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【TOLOPANの真髄に迫るvol.23】誰でも楽しめる「間口」の全粒粉コンプレ⁡

「COMPLET」は、
「完全な」「全粒粉」を意味する。

パンコンプレとは100%全粒粉のパンのこと。


僕は面識はないのだが、パンコンプレと言えば「ベッカライビオブロート」の松崎太さんが頭の中で一番に浮かび上がる。

2度足を運び親から送ってもらったりしている好きなパン屋さんだ。全粒粉のパンを「素朴」なところから「上質」に仕立てた日本の大事なパン職人だと思っている。

素朴が上質に移り変わる時。
それは、全ての材料と工程に意味を見いだし、一つずつを細分化し、それぞれの配合からくる味の頂点、香りのピークが食感の咀嚼の中で一体感として生まれ「完全なパン」になる時だと思っている。これを生み出すために、どの工程においても丁寧な視点の行き届き方がなされているはずだ。

いつ食べても美味しい。

それは「丁寧」を毎日毎日行っていることの証。僕は松崎さんのパンを見る度、食べる度に「まだまだ」「もっともっと」と思える。彼のパンは、僕の向上心のヴァロメーターになっている。



さて、トロパンに話を戻そう。

トロパンのコンプレは、12年半前に出来上がり、今も配合を変えながらブラッシュアップしてきた商品だ。ビオブロートの完全なパンの対極のようなトロパンでは、完全なニュアンスとしてのコンプレになっている。

僕の考える食パンとしてのコンプレは、朝食のスクランブルエッグやソーセージ、ベーコンを乗せて食べるシーンを連想する。トロパンのコンプレは、そんなシーンでの「完全なパン」になればという考えがある。


甘味としっとりとした食感に関しては、ライ麦を12%、酸味としてはライム麦と全粒粉水和させ19°Cで12時間おいた種でサワー種ほどの酸味ではない柔らかい酸味を出している。

旨味としては全粒粉の香りを邪魔しない程度のバター10%そして少しの苦味は粒を咀嚼した瞬間のみになる。真の全粒粉はたった8%。これは、熊本製粉の培焼全粒粉を使用しているためだ。沢山入れると雑味、えぐ味になってしまうので8%にしている。この割合で十分に良さは伝えることができ、バターとの相性が良くなる。

ハード系で使う全粒粉をうまく使うには、ローストしないか、ふるいで粒だけを煎るかになる。それはグルテンにだけ期待せずに微生物が動きやすい状況にし、旨味や香りをゆっくりとアルコールと炭酸ガスに代えて豊かな味わいにするため。そうすると微生物が死ぬ温度帯でのローストはしなくなる。何故培焼全粒粉を使用しているのかというと、冷蔵で3日は持たせるため、商品としてのボリュームを安定的にするため、強い香りとバターとのバランスが取れるためだ。
冷蔵で3日、ボリュームに関してはペーハー低下を気にしての判断。脂質の酸化、アルコールの酸化(酢酸)、炭酸ガスの溶解(炭酸)、でんぷんによる(乳酸)発酵により生成される酸類からペーハー低下に繋がる。それによって、グルテンたんぱくの等電点に近づく速度が上がる。殻の部分は一番外側。それは微生物が一番ついているところ。つまり、酵素力が強く動きやすくなっているわけだ。だからこそ全粒粉を使う時には、なるべく有機のものを使用するのがいい。外側を考えると農薬を考慮しなければならない。

今はビオブロートが答えを出し、それを考えれば酵母の調整や温度管理で全粒粉100%の食パンやハード系が出来ている。


トロパンのコンプレは焼成前に穴を開け澄ましバターを真ん中に入れている。なのでトーストした時にはバターではなくマスタードと具材で楽しめる。僕たちは固いイメージの全粒粉を、「上質」としてではなく誰でも楽しめる「間口」の役割をもたせている。



自分の求めるパン作りにおいても、死ぬまで「完全なパン」を追い求めている。

仕事は、答えを出してから動くもの。
しかし、一生の夢であるパン作りには答えがまだ見つけられていない。だから、ひたすらに求め続けるのだ。僕にとってパン作りは、単なる仕事ではない。だからこそ追い続けることができるのだと思う。

「一生」という時でモノを考えると、人の心に刺さる刺激が強くなる。「一生」に対して、なにか明確なゴールを置きたくなる。

しかしそれでは、人としての楽しみが減ってしまってしまうのではないだろうか。

答えのない、ゴールのない、そんな「一生」でいいんだと思う。その方が、気楽で、愉快で、きっと楽しい。だから自分は、時に微妙なニュアンスを醸して、人にそれを楽しんでいただきたい。

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