AIによって変化した、「絵の買い方」の話。

【前置き】


こんにちは。そうでなければこんばんは。
ちょっと前、『「AIに仕事を奪われた絵師」な訳だが』というnoteを書いたら、誇張抜きで予想の1000倍の人のもとに届いてしまった。

ビビったのだが、こんなものでもたくさん反応を貰えると嬉しくなる。
一発捨て垢のつもりだったのに、100人以上の人がフォローしてくれたと思うとまた何か書いてみたくなった。

何を書こう。
前回のnoteでは、「売る側」としての体験談を書いたから、今回は「買う側」としての体験談にフォーカスしようかな。
……というのが、今回の記事。
なお、今回の記事は前回の記事よりもさらに個人の経験に依拠していて、偏った意見も多い内容だから、その点了承の上で次にどうぞ。

さて、前回のnoteも、ちょっとだけAIの台頭によって変わった「買い方」について書いた。最初にその部分の要約を置いておく。

〜ここから〜


依頼してたのはマイキャラ、オリキャラのイラスト。
頼むのは1枚数千円くらいのイラストで、月に1枚から多くて3枚。月に1~2万円くらい。これがAIが出てきてどう変わったかと言う話をする。
結論から言えば、「依頼数は減ったが、使用額は同じ」
これまでは質が低くてもいいから枚数を優先して安い依頼を選んでいたのだが、今はそう言った画像を作るのはAIに任せて数ヶ月に1度しっかり吟味したイラストレーターさんに数万円の絵を頼んでいる。

〜ここまで〜

具体的にはどういう層から買わなくなって、どういう層から新しく買うようになったのか。そしてその上で、どう考えているのか。
今日は、そういう話をする。

【依頼の価格帯と、内容と、変化】

『500円〜2000円帯』

最安価帯。月に2~5枚ほど頼んでいた。
AIが出てきても、変わらず結構頼んでいる。
こんな価格で絵を売る人間、いるのか?って感じだけど、いる。
大手コミッションサイトの最低金額はだいたいこの辺。
提供されるイラストの内容は、「首〜肩上のアイコンイラスト」「ミニキャラ」が多い。
捨てても惜しくない金額なので、ガチャを回す感覚、もしくはクリエイターへの応援お布施のつもりで依頼していた。

この価格帯で絵を売る人は、実はかなり熱心に対応してくれることが多い
なぜなら、「絵に値段がつくこと自体に喜ぶ超初心者」率が高いからだ。

クリエイターページの文章から、イラストを初めて売るときの不安感が伝わってきて、サンプルイラストを見ると自分の絵の中で「特にうまく描けた物」を選んでいるのが明らかなクリエイターさん。
絵でお金を稼いだことが過去一度もなく、人生初めて、絵に価格をつけてみました!って人もたくさんいる。
正直に言おう。かわいい。

はっきり言ってこの価格帯だと絵のクオリティは私から見てさえ未熟なことが多いのだが、クリエイターさん本人がとにかく一生懸命だ。
「依頼された」こと自体を喜んで、こちらの期待に応えようと全力を尽くしてくれるのが伝わってくる。
こういう相手に依頼するときは、最終的なイラストよりも相手の熱量、込めてくれる心に対してお金を払っていると言っても過言ではない。
1000円の依頼に応援の意味で1000円ブーストしただけで申し訳なくなるくらい喜んでくれる。払う金に対する満足度がものすごく高い。
納品して貰った絵を見ていると、クリエイターさんが依頼内容を聞くときにオリキャラにかけてくれたたくさんの褒め言葉が蘇ってくる。これはAIで代わりにはならない。

あと、この価格帯には他に「落書きがしたい欲を発散するついでに小遣い稼いでる人」「依頼数稼ぐために一時的な大幅値下げしてる人」「単純に異様に筆が早い人」などもいる。
こういう人は当然ある程度依頼を貰ったら閉じてしまうので結構レアなのだが、価格に対して提供されるクオリティが異様に高いことが多い。
これ10分で描いただろ、みたいな超落書きが納品されることもしばしばあるけどね。当たりを引くいた時の満足度は生成AIを上回るのでので、やっぱり変わらずたまに頼む。

『3000円〜5000円帯』

安い方だが、最安価ではない価格帯。月に1~3枚程度頼んでいた。
ほぼ頼まなくなった。
提供されるイラストの内容は最安価帯と変わらず「首〜肩上のアイコンイラスト」「ミニキャラ」が多い。たまに腰くらいまで描いてくれる人もいる。

この辺になると、依頼1件でクリエイターに入る金額が数千円になるので、ちゃんと「稼ぎ」狙いの人がちらほら現れ、絵もそれなりに上手くなる。
ただ、それなりなので、AIでよくなってしまって頼まなくなった。

この価格帯で望めるイラストは、「シンプルな構図で、背景のない、キャラクター1名のイラスト」。AIがもっとも得意とするところだ。
「クリエイターに頼んで描いて貰った絵」を、コスパの面でもクオリティの面でも手に入るまでの時間の面でも「AIで出したイラストの破綻部分だけ、30分でセルフ修正した絵」が上回ったので、こっちでいいやってなった。

とはいえ全く頼まなくなったわけではない。
以前依頼して、「価格以上のクオリティのイラストを納品して貰った」と感じたことがあるクリエイターさんへのリピートは今もやっている。

でもこの価格帯で、過去に頼んだことのない人に新しく依頼することはほぼなくなった。イラストレーター応援の意味で冒険依頼するなら、5000円依頼1枚より1000円依頼5枚の方がこっちの満足度も高いし。
中途半端な価格帯だったのだ。

『7000~10000円帯』

個人のコミッションでは一般的な価格帯。月1程度で頼んでいた。
頼まなくなった。
このあたりの価格で初めて、「背景付きの一枚絵」とか、「全身イラスト」を頼むことができるようになる。
Skebのおまかせ金額をこの間にしている人の割合はかなり高いように思う。

一枚絵が欲しい時に払うべき最低ラインの金額なので、前はよく依頼していたのだが、AIが出てからは一番頼まなくなった。

なんというかこの価格帯、クリエイターの意識が低い率が異様に高い。
これは仕方ない面があって、7000~10000という価格は「依頼する側からすれば十分に大金だが、依頼を受ける側からすれば安すぎる」金額なのである。
加えて言えば、過去の私のような、「プロにはなれないアマチュア絵描き」が一番多い価格帯でもある。

正直、売る側として一枚絵が10000円が安いのはわかる。
私が一枚絵を描くとき、キャラクター1人で簡単な背景だとしても6時間くらいはかかる。実際に依頼を受ける時はこの時間に加えてクライアントからのヒアリングにラフ提示等のやりとり、場合によってはリテイク……
諸々合わせて10000は、割に合わない。
(割に合わないから実際自分が10000円以下で売るイラストは長くて作画4時間程度のキャラクター立ち絵がメインで、背景は別料金にしていた)

でも、買う側としてはイラスト1枚に10000円って結構な大金だ。
10000円あれば映画を5回観られる。フルコースが食べられる。漫画をフルセットで揃えられるetc…それと同じだけの満足感を求めて依頼する。

この価格帯の依頼で、その期待が報われることははっきり言ってあまりない。やりとりの最中、対応の節々に「安い依頼だからこういう対応でいい」という感情が透けて見えることが多い。

「向こうにとっては安い依頼なんだから」と自分を納得させて文句は言わないが、納期をぶっちぎられたり、指定と違う修正をされたり、こっちの依頼を放置してXでFAを描いているのを見るたびに不満が溜まる。

もちろん、クライアントを軽視する相手が全員ではない。しっかりと金額分の仕事をしてくれたクリエイターさんも多かった。
でも残念ながら、人間は往々にして悪い印象の方が強く残る生き物だ。
私が「この価格帯にはこういう不満を覚えることが多い」と、数年にわたる数十件の依頼を通して思ったのは紛れもない事実である。

AIは、1枚10000円のイラストに相当するクオリティはまだ出せない。本気で生成AIを学んでいれば可能かもしれないが、私のような素人には難しい。
しかし、この価格帯は、私に取って「本当はもっとお金を乗せて良い対応をしてくれるイラストレーターさんに頼みたいけど、お金がないからこのラインにしよう」という、妥協の依頼ラインだったのだ。

AIで3000円〜5000円帯に該当するイラストが量産できるようになり、そこで使わなくなった分のお金が浮いたので、「本当はもっとお金を乗せて良い対応をしてくれるイラストレーターさんに頼みたい」が実現できたのでこの価格帯とはオサラバすることになった。

余談だが、自分が売っていたものが、自分自身が買おうと思わなくなった層の絵だからというのも、売るのをやめた理由の一つである。

『20000~50000円帯』

ここまで出すと、「本気の絵」を依頼できる。複数人も背景も望める。
AIが出てから、 1~3ヶ月に1度程度の頻度で頼むようになった。
この価格帯の絵を依頼するようになった経緯については、上に書いているのでもういいだろう。
他の価格帯の絵を頼まなくてよくなったので、使える金が増えた。
その分を、これまでは高価で手が出なかったラインにぶち込んだ。以上。

数万円の依頼、ものすごく満足度が高い。
こちらの出した依頼から、要望以上の内容を汲み取ってくれる。
細かい装飾や表情、自分で描くよりもずっと繊細に表現してくれる。
私の頭の中にないストーリーを表現してくれる。

すごくいい。AIなんか足元にも及ばない。
AIって結局は道具だから私の命令に沿った絵しか出力できない。
つまり、私の想像力の外には行かない。
彼らは、クライアントの想像を平気で超えてくる。
金を払う価値を感じる、「クリエイター」だと思う。

……まあ、この価格帯で絵を売ってても平気で納期ブッチしたりパケ詐欺レベルにサンプルと納品物に差があるイラストレーターも結構ゴロゴロいるようなのだが。
幸い今は大インターネット時代、評判は事前に調べられるので、今のところ自分がそういった相手に遭遇したことはない。
「現時点で」「個人的に」この価格帯に対して抱いている印象は「やっぱ金を払うと違うなぁ!!」である。

【結論】

以上。これが、私個人「依頼数は減ったが、使用額は同じ」の内容だ。
ずっと「質より量」派だったが、低い質のイラストなら簡単に量産できる環境を手に入れたので、「質を重視する余裕」ができた。
総合的な満足度は、圧倒的に上がっている。

先月も40000ほど出して、オリキャラ2人の絡みイラストを描いてもらった。PCの壁紙にしている、大満足である。見るたびに目が喜んでいる。
依頼品を眺めて気色の悪い笑みを浮かべながら、たまに出てくる「これもいいけど新しいイラストが欲しいな……」欲は生成AIと超低額の依頼で紛らわして、また来月か再来月、「ちゃんとした依頼」ができるだけのお金が溜まるのを待っている。

長々書いたが、結局たどり着いたところは前のnoteとそう変わらない気がする。
「そこそこ上手い絵がもらえるだけ」の依頼は、多分もうしない。
これからは「価格以上の心を込めてもらえる」依頼と、「価格以上のクオリティを期待できる」依頼を積極的に行うだろう。

これから。
これは本当に、超個人的な予想だが、「まあまあ安い絵」が減って「高い金を出すに値する絵」が生き残ることで、イラストの平均価格自体は今後高まるのではないかと思っている。
で、これは絵で食いたい人にとっては結構いい側面もあるんじゃないか、とも。

前のnoteで書いた私の稼ぎの話。200依頼で160万。安いだろう。
実際「160万で優遇wwwww」という嘲笑コメントがたくさんついていた。

私はそもそもがプロレベルではないアマチュア絵描きなので、「私なんかの絵でも1年に160万円分も売れるなんて、すごいイラスト優遇時代だ」と考えて前回のnoteを書いたが、それはそれとして、確かに年収160万は一般的には安い。でも依頼数に関しては、「すごく多い」という意見が大半だった。

すごく多い数の依頼を受けてるのに、稼ぎの総額はバイト以下。
つまりやっすい絵いくら大量に売ったところで、食えるようにはならない。
「イラストレーター」一本で食っていくなら、イラスト1枚あたりの価格を引き上げなければならないのだ。

明らかに「そこ」に該当する立場で言うのもなんだが、ここ数年のイラスト市場はアマチュアに食い荒らされて価格崩壊していたとよく言うし、その通りだと思う。

そこそこの絵を、1枚数千円というプロならありえない安価で投げ売るアマチュア。もちろんプロには及ばないのだが、「そこそこの絵が欲しいだけ」の人間はそっちに流れる。適正価格で絵を売りたいプロから見ればたまったものではないだろう。
でも、そのアマチュアが、今後弱体化しそう。
そこそこの絵を、1枚数円という人間ならありえない価格で出してくれるAIが出たから。
こういう視点で見ると過去のプロから見たアマと、今のアマから見たAIってよく似ている気もする。

アマチュアとAIで違うのは、コストだ。アマチュアはアマチュアといっても人間だから、プロほどではないけどそこそこの額のお金をもらう。
AIは数円。その分のお金がクライアントに残る。残ったお金は他に回る。
その中には、私みたいな「浮いたお金を他の依頼に上乗せしよう!」タイプもいるだろう。
もちろんAIがイラスト作ってくれるからもう人間への依頼はいいという人もいるだろうが、全体的に見ればアマチュアがもらっていたお金がプロに回る構図になるんじゃないかと思っている。

お金を出してもらえる絵が減る代わりに、1枚の価格が上がる。
「絵でお金を貰えるようになれば、絵だけで食える」率が上がる。

スタート地点に立つ(絵でお金を貰えるようになる)までの倍率は圧倒的に上がるだろうけど、絵の練習はお金もらわなくてもできるし。
悪いことばかりでは、ないと思う。

もっともこの意見には、私自身の体験から来る「食えるレベルではないが、稼げて”しまう”状態は、長期的に将来を考えるとあまりよくない」という考え方がおおいに影響しているので、かなり偏っている自覚はあるが。

なお、企業の行う依頼の話は別。これはあくまで「私」という個人の、ミクロな視点の話だ。

私は依頼したイラストも、AIで出したオリキャラのイラストも、すべて個人端末上での鑑賞のみに使っていてSNSへのアップロードさえしていないので著作権等の心配をする必要がなく、ゆえに「結果として手元に残るイラストと、そこに至るまでの過程で得られる満足感が、自分が提供するものと釣り合うかどうか」だけ考えてこのnoteを書いた。

企業だと……多分、また別の基準があるだろう。
個人的には、「権利関係が面倒くさくない」というメリットがものすごく大きいから、企業の方がむしろAIを使いたがるようになる……もうなっているのではないかと思うけど。駅前とか街中とかで、AIイラストを使ったポスター、結構見るようになってきたし。

「特定SNSで反対派に見つかったら怒られる」というリスクはあるが、それだけだ今のところは使っても、使ったことを黙っていても、法律上は何も問題ない。
今後規制される可能性があっても、規制されたらそのときにルールに従えばいい。使用することによって企業の信頼が失墜?しないと思う。使用するAIを画像生成AIに絞った上で、メインコンテンツが「絵」ではない企業に限って言えば、だが。
人間、絵を描かない層が99%。さらに絵を描く層の中でもAI許すまじの姿勢を保つ人はせいぜいが10人に1人。0.1%に嫌われたところで、失墜するわけがない。完全に無視していい割合でもないが。

人間は利害の生き物。企業に対する信頼を失うのは、自分が損をさせられた、危険にさらされた、不利益を被ったと感じた時だ。どこかで誰かが被っている不利益は、自分の利益のためならスルーする。
フィリピンの労働問題を知りながら、一房200円でバナナを買うように。

大抵の問題において、この世のほとんどは傍観層無関心層
◯人のアンケートで◯%が〜…とか言うが、アンケートを見つけて答えている時点で「興味関心が特に強い一部の人間」だ。そんな狙って出したパーセンテージ、何の指標にもならない。

一部のイラストレーターがその企業がAIを使っているのを見て苦しみました!とか、大多数の一般ピーポーにはどうでもいいことだ
こちらも翻訳AIや医療AIはどうでもいい、自分たちに不利益をもたらす画像生成AIだけ駆逐しろと言い続けているのだから、責められまい。

……だから、生成AIとバレた瞬間燃やされる今の状況は本当によくないと思うのだが。自分たちが苦しいのでルールを変えてくださいと国に向かって叫ぶのは(褒められたものではない文章もよく見るが)いいと思う。
しかし、ルールが許している状況で「最終的にルール違反になるんだから使うな!!」はダメすぎる。

ある企業が生成AIを使っていて、それが問題だと感じたら、「この企業の使い方にこういう問題があるので、できないルールを作ってください」と主張すべきなのに、何故かSNSでは企業を直接叩いて引っ込めさせて勝利宣言をする。それだと最終的に「SNSにアップロードせずに黙って使う」が、最適解になるのは自明だ。
安い・早い・権利が面倒でないという明確なメリットがある以上、単純に「はいわかりました、人に不快な思いをさせてはいけないので2度と使いません」となるわけがない。企業が考えるのは、どうやったらお金がたくさん稼げるかだ。
使うメリットとデメリットを秤にかけて「こっそり使うのが一番メリットがある」と判断されたらどうするつもりなのだ。
本気で隠されたら素人には見抜けない。某フォロワー20万人のAIトレパク絵師なんていい見本だ。

でも、これだけ書いてなんだが、この辺の「大きな規模」は本当に自分が正しく認識できているかどうかがわからず、間違った認識ででかい声を出してしまうのも怖いから、基本的に変化を眺めるだけにしている。

長くなってしまった。文章を書くのもなんだかんだ楽しいな。
夜もふけてきたので、このあたりでこのnoteを締めくくろうと思う。

またどこかで。

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