頚椎に関する基礎知識:頚椎症性神経根症患者における頚部伸筋群の脂肪浸潤と平衡機能との関連性について

今回は、頚椎症性神経根症患者における頚部伸筋群の脂肪浸潤と平衡機能との関係について紹介させていただきます。
 
頚椎症性神経根症患者における頚部伸筋群の脂肪浸潤と平衡機能との関係について
‐MRIを用いた頚部多裂筋および僧帽筋上部線維の筋肉内脂肪計測‐
光武 翼 ほか:理学療法学.41(2):66-74.2014

概要
 外傷性頚部症候群において頚部伸筋群の脂肪浸潤の割合が高く、特に頚多裂筋の筋内脂肪が増加しているとの報告が良く散見されます。一方で、慢性頚部痛患者での報告は少なく、著者らは、MRIを用いて頚椎症性神経根症患者における頚部伸筋群(頚部多裂筋・僧帽筋上部線維)の脂肪浸潤の程度を評価し、健患差や平衡機能との関連性を検討しています。その結果、僧帽筋上部線維と比較して頚部多裂筋において筋内脂肪の増加を認め、尚且つ、障害側で有意であり、頚部多裂筋の脂肪浸潤と平衡機能との間に相関関係を認めたとしています。この結果から、神経根の圧迫に伴う脊髄神経後枝内側枝の障害とTypeⅠ線維を多く含む頚部多裂筋の解剖学的特徴が相まって、障害側の頚部多裂筋に脂肪浸潤が生じたと考察されています。また、過去に頚部筋の障害による頚部固有受容器の異常は前庭神経に影響を及ぼし、その異常興奮が上行性の脊髄網様体を経由して脳幹に伝達され、平衡機能異常を生じさせると報告されています。そのため、著者らは筋紡錘を多く含む頚部多裂筋の障害に伴う頚部固有受容器の異常が、前庭神経核における前庭覚との感覚統合に影響を及ぼし、重心同様に反映した可能性があると報告されています。

※前庭神経核:頚部固有感覚と前庭覚を統合する機能的役割を持つ

感想
 姿勢制御において、体性感覚(固有感覚)、前庭感覚、視覚が非常に重要となります。その中で、固有感覚においては筋紡錘の役割が重要とされ、解剖学的に頚多裂筋は筋紡錘を豊富に含みます。そのため、頚多裂筋は頚部屈曲方向への動的支持機構としての役割に加えて、後頭下筋群と協調して頭頚部の固有感覚情報の伝達に関与していることが伺えます。さらに、前庭感覚(前庭神経)との関連性も報告されていますので、頚多裂筋の機能は姿勢制御において非常に重要であることが分かります。本報告も踏まえ、臨床においては頚多裂筋や後頭下筋群などの機能を評価する必要性を再確認できました。

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