AMVとマンブルラップ

YouTube上でAMVにエモラップやクラウドラップを乗せた動画を投稿するチャンネルが2016年頃から数多く出現し始めた。AMVという単語を知らないヒップホップリスナーでも"デーモンAstari"や" TRASH 新 ドラゴン"の動画をみたことがある人は少なくないだろう。

AMVはYouTube上に数多く投稿されているが、これらのチャンネルで用いられるAMVは従来とは異なる性質を持っている。二次創作として、好みのアニメや音楽を再編集してその技法や嗜好を共有するという従来の目的だけでなく、インディーアーティストにとっての手軽なプロモーション手段としてAMVが活用されている。SoudCloud上で活動するラッパー達にとって、魅力的なイメージとともに登数万人~数百万人のYouTubeチャンネルに曲が紹介されることは、コストをかけて撮影した自前もMVよりも効率的で有効なプロモーション手段であるというわけだ。

この記事では、マンブルラップの文化がAMVの文化と合流するまでの経緯をまとめてみたいと思う。


マンブルラップについて

マンブルラップという他ジャンルとの線引きが曖昧であるため、エモラップやクラウドラップとの区別はここでは行わない。単に、2010年代に展開され始めたSoundCloudを中心としたヒップホップシーンの相称として捉えて欲しい。

SoundCloudをホームとしたラップシーンによって、ヒップホップは特定の場所や環境からの影響という従来の性質から解放された。様々ジャンルからの影響を受け、多様なバックグラウンドを持ったアーティストを結び付けながら、マンブルラップは発展していった。

SoundCloudで誕生したヒップホップシーンは2010年代後半になると、SpotifyやApple Musicなどの音楽配信サービスの普及や、デジタルディストリビューションサービスの拡充に伴って、メインストリームの音楽シーンにまで影響を与えるようになる。


YouTubeとマンブルラップ

2013年頃から、SoundCloudを中心として展開されてきたヒップホップ楽曲をYouTube上でキュレーションしてミュージックビデオを投稿するチャンネルが登場し始めた。

コール・ベネットによって設立された"Lyrical Lemonade"というブログは、当初シカゴやサウスフロリダの若手アーティストをピックアップした記事を投稿していた。2013年頃になると"Lyrical Lemonade"はピックアップしたアーティストたちのMVを撮影し、YouTube投稿しはじめる。"Lyrical Lemonade"は、Lil PumpやJuice Wrldといったクラウドラップ以降を代表する多くのアーティストのフックアップに成功した。

大規模なチャンネルや特定の地域に集中した音楽シーンであれば、撮影クルーを手配して実写のMVを撮影することも容易であるが、オンラインで活動する世界中のインディーアーティストにとって、実写を用いたMV制作にはハードルの高いものであった。

そんな中で、同時期にYouTubeに参入してきたAMVが、SoundCloudから活動領域を広げたいアーティストたちにとっての手軽で効率的なプロモーション手段として受け入れられるようになったと考えられる。

アメリカにLyrical Lemonade帝国を築く、若き野心家 Cole Bennett

AMVとマンブルラップ

日本のアニメ映像がマンブルラップで好まれて用いられていることには、様々な要因が考えれる。SoundCloudで活動するラッパーの多くが90年代後半以降に生まれたミレニアム世代であったということや、楽曲のリリックやメロディーが日本のアニメの陰鬱な雰囲気とマッチしていたことなどもその一つであろう。

その中でも、日本のアニメとマンブルラップを結び付けた大きな要因の一つに、”XXXTentaction”が挙げられるだろう。彼は、『NARUTO』に登場する”暁”をモチーフにしたアートワークやゲームのプレイ実況を行っており、アニメのファンであったことがファンに周知されている。

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また、これに影響されてか2016年頃から、”XXXTentction”や”$uicideboy$”の楽曲にアニメのバトルシーンを合わせたAMVが多数投稿されるようになった。

2016年にYouTubeに開設された”TRASH 新 ドラゴン”は代表的な例の一つである。XXXTentactionらのAMVを投稿しながら支持者やAMVエディターを獲得して規模を拡大していった。

”TRASH 新 ドラゴン”のようなチャンネルの特徴として、YouTube上で活動にとどまらず、ホームページでマーチャンダイスの販売を行っているということが挙げられる。YouTubeで十分な広告収益を得られていないことの表れであるということも考えられるが、こうした活動はYouTubeチャンネルのブランドとしての価値を高める一要因となっている。

現在”TRASH 新 ドラゴン”は、登録者が258万(2020/05/11現在)にまで拡大し、AMVを扱うYouTubeチャンネルとしては最大規模のチャンネルになっている。

また、同時期にYouTube上で流行していた、VaporwaveやLo-fi Hip Hopのような他のインターネットミュージックに影響を受けながら、AMVを投稿する様々なYouTubeチャンネルが開設されるようになっていった。

新しい二次創作のカタチ、AMVの魅力とは? | Danch Broadcasting

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