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タイドラマ事情と『THE GIFTED』

『THE GIFTED นักเรียนพลังกิฟต์ 』が面白い。
友人に勧められて、見始めたら物凄い!軽く分析してみるかー……となったので、やってみるよ、という記事です。

2期(Graduation)まで一気見してしまったのですが、
ざっくり見て、
・1期の綺麗な完結型×キャラクター担当の構成
・2期の1を乗り越えての「長尺」でまとめる構成
どちらも「めちゃくちゃ練られた構成」です。(当然なんだけど!偉そうにいうことでもないんだけど!)
中(制作)の状況がわからんけど「どの辺がすごいか」分かる限りで分析してみたいと思います。映像畑&もともとシナリオ畑の人間視点での戯言として楽しんでもらえれば幸いです。

その前に……まず「タイドラマしらんわ」の人のために、
私も知らなかった【タイドラマって何よ?】から行きたいかなと。

※そんなん知ってるわ、という方は飛ばしてください※


昨今のタイドラマ事情? ~進撃のタイBL~


6月に映画が本国に先駆け公開された『2gether』をはじめ、タイドラマといえばタイBLという流れが少し前から来ています。
くだんの『THE GIFTED นักเรียนพลังกิฟต์』を制作しているGMMTV(https://ja.wikipedia.org/wiki/GMMTV)も、『SOTUS/ソータス』や『2gether』シリーズなど、特にタイBLの部門で人気のある会社。
でもって、昨年テレ朝と業務提携はじめまして……あからさまに人気急上昇!な感じですね。

タイのBLドラマで面白いのが、(GMMもですが)制作と芸能事務所をあわせた会社の作り。このため、所属タレントがさまざまなドラマで使いまわされていく流れがしばしば見受けられます。(言い方が雑ですまん!)

「このドラマに出てたこの人、こっちでコレやってるのね~」「え?あの逆CPだと?!」等変遷として楽しめるので、これはこれでオイシイ仕組み。

また、それぞれの主役級の恋人同士(カップリング)にそのカップリングのファンクラブがあるんですね。これにはめちゃくちゃ驚かされました。
繰り返しになりますが「個人のファンクラブ」でなく、「その二人の組み合わせ=主役の恋人同士役同士のファンクラブ」です。
共演して恋人役ですとなったメインの二人は、ドラマが終わってからも数年契約で恋人設定でファンミーティングだCMだが続く運びになることがあるようで。……す、すげぇ……この辺はめっちゃタイ文化! 
人気がでたら再共演→さらに人気が伸びるというケースも。このタイプの契約はやる組とやらない組、事務所の形態にも違うみたいです。

「この設定、本人たちはどう思っているの?」という疑問もありますが、ビジネスライクな共演者もいれば、普通に仲がいい二人もいます。売れすぎてそのままカップリング営業することになった組なんかもいるそうで……。といっても、この辺も本人の裁量でやるやらないを決められるんだとか。
またタイの特にBLドラマの出演層は、お金持ちか、本当に所得に困っている層の両極端だとか。

そんなタイのBLドラマですが、タイでメインのテレビ局でも制作されてます。この辺日本の『おっさんずラブ』や『ちぇりまほ』とも通じるものがありますが……もともとタイはジェンダーの多様性を大きく認めている文化。もう少しフランク&身近なものといった印象です。

そして、これらのドラマ出演をステップに、タイから中国や韓国へ進出する俳優やアイドルも増えています。例えば『GIFTED』の2期に出ているPatrickも創造営2021(中国オーディション番組)からINTO1のメンバーとしてデビューしていますし、同期にドラマ『2moon2』出演のNineもいます。
タイドラマ自体、中国WeTVなどでも扱われていて、Youtubeでの視聴が出来るため、アジア圏の視聴率はUP中。「アジアドラマ・アイドル文化圏」は徐々に国境を越え始めているのかもしれません。
(※既に越境コンテンツ宣戦は二段階目&今後プラットフォームの独占化×奪い合いの流れは加速する方向にあるのですが、それはまた別の機会に)

ともあれ、ファンもたくましいので、例えば日本でも、当たり前のようにVPNを通してタイ版を視聴していたり……字幕を有志でつけ公式にアプローチして認証してもらったり……Weiboなどを駆使し、様々な角度から情報を集めたりと、活発な動きを見せているタイBL。

さて、話がそれてきたので戻しますが、ここまでは、タイBLを中心に、タイドラマすげぇ&日本でも見られてきているぞ、という前段。
ここからはそれを踏まえたうえで『THE GIFTED』はどう凄いのかの個人的な感想&分析のターンです。

『The GIFTED』って?

さて本題です。
『THE GIFTED นักเรียนพลังกิฟต์』は上記BLドラマ作品を多く作っているコングロマリットが作ったいわゆる「学園サスペンス」(Not BLドラマ)。全編Youtubeで視聴できます。御託はいいから見せろという方はどうぞ。

エンタメの王道を流れるように計算して作られており、HBOやBCCのドラマの作りを感じます。構成が何かに似てるのですが、ぱっと浮かばないのでまた加筆予定。いい意味できっちりした作りであることについては細かく後ほど見ていきたいところ。
Wikiによれば、元は「チュラーロンコーン大学コミュニケーションアート学部の映画祭で上映されたDhammarong Sermrittirongの同名の短編映画を基にした作品」で、小説として執筆された後に、ドラマシリーズが始まった経緯があるようです。Youtubeにあったので気になる方はこちらから

が、一旦、そこから離れて、「超能力学園もの」としてこれまでの海外ドラマ・映画全般含めてマッピングすると、比較的近いジャンルにXmenがある。Xmenシリーズ×学園の歴史は古く、アニメーションだとX-MEN:エボリューション が2000~2003年公開。日本でも衛星CartoonNetworkで放映。
ちなみに映画では2016年Xmen アポカリプスやウルヴァリンで学園が登場。


更に2020年にはNew Mutanutsが公開され、トレンドにも乗っています。
※なお余談になりますが、ややこしいことにXmenシリーズにも『The Gifted』というドラマがあります。超能力でなくミュータントの話ですが。
日本だと古いところで『狙われた学園』。能力の目覚めさせ方などはSPECシリーズと重なるところも……?似ているから何?という話ではなく普遍的・かつ世界的に「みんなお好きよね」のジャンルなんですね、つまり。

テーマ「階級差×学力問題」&構造

学力差・階級差問題は昨今扱われている一つの大きな社会テーマ。
ターゲット世代を考えても「学生の目から見た社会」という切り口に、学園モノはぴったりです。インドの『きっとうまくいく』は勿論、タイの映像作品を語るうえで絶対欠かせないのが『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017タイ映画首位作品)。カンニング強盗ものなのですが、やはり根底に流れるのは非常に激しい学力と階級の問題です。

The GIFTEDのスゴイところは、社会的にオンタイムなテーマを取り上げたうえでキチンと作られている主人公VS敵の対立構造にあります。

上の社会的な問題の中でも、The GIFTEDの基軸は「不平等なシステム社会に対する学生側のまなざしと反発」。
学校内の学力ヒエラルキーの外に、更に、先生、校長、教育委員会、文部省……
多重構造の中で、主人公に対する【仮想の敵】をまとめて「学校システム」としたとき、「一体誰かシステムを作っているのか/守っているのか/諦めているのか/壊したいのか/利用したいのか」……

どこが味方でどこが敵なのか? 
どうすれば平等で平和な社会になるのか?

この「敵」を一旦「先生側→校長」として進めながら、徐々に細かく分けていき、揺さぶる構造が繊細です。(特にGraduation)
最終結論は二期へ繋がっていくのですが、まずセットアップとして、「このままでいいのか?」を問う一期も、骨組が整備されています。

具体的には、
まずGifted Classを紹介しながら VS他クラス/担任/別の先生/校長/OBとそれぞれのかかわり方やスタンスを明らかにし、ラスボスを明確に「校長」のすえていく流れがお見事……
更に、一話完結・最後だけラストに盛り上がる構造。綺麗に後半3分の1徐々に加速して盛り上がるカーブグラフで、気持ちを揺さぶりに来る三幕構成。

その加速に一役買うのが「誰が敵?」のミステリ性。
二期で学校外へ広げ、社会との関わりまで見せていく流れと一期の結論との複雑にからめる【秘密要素】が全体を盛り上げています。
折角「ミステリ」の話が出てきたので、ここでちょっとTHE GIFTED……特に一期の作りをこのキーワードでプチ解説。細かいのはまた別にやりますので、興味のある方だけ。以下、この脚本の凄み=構造のお話です。

ミステリー性&物語構造

ストーリーの組み立て方/分け方の一つに「ハイコンセプト」と「ソフトストーリー」という考え方があります。
前者は簡単にいうとハリウッド式・大きく流行るタイプ。後者は私小説・ミニシアター的な作品に多いもの。前者が冒険的でアグレッシブだとすると、後者は内省的で静かなものが多いです。
The GIFTEDの一期は、キャラクターそれぞれの担当回で成り立っています。
そしてキャラクターそれぞれの悩みや生き方が、超能力が付随することで明らかになる「内省」型=ともすればソフトストーリー型にも見えます。結果大きな物語=ハイコンセプトへの流れが出てくるのですが、The GIFTEDのスタートはシンプルに主人公の「なぜこんな状況で勉強するのか=不平等なのか」という問いかけにより始まっています。
個人の小さな問いかけが、選ばれ「巻き込まれて」行く形のお話です。

こういった個人の小さな感情にフォーカスする作品はうまくハマれば共感が大きい分爆発的に広がるのですが、共感共有を得られない層からはそっぽを向かれてしまいがち。そこで、普遍的なテーマを掛け合わせハイコンセプトに仕立てるか、「自分たちと同じだ」と思わせるキャラクターと組み合わせる必要があるのですが、The GIFTEDはどちらでも成功しています。
一つは↑に書いた社会問題との絡み。もう一つは際立つキャラクター(俳優の力も含む)。
そして、ここで、ダメ押しの「ミステリ(サスペンス)」。
『スクリプトドクターの脚本教室』をかかれている三宅隆太さんは「興味の持続」の為「ハイコンセプトにはサスペンスが入る」と言っていますが、「なんでだろう?」「どうしてそうなったんだろう」の疑問は、「どうなってしまうのだろう」「次は?」というストーリーへの好奇心を補強して、ハラハラドキドキするプロットラインを整えてくれます。

The GIFTEDのミステリ/サスペンスは「なぜGIFTEDクラスが出来たのか」「OBの行く末は?」「なぜ特別なのか?」と「何で自分の力が覚醒したか?」のくわえて、初期の「自分の能力は一体何なのだろうか」が加わります。気づいて!!!めっちゃ謎だらけじゃん!
それだけだとお話は破綻しますが、担当回に一つないし二つずつ「答え」を出していく為、飽きません。いわゆる伏線の回収といわれるやつですが、大きい伏線/小さい伏線のうち小さい方はちょくちょく回収しないとお話は盛り上がらないのです。どうなる?こうなる?どうなる?→こうなる、どうなる?の連続になっているから、次を見たくなるんですね(この辺本編の話しながらじゃないと書ききれん……)

普通の学生の普通の悩みと、社会的に今取り上げられていることに対して、プロットに「WHY」がてんこ盛りという形……これは、メロドラマの構造に似ています。何で二人は関係をもちはじめたか、どうしてこうなったか・この先はどうなるのか?不安とハラハラで盛り立てる不倫劇のサスペンス構造と同じ。後は細かく分析する中で書いていけたらなぁと思います。


カラコレ×見た目

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The GIFTEDの凄いところは、バッドジーニアスの流れを汲んでるのかもしれないという話を上記でかきましたが、少しダーティ・青味がかった調子と色味やcinemaライクなカットわりなど共通項があります。そこがどこか欧米風を思わせる理由になり、ヨーロピアンで青味を強くした調整に見えます。

ちなみに、『バッドジーニアス』では、案の定『ゴッドファーザー』※のカラーを参考にしており、偶然にせよ同じテイストが潜んでいるようにかんじます。^ “วินเทจแบบ 70 ผ่านสีใน ฉลาดเกมส์โกง” [70s style vintage through colours in Bad Genius] (Thai). Kantana Film Facebook page. Kantana Film (2017年5月5日). 2017年6月27日閲覧
OPもですね。エフェクト含め一時期流行ったSFのやつ……。ロゴの回し方とかまんま……です。どのソフト使ってやるか分かるぞ、分かるぞぉという……
それはそれで作ってみようかなと。

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次は1話だけ、細かく解析してみたいかなと。


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