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[Dr.Izzy report]”隣”の君を追う、飛行機雲




君にたどり着くまで後どれくらいかかるんだろう

UNISON SQUARE GARDEN 「8月、昼中の流れ星と飛行機雲」より


  Dr.Izzyの9曲目に位置する「8月、昼中の流れ星と飛行機雲」にはこんなフレーズがある。実は今まで筆者もすんなりと受け入れてしまっていた一節なのだが、そもそも「君にたどり着く」というのはいったい何を意味しているのだろうか。もしかして比喩なんじゃないの
 本稿ではそんな疑問をスタート地点にして、この曲を妄s…解剖してみたいと思う。


・隣にいる君にたどり着いていない「私」

 シンプルに考えると「君にたどり着く」とは、物理的に私が君の一番近くに行く、というような意味だと思える。しかし、筆者はどうもこのフレーズが引っかかる。それはなぜか。

隣で君が黙っているのに気づいているのに傷つけているよ

UNISON SQUARE GARDEN 「8月、昼中の流れ星と飛行機雲」より


いや、距離近くね?



 私と君の距離はとても近いのである。近いなんてものではない。えだって隣じゃん。全然2人で遊びに行ったりはしてるであろう近さである。こんな一点だけで関係性を推し量るのもどうなのとは思うのだが、少なくとも二人の仲は良さそうで、君は「私」にとって近い存在だと言っていいだろう。
 なのに「私」は「君にたどり着くまで後どれくらいかかるんだろう」と悩んでいる。

 どれくらいでたどり着けるのかわからないくらい、君と「私」は遠いらしい。二人の距離はとても近いようで、近くないのである。


 こんなに親しそうなのに。こんなに近くにいるのに。これはどういうことなのだろうか。


・主人公の抱えるトラウマ

 端的に言うと筆者は、「私」は過去になんらかのトラウマを抱えていて、そのせいで「心の距離」をうまく詰められていないのではないかと考える。たとえば1番に、以下のような描写がある。

交わってはいけないから平行線だ なんて笑わせる
そう思ってた揺るがない過去に今も捕まったまま

UNISON SQUARE GARDEN 「8月、昼中の流れ星と飛行機雲」より

 恐らく「私」は過去に思いを寄せる相手との距離感を上手く取れずに?失敗した経験がある。それは好意を寄せる相手と親しくなる(心の距離が近くなる)ことを恐れて平行線(思いを伝えない状態)の関係でいたことだろう。過去に今も捕まったままというのはそのことに今なお苦しめられているという意味なのではないか。だから、君が隣にいるのに距離のとり方(接し方?)が分からず、傷つけてしまっている。
 ここで印象的なのは「交わってはいけない」というフレーズである。ここでいう「交わる」はまあ交際的な意味合いだろうと思うのだが、どうやら「私」はそれを自ら制御しているようなのだ。曲中には登場しないが、過去になにか恋愛において深い傷を負ってしまったのだろうか。とにかく「私」の根底にあるこの縛りのようなものが、トラウマの正体だと筆者は考える。
だとすると、「君にたどり着く」とは過去のトラウマを乗り越え、物理的にだけではなく君と心の距離を詰めること だと言えるのではないか。


交わってはいけないからねじれねじれたって近づきたい
そう思ってた揺るがない過去が君を苦しめたね

UNISON SQUARE GARDEN 「8月、昼中の流れ星と飛行機雲」より

 2番でも「交わってはいけないから」が再び登場するのだが、ここでちょっと疑問が生まれる。交わってはいけない「から」(ねじれねじれたって)近づきたいという繋げ方がやや不可解に思えるのだ。交わる と近づく、は似たような意味なので、交わっちゃいけないなら近づくのもダメなのではないか、接続詞は交わってはいけない「のに」じゃないのかと。これはどういうことなのだろう。

・交わってはいけない?

 交わってはいけない「から」近づく、という言い方は縛りに従っている状態のようである。変な言い方をすれば、交わることは禁止されているので近づきますよとそういうことになる。
 そう考えると、この縛りはどうやら人そのものと距離をおいている、という意味合いではなさそうである。「私」は、交わる=交際することただ一点のみを禁止している。そう思うと、交わってはいけないからねじれねじれたって近づきたい、というのは「恋人になることは出来ないから、そうではない関係性で近くに居たい」というニュアンスとして受け取ることができる。
 ちなみに「ねじれねじれたって」という箇所は、中学数学に登場する「ねじれの位置」という概念が参考になるのではないかと筆者は思う。下記のサイト曰くねじれの位置とは「平行でなく交わらない2つの直線の位置関係」なのだそう。(全部歌詞に出てきてるね) 
 「ねじれねじれ」ているとは「私」が君と平行線の関係でもないが交わってもいない状態、友人の域を出ているが、恋人にもなり切れていない、という今の二人の関係性のことなのだろう。
中学数学 定期テスト対策【空間図形】 ねじれの位置とは?


・「私」の克服のストーリー

 ここまで、「私」が抱えている(であろう)トラウマについて考えてきた。そんなトラウマを抱えた「私」はどうなっていくのだろう。その様子は2番以降で描かれている。
 2番で描かれるのは紆余曲折しながらも君に近づこうとする私の姿である。恋の駆け引きは難しいもので、世の中にありふれている正解(=テキスト?)はとても通用しない。それでも、「ページの隅まで目一杯受け止めなくちゃ」という言葉が出るのは、君と過ごす時間がそれだけかけがえのないものなのだろう。先程のような「ねじれねじれ」た関係もありつつも、「私」の気持ちは君へと向かっていく。トラウマに対しても、「過去に別れを告げなくちゃ」と決心を固めている。
そして終盤。「私」はついに君の目の前に到達する。

私は ごめん それでも 目の前まで来たよ

UNISON SQUARE GARDEN 「8月、昼中の流れ星と飛行機雲」より


 冒頭で君にたどり着く…とは心の距離を詰めることだという話をしたが、ラスサビの目の前まで来たよ とはどういうことだろう。これは告白のシーンなのではないか?それはつまり交わってはいけない、という己に課した縛りを突破した状態ともいえる。ごめん、それでも という挿入句は、どこか臆病の現れのようにも聞こえる。まだまだ私は完成形ではないのだけど、大事な言葉を誤魔化したりしないで伝えるから聞いて欲しい。
 そう、ラスサビで描かれるのは過去を引きずっていたり気持ちを誤魔化してしまっていた私が君の目の前まで来て、今まさに君にたどり着こうとしている(=告白する)シーンではないのだろうか。


 …と妄想を交えつつ楽曲全体を追ってきたが、こうして眺めてみると8月、昼中の流れ星と飛行機雲 は恋愛を自ら禁じてしまうほどのトラウマを抱えた「私」がそれを克服し、己の気持ちと向き合って、想い人に気持ちを伝えるまでの成長のストーリーだと考察することができるのである。…思ってたよりも壮大な展開だった。



・飛行機雲、ってなんですか

 最後にもう1つ考察したいことがある。それは、「飛行機雲になりながら」てなんですかというお話。飛行機雲、とwikipediaで引いたならば

飛行機雲は、飛行機の航跡に生成される細長い線状の雲。

wikipedia「飛行機雲」より

と出る。雲ができる仕組みとかはともかく、飛行機が通り過ぎた跡にできる雲のこと、という理解で良さそうだ。
 が、ここで筆者は考えた。もしこの曲が主人公の成長のストーリーならば同じ「飛行機雲になりながら」でも、1番とラストでは意味が違うんじゃないの、ということだ。
1番の飛行機雲は君にたどり着く 私自身のことではなかろうか。飛行機雲を私だとするならば君=飛行機ということになる。この時点では「私」は君にたどり着いていないので、飛行機のすぐ後ろから君を追いかける私 の比喩としての飛行機雲。(想い人を飛行機に喩えるのちょっと草だけど)

 そしてラスサビ、最後の最後に出てくる飛行機雲、とは君にたどり着く私の声のことではないだろうか。飛行機が通り過ぎて行ったあと飛行機雲は消えていってしまう。同じように私の声も君に届いたあと飛行機雲のように消えていってしまう。ラスサビの部分が告白のシーンであるとすると、私は大事な言葉を口にしようとしているので、目には見えない声 (大事な言葉)を雲になぞらえて形に残って欲しい と願っている、という意味なのではないだろうか。



・最後に

https://summerday.hatenablog.com/entry/2023/06/22/193005

 紹介が遅れましたが、こちらは、ナツさん主催企画「Dr.Izzy Report」の、「8月、昼中の流れ星と飛行機雲」の記事になります。お送りしてきました私はともりと申します。(大遅)
 ここまでお読みいただきありがとうございます。楽しそうな企画に乗っかって、僕がUSGのバラードの中で一番好きな曲について書きました。(1番好きな曲、は割と気分で変わる人なので)
 好き勝手に妄想を繰り広げてきましたが、この記事に書いていることはあくまでも筆者自身の考えであり、こういう歌詞の読み方もあるんじゃない、という妄想の一つに過ぎません。企画趣旨に沿った言い方をすれば、僕なりの解剖の仕方、ということになるでしょうか。なのでこの曲に対して全く違う捉え方をしている方もいらっしゃるでしょう。けど、そういう自由に解釈する余地が残されているのが、田淵の歌詞の良さなんだと僕は思っています。
 それとこの記事では、楽曲タイトルの元になったのではと言われている某映画や、この曲とよく似たタイトルを持つ某曲との関連性は一切語っていません。どっちも先駆者がいそうだし、そのような参考文献を使わないでこの曲と真っ向勝負してみたかったからです。結果、妄想ではありますが、好きな曲への理解がさらに深まった気がします。
最後になりますが、主催者ナツさんに最大級の感謝を、そして参加者の方々に敬意を。ぜひ他の参加者の記事もお読みください。ありがとうございました。




Respect each other…


じゃなくて、





それではまた。


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