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土曜、新宿

土曜日、久しぶりに新宿を歩いた。妻は用事で朝からでかけていた。11時ごろに丸ノ内線を新宿三丁目駅で降りて、地下道を通り、新宿駅東口のベルクという喫茶店に入った。

ぼくはこの店が好きだ。カレーとコーヒーのセットに、単品でホットドッグをつけた。一人でむしゃむしゃと食べた。店内は混み合い、テーブルはすべて埋まっていて、カウンターに立って食べた。うまかった。良識のある味がした。これは外で安く飯を済ませるときには珍しいことだ。

特にやりたいこともなかったので新宿に来たときいつもそうするように歌舞伎町の方へ歩いてDUGというジャズを流す喫茶店に入り、今度はテーブルに座り、少し悩んでまたコーヒーを頼んだ。薄暗い店内には初めて聞く女性ボーカルものが流れていたが、何曲かののちにそれはチェット・ベイカーのアルバムに変わった。それはぼくが人生のある時期に毎晩のように繰り返し聞いたアルバムだった。

カウンターでは酒に酔った男がアルバイトの女の子に声をかけたり隣に座った外国人につたない英語で話しかけたりしていた。この店も入りやすくなったよ、と彼は言った。俺が通い出したころは入るのにひどく緊張したんだ、とも話した。

店の隅まで聞こえるような彼の声の合間をぬって流れるチェットの静かな歌声を聞きながら、ぼくは自分の人生の折返し地点をずいぶん前に通りぎたことについて考えた。

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