことをどう思うかと問われた被告は、「自分の犯したことだから、償う機会になると思った」と答えた。
起訴されたことは職場にも伝えてあるが、理解は得られており辞職を迫られるようなことはないという。

感想

起訴は事件発覚から出来るだけ早くに起こさなきゃいけないものというイメージがあったので、証拠をつかむのに時間のかかる難しい事件ではなく、即座に逮捕されたのに8年放置というのはインパクトがあった。

被害者にとってはすぐに償ってもらったほうが良かったろうが、被告にとっては8年間の猶予があったのは良いことだったのかもしれない。生活保護を受けながら酒浸りという状態では、30万円は払えなかっただろう。
当時の荒んでいた被告にとっては、改悛する心の余裕さえなかったかもしれない。また、事件直後よりも8年後のほうが被害者の怒りや悲しみが鎮まり示談もしやすかったかもしれない。怪我に難儀はしたであろうが、障害が残ったり、怪我を理由に退職することになったわけではないようなので、年月によって自然と心は癒えたのではないだろうか。もしかしたら、バイクに乗るのが怖くなったり、人間不信になったりという精神的な傷は残ったままなのかもしれないが。

判決を見られなかったため、被告にどのような裁きが下ったかはわからない。この事件は、被害者の外傷が重篤ではないこと、被告が示談金を用意したこと、被告の事件当時抱えていた問題などから、恐らくは執行猶予がつくと思う。執行猶予がついても有罪ではあり、前科がついてしまうのは重いことではあるが、無罪にはなり得ないだろう。

電車で母子を助けなければ事件のことは忘れられたままで時効を迎えられたかもしれないが、「助けなければよかった」とは思わずに、「償う機会になると思った」と言ってくれたのが良かった。

動画作ってました。後半。


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