伸展運動時に起きている腕橈関節の橈骨頭の動態

Dani Rotman, et al.: Radial Head Lag: A Possible Biomechanical Mechanism for
Osteochondritis Dissecans of the Capitellum in Baseball Pitchers. Am J Sports Med.49(12).3226-3233. 2021

 本日は、伸展運動時に起きている腕橈関節の橈骨頭の動態について、ご遺体を用いて検討された論文を紹介します。

 現在、上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎(以下、OCD)の発生メカニズムは明らかとなっていません。しかし、上腕骨小頭に繰り返し生じる圧迫や剪断といった力学的な刺激が影響している事は間違いありません。投球において、その刺激は後期コッキング期から加速期にかけて特に高いとされています。そのフェーズでは上腕三頭筋による急速な肘伸展が起きる場面でもありますが、上腕三頭筋は尺骨に作用するため、基本的に橈骨は尺骨との靱帯および筋の一部によって追随して伸展することになります。

 この研究では、橈骨頭は急速な肘伸展時に腕尺関節の伸展運動に遅れをとる、と仮説を立てられています。要するに、腕尺関節が90度伸展した時に腕橈関節は90°伸展していない可能性があるということです。もし、このズレが存在すれば圧迫力、剪断力を増強させ、OCD病変の形成に寄与する可能性があります。その結果、ご遺体にワイヤーをかけて投球動作を模倣した急速な自動運動を行うと、腕尺関節に対して腕橈関節が遅れることが判明しました。別の研究のデータでは、後方亜脱臼(2-4mm)することで腕橈関節の接触面は29-57%減り、接触圧は33-133%することが判明しています。後方亜脱臼が生じている症例ではボールリリース前後で腕橈関節に強い刺激が加わっている可能性が明らかとなりました。

感想
この報告から、近位腕橈関節の安定性に関与する軟部組織に機能低下が生じていれば、この“遅れ・ズレ”はより顕著になる可能性が考えられました。実際にOCD症例は近位腕橈関節の不安定性が生じているのかどうか、評価してみたいと思いました。さらに、OCDでない小中学生においても、腕橈関節の不安定性を評価することでOCDの発生予防に役立てられないかと考えております。

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