ゲーム業界は「3Dデータの使いまわし」について真面目に考えるべき時に来ているのではないでしょうか



<グラフィック製作コストが上昇しすぎている>

ゲームのグラフィック製作コストは未だに上昇を続けていて、PS5やXBOX SX世代のゲームになるとトリプルAタイトルだと200億円以上かかるのも珍しくなくなってきています。
そのうち、純粋に3Dオブジェクトの製造にかかるコスト(人件費等)は、全コストのうちの1/3を超えているでしょう。
最近unreal engine5で作られた色々な美麗なグラフィックのゲームが次々と発表やリリースされていますが、その製作コストもそれぞれ大変な事になっているでしょう。

ここまでグラフィックデータの製造コストが大きく上昇してしまったからこそ、「一作品だけで3Dデータを使い捨てるのではなく、別の作品でも使いまわして(二作目の)製作コストを下げる」というのをゲーム業界は真面目に考えるべき時にきているのではないでしょうか。

今回の記事ではそのための方法をいくつか提示したい。
「同じメーカー内で使いまわす」や、「二社間で業務提携して使いまわす」、さらに「複数社間で業務提携して使いまわす」などです。
 

<同じメーカー内で使いまわす>

過去の事例で言うと、フロムソフトウェアはPS2でアーマードコア3を出した後に、グラフィックデータの多くを流用してアーマードコア3サイレントラインを製作して制作コストを大きく下げるという事をしていました。
これ以降にPS2で出たアーマードコア何作品かも一部3Dデータを使いまわしています。
コーエーテクモも三国無双シリーズは新作を出した後に三国無双empireという派生作品でグラフィックデータを流用して制作コストを大きく下げたり。

このような感じで「同じメーカー内で3Dデータを使いまわして別の作品を作ってみる」というのは、今でも通用するコスト削減手法とも言えます。

たとえば最近カプコンがエグゾプライマルという色々な恐竜が登場するTPSゲームをリリースしましたが、これらの恐竜の3Dデータや背景のオブジェクトデータを使いまわす事でTPS視点のディノクライシスの新作などをずいぶんと製作コストを下げて作れるようになったわけです。(すでにそれを考えてエグゾプライマルを作ったのかもしれないけど)

フロムソフトウェアもダークソウルシリーズやエルデンリングに使った3Dデータを流用すれば、キングスフィールド新作も製作コストを大きく抑えて作れて、「ソウルシリーズほど売れなくても開発費を回収できるかも」みたいな事ができるでしょう。
TPS視点じゃなくFPS視点のゲームだとゲーム性もまた違ってきて、今なら多少ソウルシリーズのファンもキングス新作を買ってくれるのでは?

FF16もゲームで使用した3Dデータをそのまま使い捨てするのではなく、これらのデータを流用したシミュレーションRPG的な新作を作ったり、「アナザーFF」みたいな感じでFF本編とは別に新たなRPG作品を作っても良いのではと思ったり。
「ナンバリングの無いFFの名前を冠するRPG新作」というのは、FFブランドの再興にもつながるでしょう。
今度はアクションRPGじゃなくターンベースRPGにして、マルチプラットフォームで同時発売したり。

こんな感じで、ある程度のクオリティのある3Dデータをそれなりの量資産として持っている大手会社は、「3Dデータを使いまわしてもう一、二作品作ってみる」みたいなのを考えてみてはどうでしょうか。

また、大手に限らず「リリースしたけど人気が無くてサービス終了したスマホゲーム」も、それらのグラフィックデータを一部使いまわして別のスマホゲームを作ったり、コンシューマやPC向けのインディーゲーム新作で使って製作コストの削減につなげたり。

<データはそのまま使ってもいいし、多少変更しても良い>

3Dデータの流用の際はそのまま使っても良いし、モデリングを多少変更したり、テクスチャやマテリアルも少し変えてみるのでも良いでしょう。
使用の際に加工すると当然コストも増えますが、それでも一から製作するよりは製作コストは大きく下げられます。
また、ゲーム内のデータは「流用した3Dデータ」ばかりだと限界があるので、新たに製作した3Dデータもそれなりに追加する事になるでしょう。

<二社間で業務提携して3Dデータを提供しあう>

自社内だけでなく、二社間で業務提携をして3Dデータを提供しあうというのもどうでしょうか。
たとえばUBIソフトとアクティビジョンブリザードが業務提携し、「お互いが持っている大量の3Dデータを、そのままか、あるいはモデリングやテクスチャ、マテリアルを変更して使用しても良い」という風にします。
UBIソフトはアサクリシリーズやwatch dogsやその他から3Dデータを提供し、アクティビジョンブリザードはCODシリーズやディアブロシリーズその他から3Dデータを提供するという感じに。

アクティビジョンブリザードからすればwatch dogsシリーズで使われた大量の3Dデータを使いまわしてCOD新作をそこそこ製作コストを抑えて制作できるようになるでしょう。
現代を舞台にしたCOD作品に現代を舞台にしたwatch dogsの3Dデータが登場しても違和感はないし。
同じようにUBIにしてもCODシリーズで使われた3D素材を流用してwatch dogs新作を作れば製作コストをそこそこ抑える事ができるわけです。
もちろん、全部のデータを流用データだけでまかなうのは無理がありすぎるので新規データもそれなりの量製作する必要はありますが、「全ての3Dデータを新規作成」よりそれなりに製作コストを抑える事ができるわけです。

ユーザーからすれば「CODシリーズ内で登場した3Dオブジェクトの一部がwatch dogsで見かけても、そこまで気にするほどの事ではない」という風になるでしょう。

こういう感じでいくつかの大手は「3Dデータ素材共用のための二社間での業務提携」を考えてみてはどうでしょうか。
「子会社ではない開発会社にゲームを製作してもらった場合、その3Dデータの権利はどうなっているのか?」という難しい問題はあるでしょうが。

<複数会社間での業務提携>

さらにこの考えを発展させ、

・カプコン
・スクエニ
・KONAMI
・バンダイナムコ
・UBIソフト
・アクティビジョンブリザード
・コーエーテクモ
・ソニー
・マイクロソフト
・(switch2が出た後の)任天堂
・その他欧米やアジアのそこそこ大手の会社

などで、「それなりのクオリティの3Dデータを大量に持っている大手が連携し、各社が3Dデータを持ち寄って膨大な数の3Dオブジェクトライブラリを構築し、参加企業はそれらのデータをそのままあるいは多少加工して使用できるようにする」と、ゲーム製作のコストをそこそこ抑えて参加企業の利益率は向上するでしょう。

今の「あまりにも一作に製作コストがかかりすぎる」という馬鹿げた状況は、リリースしたゲームが思ったほど売れなかった時に各社の経営に大打撃を与えかねない事になっていますが、そのリスクを多少緩和する事につながります。

また、参加企業間で毎年いくらかの金を出し、その金で3Dグラフィッカーをそれなりの人数雇って色々な3Dデータを毎年新規で制作させ続ける事でもライブラリの3Dデータをどんどん増やしていけるでしょう。
「ゲーム業界の発展のために」と日本や各国の政府からそれぞれ数十億円ずつ毎年支援金を提供してもらってライブラリの3Dデータを増やしていく事も検討してみてはどうでしょうか。

最初は大手だけが参加し、じょじょに中小にも一作品ごとにいくらか使用料を請求する形でこの膨大な数の3Dオブジェクトライブラリをそのままあるいは加工して使用できるようになると、グラフィックのクオリティを上げた作品を中小も作りやすくなるというメリットがあります。
中小から徴収した使用料でさらに3Dデータを増やしていけば大手にもメリットがあるし。

また、VIZ分野(映画やドラマ、CMや、建築映像関係)などに「一作品につき使用料をいくらか取る」という形でこれらの膨大な数の3Dオブジェクトを映画やCMやドラマ、建築映像などでも利用できるようにすると、世界中の何千社もの企業が利用するようになってそれらの使用料でまた新たに3Dグラフィッカーを増やしてオブジェクトをどんどん増やしていけます。

「ゲームでは基本的に一作品ごとに3Dデータは使い捨て」というのは今まで当たり前のようにやってきました。
でも、グラフィック素材の製作コストが大きく膨らんだ今だからこそ、従来とは違ったアプローチも考えてみて、「製作コストを多少削減できる手法」を取り入れてみてはどうでしょうか。
大手の場合、私が提案した手法で年間の利益は毎年数十億円増えるのではないかと思います。
株主にとってもこの提案は見過ごせない情報ですね。

「内容的に面白かった」と思ったゲーム業界関係者の方は、良かったらこの記事をtwitterなどで紹介してそちらでさらなる議論を続けてみてください。
CESAなどの業界団体関係者も一度真面目にこの話を参加企業間で協議してみてはと思います。

今のゲーム業界はグラフィックの製造コストがあまりにも上昇しすぎて、この状態は非常に危険だと思います。
かといって「今さらグラフィックのクオリティは下げられない」という問題もあるし。

3D素材の流用は「製作コストを下げる」だけでなく、「ソフトの製作期間を多少は短くする」というメリットもあり、今の「大作だと一作品だけで5年以上かかる」という状況もある程度緩和できるでしょう。
家庭用ハードが出る頻度がだいたい7年に一度なのに、「大作だと一作品に5年以上かかる」というのはやはりさすがにどうかと思います。
次の世代機も前世代機と互換性があるとは言え、「大作でも一作品は3,4年くらいでリリースできる」くらいにはなって欲しい。
そのためには「ゲームに登場する一部の3Dデータは過去作品から流用する」が必要なのです。

膨大な数の3Dオブジェクトライブラリが構築されると、ゲーム作りも大きく変わってくるでしょう。