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自分の目標を見失った結果、向かうべき課題に気付く

「池谷さんは何をしたいんですか?」


取材したお寺のお坊さんからストレートに質問をいただきました。お寺の広報を手伝う仕事とはいえ、池谷は何者なのか、何がしたいのかがわからないとお寺さんも相談しにくいかと思い、今回は自分のことを話したいと思います


池谷がしたいこと


課題を解決したい、そのために広報のお手伝いをしています。
私の実家がお寺であり、自分も僧籍を持っていますが、大学卒業後はテレビ局に入社したマスコミ畑の人間です。

待遇の良いテレビ局を辞め、お寺の広報をすると決めたのは、お寺の広報に課題を抱える人が身近にいるからです。

そもそもお寺のなかにいる人のうち、広報活動を誰がするのかという課題があり、その課題を解決するために寺院の広報を代行しています。

「広報するくらいお金があるお寺を狙ってるんでしょ?」
「あなたも僧侶ならお寺からお金をとる営業なんてすべきじゃない」

実は昨年いろいろと叩かれてしまい、お寺の住職や信頼していた仲間の僧侶からボッコボコに言われました。


コロナ禍で収入が減るお寺もあるなかで、お寺に提案を持ち掛けることを咎められたのですが、じゃあお寺はコロナ禍では何もせず閉扉するのでしょうか?
こんな苦しい状況だからこそお寺がすべきことはあるし、市民にお寺の価値や活動を伝えるべき時期だと思います。

別に私が広報代行をしなくても、各宗派の本山がフォーマット化した広報ツールを各寺で使えばいいのではと思うかも知れませんが、それらのツールがうまく使えない理由があり(壇務には地方性があるから)、今回は自分のことをお伝えするため説明は割愛します。

私がテレビ局を退社し、広報PRを学び、お寺の課題をなぜ解決したいと思ったのかを聞いてください。


憧れたテレビの世界と現実


私は新卒で福岡のテレビ局に入社しました。大学受験のとき阪神・淡路大震災が起き、神戸の実家は倒壊。母の実家が福岡というのもあり、福岡の大学へ入学しました。初めての一人暮らしでしたが何より寂しかったのは高校から続けていたアメリカンフットボールのテレビ番組が福岡で放送されない…。

就職活動では福岡のテレビ局を中心にアメフト番組を作ることを念頭に「人に感動を与えたい」と面接で言い続け、フジテレビ系列局のテレビ西日本に入社しました。

しかし、配属されたのは営業部。番組を作るのではなく、番組に必要な予算を稼ぐ仕事でした。夢破れたと思うくらい落ち込みましたが、テレビが好きだったので愚直に仕事し、福岡7年と東京7年の計14年間営業をしていました。

努力を続けていると目標に近づけることを信じていたので、番組ディレクターにはなれませんでしたが、結果的に念願のアメフト番組を作ることが出来ました。私が担当していたタマホームが当時、本社が福岡の久留米にあり番組の冠スポンサーになってくれたんです。

これで調子に乗ってしまい、「うちの番組から巣立ったタレントを育てたい」と当時、福岡の女子高生でモデル活動をしていた女優・山本美月が東京へ旅立つときのドキュメンタリー番組を作りました。

そんな華やかな仕事をさせてもらったのですがリーマンショックで景気が落ち込み、フジテレビの番組視聴率が年々下落していきました。


そんななか、当時東京支社営業部に赴任していた私はこれまで通り福岡の価値をテレビを通じて伝えるため精力的にセールスをしていたところ、北九州支社に異動を命じられました。

各政令指定都市にある県域テレビ局には本社と東京・大阪以外に、第3の営業拠点として小さな営業所をもっており、そこに配属されたのです。


目標を見失い、自分を振り返ってみた

小さな営業所とはいえ活動量を落とさないのが私の長所で、北九州には世界企業のTOTOや、無添加石鹸で有名なシャボン玉石けんの本社があります。
精力的に営業をしながら、それらのクライアントから大型契約をいただくことができました。

しかし、小さな営業所で往来する人が減ったからなのか、ときどき自分のことを振り返るようになりました。

人に感動を与えたいとテレビ局に入社しましたが、そもそも人に感動を与えて幸せになってもらうことが目的だったはず。

目標を掲げて作った番組や企画が、本来の目的である人の幸せにつながらないのは本末転倒なので、なぜテレビを見て人は幸せになれないのかと考えたとき、テレビで課題解決へ導くのは限界があることに気付きました。


課題を解決する仕事とは何だろうと思ったとき、紛争する国々を広告でつなぐ企業のCMを見て、商品メッセージを媒介に課題を解決することができることを知り、広告代理店に転職することになりました。


退職願を北九州支社の上司に提出し会社を去ろうと準備していたとき、本社の役員室から連絡がありました。

「会長があなたに話があるというので、来週本社に来てください」


テレビ西日本の寺崎会長は福岡の地域局ながら日本全国のテレビ局が加盟する民放連の副会長をいまも務めるなど、福岡マスコミ界の大物です。そんな人から一介の営業マンが呼び出しを喰らうなんて想像もなく、複雑な気持ちで本社に向かいました。


「お前が北九州でひとり頑張っているのを見てきた。会社はお前に期待して投資してきたので辞められては困る。お前が行きたい部署に行かせてやるから言ってみろ」と会長からストレートに言われました。


そこでアホな私が言ったのは「ありません」の一言。念願のTVディレクターになれるチャンスでしたが、自分でも不器用だなと思いながら、テレビでは人が抱える課題を解決することはできないと、自分の向かうべき方向は決まっていたのです。

さすがに怒られると思いながら下げた頭を上げたところ、会長は笑顔で「円満退社だ」と言ってくれました。

人に価値を伝えるにはどうすればいいのか

広告代理店では、海外の拠点で広告を制作する部署の営業部長として企業が伝えたいメッセージを作る仕事をしました。人に商品を買ってもらうためにどんなコンセプトを掲げ、どう表現し伝えていくか。

これまではマスメディアを通じて発信したいことを一方的に伝える仕事でしたが、人に商品やサービスを変える場所まで来てもらって、尚且つ買ってもらうための導線作りまで設計しないといけませんでした。


私はユニ・チャームを担当し、オムツの広告制作をしていました。オムツには花王などの競合社がいますが、製品の品質では正直言ってどこのオムツも同じなので「しっかり吸収!」というキャッチコピーがオムツを買うママに刺さらないようになっていました。


商品が凡庸化したいま、広告宣伝で必要になっているのは機能訴求ではなく、情緒的価値だと気付きました。いわゆる、買う人に寄り添った価値です。

ママの苦労に寄り添い、極論ですが「この会社の商品なら応援できる」といった価値を伝える表現です。


目的は人にそのサービスを受ける場所まで来てもらって、実際に買ってもらうことなので、この表現はいまの寺院価値を伝える活動に活きています。


母親の供養から学んだこと

海外で働いていた私は母親の命日に墓参りができず、父から預かった携帯できる小さなご本尊を持って自分で法事をしていました。

そのことを同じ海外で働く先輩に話したとき、「俺の親も高齢だし、万が一のときにお葬式をどう頼めばいいかわからん」と言ってました。

その先輩はよく実家に帰っていたと言いますが、菩提寺の住職のことを知らないと言います。


親と子供が一緒にお寺に行くことはないし、墓参りに行ってもお坊さんとは会えない。お坊さんが提供するサービスが法事などに限られるから、寺院の価値を伝える機会が少なくなり、寺院の価値が減少していく。

構造上の問題だと思いながら、自分も家族と一緒に法事を受けられない身近な課題があることに気付き、自分の先祖が眠るお墓のお寺を檀家の家族に知られていないとお寺が消滅してしまうと思いました。


自分がやるしかない


供養を受ける場所は急激に変わり、葬儀をする場所もセレモニーホールが中心になり、法事もネットで僧侶派遣できるようになりました。

檀家制度は崩壊するなか、これからのお寺は価値をどう伝え、相手の課題をどう解決していくか。その解決策として寺院広報が必要だと思います。

檀家離れになるひとつの理由は、住職が知られていないからです。信心をもって先祖を守っている活動を市民に伝えてきれていません。お寺に行かなくてもお坊さんの法話が聞ける時代に、住職の顔も出てこないお寺のホームページが多く存在しているのがいまの現状です。

これまで1000件以上、お寺のホームページを調べてきましたが、何のためにホームページを作っているのかがわからないものが多く、目標が定まっていないように思いました。

これまで長く伝え続けてきた仏教の智恵が人々を幸せにする機能的価値だとしたら、お坊さんは徹底的に来寺者へ寄り添い、共感してもらうための情緒的価値を伝える必要があります。

どこでも法事を受けられる時代に「このお寺だったら安心して相談できる」と信頼されるために、相手に寄り添った視点でメッセージを発信すること。


自分が経験してきた課題の解決事例を、両親への恩返しとしてお寺に返していく。これが私のしたいことです。


ストーリーを作り、寺院の価値を再構築する

これまで18ヶ寺、43名の檀家さんのお寺への感謝の声を聞かせていただきました。お寺を語るストーリーが共感を呼び、檀家の後継者やお寺に悩みを相談したい人へ伝わります。

どこのお寺の読経も変わらないと揶揄されないように、寺院が持つ独自のストーリーを伝えていきます。

今年もお寺に集まる感謝の声を聞かせてください。

令和3年1月1日


#寺院の広報代行
#僧侶の人柄記事

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