「パラサイト 半地下の家族」雑感

本年度のアカデミー賞・作品賞を受賞した「パラサイト 半地下の家族」はご覧になった方ももう多いと思います。

ポン・ジュノ監督らしい、社会的なテーマを映画的な美しい表現で彩った秀作だというのが最初の感想です。

前半、スパイ映画のような、流れを変えて行くテンポはとても良かったのですが、
そこから先は、個人的には大どんでん返しはなかったかなという印象です。
ただ、予算をたっぷりかけたという、二つの家を巧妙につかった密室劇としての魅力は存分に感じることができました。IT系企業のオーナーの豪邸と、半地下の家族の家、ほとんどのシーンが展開していくのは見事だと思いました。

特に物理的な上下感、階段や坂道といったものを使っての表現は黒澤監督の「天国と地獄」における「家」の位置関係を彷彿とさせました。

一方それぞれのシーンに、ドリフターズのコントに見られる「志村後ろ、後ろ!」という、観客をハラハラさせる仕掛けがコメディとして軽妙に進むところも妙味でした。

映画は予想される結末に進んでいく形だと、僕自身は思ったのですが、ストレートに描くと予想がつく展開を、映画的な映像美を存分に入れつつ、コメディっぽい演出を絡めて軽妙に見せたことが、この映画のヒットにつながったと思います。

ある意味で王道のコメディとスリラーをバランスよく混ぜ合わせたのが、ポン・ジュノ監督の抜群のバランス感覚と言えるかもしれません。

日本と韓国の映画製作における差異も課題になった作品ですが、映画振興やエンターテイメントにお金と人材をかけてきた両国の違いがアカデミーというものの中で評価されてきたのではないでしょうか?

特に国だけでなく、韓国のエンターテイメント会社であるCJエンターテイメントがキチンと人と予算をかけてきたことも重要な要因でしょう。そのあたりは日本ももっと学ばなくてはならないかもしれません。ハリウッドの内側に入り込み、その息吹を直接感じ取りながら作品を作り出してきたこの20年くらいの韓国の映画作りの力量が発揮されてきたということなのでしょうか?その辺り、世界への目線が日本のエンターテイメント界に欠けているのは否めないかもしれません。

カンヌ映画祭の「パルムドール」を獲ったことは、頷けるのですが、アカデミー賞まで獲れるというのは予想できませんでしたが、いずれにせよ、アジア勢がアカデミー作品賞をを初めて獲得したことは、大変価値があることだと思います。

僕個人が作品賞を獲って欲しかったのは、ネットフリックス制作の「アイリッシュマン」ですが、「パラサイト」はそれに勝るとも劣らない作品だったことは、間違いありません。

コンテンツプロデューサーの三枝孝臣です。メディアの現在と未来を僕なりの視点で語ります。ベンチャー企業経営者としての日々についても綴って行きます。